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武藤副総裁記者会見(2月2日)要旨
2006年2月3日
日本銀行
──平成18年2月2日(木)
愛媛県金融経済懇談会終了後
午後2時から約40分間
【問】
本日の金融経済懇談会での地元との意見交換等も踏まえて、愛媛県の景気状況に関する評価を伺いたい。
【答】
午前中、加戸愛媛県知事をはじめとして、金融経済懇談会にご出席頂いた各界の代表の方々と、忌憚のない意見交換をさせて頂いた。
懇談会において出た話だが、愛媛県の経済は、IT関連財の在庫調整進捗による関連産業の回復、あるいは雇用情勢の改善傾向から、個人消費が持ち直すことで、昨年の終盤には1年余り続いた景気の踊り場も漸く終わりを告げ、県全体として、緩やかながら回復過程に復帰したと思われる。製造業中心の回復と言われていたが、最近では、小売業・卸売業・運輸業など、非製造業にも明るい兆しが見え始めており、景気回復の裾野の広がり、あるいはバランスの取れた回復という感じが窺われる。
総括としては今申し上げた通りだが、地域間の格差、あるいは業種間の格差は、全国的にもまだ残っているが、当地においてもみられると思う。東予・中予・南予という地域間の格差は、色々な形で出席者の方からご発言があったが、どちらかというと、南予の一次産業中心の地域経済が、出遅れ感があるとみられる。そうした地域間格差に対して、色々な形で格差解消のための取組みが、県の政策として積極的に取り組むという話や、民間においても、そういう取り組みが行われつつあるということを伺っており、こうした地域の人達の意欲の盛り上がりが、結局は、回復の裾野をさらに広げるということに繋がると期待している。
【問】
日本全体の景気が回復する中で、中央・地方の格差や地域内の格差が拡大していることについて、改めて、どのように評価しているのか。また、今後の金融政策運営に当って、このような格差の拡大をどのように考慮するのか伺いたい。
【答】
今申し上げたとおり、地域間格差というものが、例えば愛媛県をみても東予・中予・南予という形で出席者の方々からご指摘があり、私どもも、松山支店による様々な調査の中から、そういう問題があるのを十分認識している。有効求人倍率をとっても、明らかに、製造業中心の東予ではかなり改善しているが、その他の地域についてはそこまでなかなかいかないといった状況にある。
ただ、マクロ経済でみると、内需、外需ともに、バランスの取れた回復が続いており、地域にも次第にそれが広がっていることが、最近における新たな展開だと思っている。先月、日銀支店長会議を開催したが、地域によってレベルにこそ相当のバラツキがあるものの、この回復局面で初めて、何れの地域においても景況感に改善の動きがみられることが報告された。
日本銀行として、金融政策を運営するにあたり、地域経済の状況をいかに把握するかは、大事な点だと思っている。ご承知かもしれないが、昨年4月から、表紙の色にちなんで「さくらレポート」と呼んでいる地域経済報告を公表している。そういう地域の実情を踏まえながら、金融政策運営を行っていきたいと思っている。
【問】
愛媛県では、昨年10月に「財政構造改革基本方針」を策定したが、この評価も含めて、地方財政の方向性と地方経済への影響について見解を伺いたい。
【答】
県の「財政構造改革基本方針」については、金融経済懇談会で加戸知事からもお話を伺った。県財政が、これから4年間で1,600億円の赤字が見込まれる中で、持続可能な財政構造への転換を図ることを目的として、歳入・歳出両面にわたる徹底した見直しを行うことを目的に定められたものと伺っている。
地方財政のあり方については、国の予算編成においても、大変重要な課題として取り上げられていると理解しているが、国から地方へという流れの改革の中では、地方が決定すべきことは地方が自ら決定する、地方のニーズに応えるための行政システムを作るということが、改革の基本として行われている。今までの、公共事業を通じて景気回復を行うというような従来型の財政政策は、徐々にメカニズムそのものが変化、変容しており、地域の民間企業自身が、自らの地域特性を活かして、付加価値の高い製品あるいはサービスを提供するために、必死に模索されていると思う。地方自治体における施策が、このような民間企業の取り組みをどのように引き出していくか、活かしていくかという観点で展開され、新しい地域経済が形成されていくことを期待している。
【問】
愛媛県の場合、東京から1年遅れで景気の波がやってくると言われているが、地域経済の活性化について、本日の金融経済懇談会での議論も踏まえて、副総裁からアドバイスを頂きたい。
【答】
一朝一夕にはいかない大変に難しい問題だと思うが、地域経済の活性化というのは、結局は、地域の産業、企業、そこで働く人達の活性化ということになる。
そのためには、第一には、地方公共団体、経済団体、地元金融機関といったような主要な経済主体が、一丸となって再生あるいは創業といったようなことを支援していくことが重要ではないかと思う。そういう体制の中で、人々のチャレンジ精神を育てる、人材を育てる、それから、他の地域にない新しい産業、商品、サービスにそれを繋げていくことで、育成すべき若い世代をどうやって惹きつけるかという観点も、大変重要だと思う。
第二には、この地域ばかりではないが、少子高齢化が進んでいる中、女性、高齢者をどのように有効に活躍できるか、女性、高齢者が働きやすい労働環境をどう作るかといったようなことが、課題だろうと思う。
これらについては、それぞれ地域の努力があり、再生ファンドの創設などが既に行われているほか、経済団体等が色々な取組みをしていると伺っている。加えて、高齢者、女性の労働環境整備のため、県でも既に政策を展開されようとしており、そういう取組みが大事であろうと思う。
特に、地域経済の活性化を考えた場合に、この地域の特色をいかに活かすかということが重要である。少し経済の問題から離れるかもしれないが、この地域には、歴史的な遺産あるいは、文化的な伝統があると理解しているので、それはこの地域の特色であり、強みでもあると思う。そういうものを活かしながら、今申し上げたような活性化の努力に取り組んでいくことが重要であろうと思う。
【問】
先日、地元の信用金庫同士の合併が発表されたが、この評価も含めて、地域金融機関の再編の方向性について、見解を伺いたい。
【答】
今お話のあった、愛媛信用金庫と三津浜信用金庫については、この10月に対等合併することが決定したと伺っている。経営資源の有効活用、あるいは強固な経営基盤を構築するということが目的であろうと思っている。
今の地域金融機関には様々な環境変化が起こっている。規制緩和とか、金融技術革新といったようなことが進んでいる中で、多様化するニーズにどのように地域金融機関として応えていくのか、あるいは様々な取り組みが行われつつある地域経済活性化をどのように金融機関として支えていくのか、といったことがこれからますます重要になってくる。この金融機関再編は、今申し上げたような金融機関に対する期待に応えていくための重要な経営上の選択肢の一つであると思う。
日本銀行としては、こういう地域金融機関の経営基盤の強化、金融サービスの向上は重要なことだと認識しており、今回の合併で地域経済に更に貢献していくことができるように、私どもとしても期待をしているところである。
【問】
量的緩和解除後の市場との対話について改めて伺いたい。一部メディアとのインタビューの中で、量的緩和政策解除後に量的緩和政策の時間軸の効果がなくなる中、なんらかの「道しるべ」が必要ではないかとのお考えを示されたが、改めて具体的にどのようなイメージ、考えを持っているのか伺いたい。また、本日の講演の中でも、インフレーション・ターゲティングを導入している国もあれば、声明で対応している国もあると言われたが、日銀としては将来どのようなものが相応しいとお考えか。
【答】
大変重要なご質問である。中央銀行として繰り返し申し上げていることだが、金融政策の透明性を高めることは、説明責任を果たすという観点からも、金融政策の有効性を高めるという観点からも、重要な課題だと思っている。中央銀行は、金融市場、金融機関行動を通じて金融政策を行っており、そういう意味で透明性の向上が重要だと思っている。
講演でも申し上げたように、展望レポートの見通しに沿って先行きの経済が進展すると仮定すると、2006年度にかけて、金融政策の枠組み変更の可能性が次第に高まっていくと思われる。そういう状況の中で、どのような透明性向上のための対応をしていくか、そしていつそれを行っていくかということは、コミュニケーションポリシー、あるいはマーケットとの対話といった観点から大変重要であるという基本認識を持っている。これが、「道しるべ」という言葉を使って申し上げたかったことである。
具体的にどういう枠組みが、金融政策の透明性を向上させるのかということについては、中央銀行を取巻く環境によっても異なり、従って国によっても異なり、様々なバリエーションが存在していると思われる。そういう中で、よく言われるフォワード・ルッキング・ランゲージといった言葉・文章の方法が良いのか、なんらかの数値的なものがあり得るのかという点については、これからの検討課題であると申し上げたことは、今でも変っていない。特に、「道しるべ」という言葉の中身について、現時点で予断を持っているということではない。
インフレーション・ターゲティングというお話しがあったので、その点について申し上げると、確かにそういう議論があることも事実であるが、一言でインフレーション・ターゲティングといっても、かなり幅のあるものだと私は理解している。色々なことが言われている中、政策運営の柔軟性をどのように確保していくのか、金融政策が目指すべき物価上昇率が何%かということがインフレーション・ターゲティングのかなり重要なファクターであろうが、そういうことはなかなか明確に決め難いなど、現時点ではまだ検討すべき課題が数多くある。私は、現時点で申し上げれば、インフレーション・ターゲティングについては検討すべき多くの課題があるのではないかと思っている。現時点でも、日本銀行は、透明性向上に相応の努力を行っていると思っている。所謂展望レポートを半期毎に公表し、また3ケ月経つとその中間評価を行うという枠組みは、透明性向上の一つの大きな方法だと思っている。先ほど、予断を持っていないと申し上げたが、透明性向上のための必要な施策は何であるのかは、今後の経済情勢等を踏まえながら、模索していくことになるだろうと思っている。
【問】
2点お伺いしたい。まず、今の「道しるべ」について、先日、総裁が記者会見で、過去にない、あるいは他の国にもない新しいものについて「楽しみにして頂きたい」という発言があったが、その点について、何らかのイメージがあるのか、全く抽象的な発言なのか、副総裁の見解を伺いたい。
もう1点、最近、政府・与党の間で名目成長率と長期金利のギャップについて意見が分かれている。竹中総務大臣が若干金融政策についても経済財政諮問会議等で触れられているようであるが、この点について、副総裁の見解を伺いたい。
【答】
まず、最初の「楽しみにして頂きたい」という総裁の言葉は、直接伺っていないし、私自身としては、特段思いあたる節がないので、総裁がどのような考えか、自分が解説する立場にない。
第2点目の、名目成長率と長期金利の関係については、今までの経済財政諮問会議において、財政再建のために公的債務残高の対GDP比を長期的に引き下げる必要があるのではないか、というような議論が行われ、そういう文脈の中で、長期金利が名目成長率を下回ることを期待できるのかどうかという議論があったと理解している。そもそも、長期金利がどのように決まるのかということについては、多少の意見の広がりがあるかもしれないが、基本的には、将来の経済および物価に対する市場の見方が反映され、その上で債券を保有することに伴う様々なリスクが上乗せされ、所謂リスクプレミアムが乗る形で、市場において決まってくると私は理解している。従って、長い目でみれば、名目成長率よりも長期金利が高い水準になる傾向があるということは言ってよいのではないかと思われる。もちろん、ある時期をとったり、外国の例などもとると、長期金利が名目成長率を下回っていることがない訳ではないので、常に長期金利が上回っていると言うつもりもないが、ごく一般論としては、そういうことが基本であると思っている。
わが国の場合、戦後の高度成長期とか規制金利時代を除いて、国債市場が整備されて、金利形成が自由に行われるようになった80年代以降でみると、長期金利は名目成長率を幾分上回って推移していると言ってよいのではないかと理解している。色々な方がそれぞれ具体的な発言をされているとの話しだが、私は個々のご発言を直接伺っているわけではないので、それに対して直接コメントすることは私の立場では控えたい。今申し上げたのは、一般的な考え方であると私は理解している。
【問】
先ほどの透明性の向上について、フォワード・ルッキング・ランゲージという言葉があったが、透明性を向上させるために、その時点時点の日銀の考え方を説明するだけでなく、将来の金融政策の予測可能性を高めるという観点で、検討する必要があるという考えを持っているのか。
また、講演で、2006年度にかけて公約の条件が満たされていくという発言があった。直近の消費者物価指数除く生鮮食品の前年比は3ケ月続けてゼロ%以上になっているが、これは既に条件を満たしたと言えるのか。また、3つの条件を分けて考えたときに、1つ目の条件として数ケ月均してゼロ%以上ということを掲げているが、これを満たしたと言えるのか伺いたい。
【答】
フォワード・ルッキング・ランゲージと申し上げたことに対するご質問の趣旨は、その時々の状況ではなく、将来の政策の方向性を具体的に示すかどうかということを尋ねられているものと理解した。
将来の政策の方向性について、どこまで言えるか、何が言えるか、ということを含めて、検討されることだろうと思う。FRB(米連邦準備制度理事会)がこれまで行ってきたことをイメージされながらのお尋ねかもしれないが、それを排除するつもりもないものの、それとは違うものもあるかもしれないので、予断を持っていないと申し上げた次第である。何らかの透明性向上のための配慮は必要だということを基本に、どうしたら良いか考えていくが、中身については今後の検討課題と申し上げさせて頂きたいと思う。
量的緩和政策解除の条件についてのお尋ねだが、確かに消費者物価指数除く生鮮食品の前年比は、10月ゼロ%、11、12月にそれぞれプラス0.1%の上昇となった。これをもって、条件が満たされたのかということであれば、今申し上げたようなデータであるので、まだ判断するのは早いと思う。引き続き状況の変化、推移をみていく必要があると考えている。3つの条件のうち第1条件についてはどうか、というご質問があったが、第1条件は達成されたとか、第2条件は達成されていないというようなバラバラにして判断するのは適当でないので、条件全体で考えていく必要があると思っている。第2条件は達成されているが第1条件はまだだとか、第1条件は達成されているが、第2条件はまだだとかということでなく、全体をみて条件を達成したかどうかを判断するというのが、自然な判断ではないかと思っている。
【問】
講演テキストにおいて、量的緩和政策解除を判断し、当座預金残高を減らしていくが、所要準備を上回る当座預金が存在する限りはゼロ%になり、その結果、緩和度は刺激効果が一段と強まっていく。その後、極めて低い金利水準を経て、次第に経済・物価情勢に見合った金利水準に調整していくという順序を辿るが、この過程における金利水準や時間的経路は、まさに経済・物価の展開や金融情勢に大きく依存するという旨を述べているが、展望レポートの中間評価では、経済は上振れしているとの判断を日銀は出している。このように経済が上振れしていき、資産価格も高い伸びを示していくのであれば、量を減らした後に、比較的速やかに金利を小幅でも引き上げることがあり得るか。
一方で、景気が想定の範囲内であり、物価も落ち着いているとすれば、ゼロ金利は、半年とか1年といった比較的長い時間という可能性もあるのか、リスクとの兼ね合いで見解を伺いたい。
【答】
講演で申し上げたのは、新しいことを申し上げたつもりはなく、この考え方は、基本的に展望レポートで既に述べられていると思っている。お尋ねの1月の中間評価において、上振れて推移するという評価の部分との関係ということであれば、確かに経済全体についてはそういう評価もしているが、消費者物価については大体展望レポートに沿った展開であると評価している。この点、特に上振れたとは私どもは考えていない。そういうことを前提として、量的緩和政策解除後、ゼロ金利がどのくらい続くのか、あるいはどのくらいの時点で、経済物価情勢に見合ったということで金利が引き上げられていくのかということについては、今の展望レポートの中間評価の段階で、そのお尋ねに答えるだけのデータは揃っていないと言うべきだと思う。ここにあるように、「まさに経済・物価の展開や金融情勢に大きく依存する」というのは、これから毎月出る経済・物価のデータ、金融情勢に依存するのであって、今暫くこの状況を観察するということである。そこから先のことは、「経済がバランスのとれた…」以下の一文に全て集約されていると自分は思っている。
【問】
ここまで地域間の経済格差が大きくなると、首都圏を中心とした金融機関と地方にある金融機関で、日銀としての対応の仕方にある一定のダブルスタンダードを設けないと、地域経済活性化は難しいと思う。単純に都銀と地銀といった枠組みではなく、新たに首都圏あるいは大都市圏と地方というような、違った視点、判断軸のようなものを導入される考えがあるか伺いたい。地銀の経営状態をみると、首都圏と地方圏では随分違うので、その辺りをどのように考えているか伺いたい。
【答】
金融政策運営について、金融機関の業態ごとに、何か違いというものを設ける必要があるかどうか、というご質問であろうかと思うが、私は基本的に、お金、金融というのは、地域を跨いで自由に動くものであり、場合によっては国境を跨いで自由に動くものであるので、そういう観点が特に必要だとは考えていない。
もちろん、地域経済の状況によって、金融機関経営に何らかの影響があるということは、そのとおりである。従って、各金融機関が、それぞれの置かれた地域の状況の中で、どういう経営をしていくべきか、何を、どのようなサービスを充実していくべきか、という意味において、すなわち金融機関経営の観点からは、地域間の経済格差は非常に大きな意味合いを持っていると思っている。ただし、私どもが行うマクロの金融政策ということであれば、最初に申し上げたようなことだろうと思う。
質問の最初に、地域間格差が拡大しているという話があった。確かにそういう見方をされる方もおられるし、私どもも格差が残っていることは基本的に理解しているが、方向としては、何れも改善に向かっていると思っている。改善のスピードが遅いと格差が広がるのではないかということについても、理屈としてはあるかもしれないが、しかし、改善に向かっているということが非常に重要なことである。その点は、今回の地元経済界の代表の方とお話しても、少しずつ良くなっている、特にこの年末年始にかけての売上などをみると、明らかに改善しつつあるというお話もあり、全体としてみれば良くなっていると思う。ただ、仔細にみれば、もちろん格差があり、業種によっては格差が拡大していくということもあり得ると思うが、全体としてみると、最初に総括したようなことではないかと私は思っている。
以上