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総裁記者会見(2月9日)要旨

2006年2月10日
日本銀行

—— 2006年2月9日(木)
午後3時30分から約55分

 

【問】

本日の金融政策決定会合の決定内容と、本日公表された金融経済月報・基本的見解を踏まえた景気見通しについて伺いたい。

【答】

本日の決定会合では、現在の当座預金残高目標30~35兆円程度を維持することを決定した。また、「なお書き」についても変更しないこととした。

背景となる経済・物価情勢については、多くの指標で昨年12月までの実績が明らかになったが、わが国の景気は着実に回復を続けていることが改めて確認された。先行きについても、緩やかながら息の長い景気回復が続くという判断をさらに確認した。

前回までも申し上げているが、バランスの取れた経済の動きである。供給面では、生産・出荷・在庫のバランスが良くとれている。需要面でも外需と内需のバランスが良くとれてきている。部門別に見ても、企業部門の好調ぶりが家計部門に順調に均てんされつつあると思う。さらに付け加えれば、金融部門でも民間の資金需要が下げ止まり、非常に長い間下げ続けてきた資金需要も下げ止まり局面に来ている。金融機関の貸出姿勢が前向きになっているだけでなく、実際の貸出増加額についても、貸出金の償却といった特殊要因を除いてみると、増加幅が拡大している状況になっている。

こうしたバランスのとれた着実な回復が経済実態としてある中で、物価面を見ても、国内企業物価、消費者物価ともに、日本銀行がかねてより考えている標準シナリオの線に沿って引き続き動いている。国内企業物価は、国際商品市況高あるいは昨年後半における円安等を背景として上昇を続けており、この先も上昇を続けると見ている。また、消費者物価指数(除く生鮮食品)は、前年比変化率が既に過去3か月連続でゼロ%以上となっている。1月分の指数は、これまでの数字に比べよりはっきりとしたプラスになっていくと見込んでいる。そのようなバックグラウンドを確認した上で、本日の金融政策決定会合では、従来通り現状維持を決定した。

【問】

消費者物価指数(除く生鮮食品)について、3か月連続でゼロ%以上となり、1月分はよりはっきりしたプラスになっていくという見通しを示された。前月の記者会見で、量的緩和政策解除について、冷静かつ適切に判断していく重要な局面に入っているという話があったが、今後、量的緩和政策解除を判断するにあたって、さらにどういうことが必要になってくるのか、その判断のポイントについて伺いたい。

【答】

日本銀行の姿勢は極めてクリアであって、「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比変化率が安定的にゼロ%以上となるまで」という量的緩和政策の導入時に公表した明確な約束に沿って、量的緩和政策を継続している。金融政策の枠組みの変更に当たっては、経済・物価情勢全体を十分点検した上で、この約束の条件が満たされたかどうかを、予断を持たず冷静に判断していくということに尽きる。何かあと一つ具体的なものが加われば、ということではない。消費者物価指数や経済指標そのものは、それぞれ重要な判断材料であるが、背後にある経済全体の動きをきちんと点検することがやはり一番大事なことだと思っている。

毎回そうした観点から、金融政策決定会合では議論を重ね判断を行なっているが、今日もなお「安定的にゼロ%以上とは言えない」という判断となった。1月分以降の消費者物価指数は比較的はっきりとしたプラスになると見込まれ、次回会合以降こうした経済全体を見据えた指数の判断は、より重要になっていくと考えている。

【問】

今後の量的緩和政策解除後の政策の枠組みの透明性を高める、あるいは期待の安定化をしていくための施策について、現時点でどのような認識を持っているか伺いたい。

【答】

いつ量的緩和政策の枠組み修正ができるかについて、時期的に予断を持って臨んでいるわけではないので、枠組み修正後の私どものメッセージの出し方についても引き続き重要な検討課題というほかない。そういう意識で各委員方も勉強を続けておられるし、議論もさらに重ねていかなければならない状況である。従って、今ここで何がしかの方向性、イメージを申し上げることはできない。ただし、毎回申し上げている通り、量的緩和政策は、消費者物価指数を軸にして日本銀行自身の手足を縛ることに意味を持たせた政策として行ってきたが、量的緩和政策解除後は透明性確保と、金融政策の機動的・弾力的な運営つまり柔軟性とが明確に両立するようなメッセージの出し方でなければならない。この点は非常に明確なポイントとして、各委員とも揃って重視しながら検討を続けている状況である。

【問】

先程の話では持続的回復の可能性が高まっており、内外需要のバランスもしっかりし、また景気の背景からみても雇用者所得や賃金も改善しているということであった。こうしたことから、目先よほどのことがない限り持続性が崩れることはなく、見方によっては今まで日銀が市場に示してきた可能性が強まっているかとも思うが、今後の景気判断においてどのような点を一層注目されていくのか。

【答】

ご説明した通り、日本経済については、理想的とまでは言わないが、どの角度から見ても比較的バランスの良い経済の姿になっている。生産が強く、企業投資、企業所得がしっかりし、それが家計部門にも均てんして雇用者所得も増え、消費も底堅い。つまり国内経済の循環メカニズムが上手く作動しているが故に、着実な回復、持続性を強めながらの回復になっている。別の言い方をすると、外からのショックに対しても、かつては脆弱性を持っていたが、脆弱性の少ないあるいはショックに対してより強い経済になりつつあると思う。しかし、引き続き、特に外から来るショックに対して、日本経済が本当にどれくらい吸収していける力があるかを、十分見定めていかなければならないと思っている。

原油価格にしても一次産品市況にしても、ここ一両日は振れがみられたが、基本的に高止まりという状況は解消されていない。そのインパクトをよく考えていく必要があると思う。海外経済については、米国経済は、引き続きインフレ・リスクと住宅投資を中心としたスローダウンのリスクにいくばくかの不確実性があると思う。金融市場全般をみても、大きくは金利サイクルが変わりつつあるという状況であるが、非常に落ち着いている各種市場の状況が急に乱れるリスクがないかについても、よく見ていかなければならない。

さらには、地政学的リスクも常に存在していることも念頭に置かなければならない。そして改めて経済の面について述べれば、グローバル・インバランスの問題が消え去ったわけではなく、根強い問題として抱え続けている。これらのリスクが顕現化しないか、顕現化するとしても小さなリスクが顕現化するのか、一挙に大きなリスクが顕現化するのか、重なって出てくるのか、色々心配の種は尽きないほどある。

日本経済を見ていく場合には、外から来るリスクを日本が自分の手で防ぐことはなかなか難しいので、できる限り日本経済の前向きのメカニズムをバランスよく続けることによって、ショックに対する強さを確保していくことが一番のポイントになってくると思う。

従って、量的緩和政策の枠組みをこれからどうするのかという問題はあるが、枠組みの修正そのものにすべての意味が込められているわけではない。その後もずっと続く金融政策において、これからの日本経済が物価安定を基礎に本当によりダイナミックな展開を遂げ得るようなものになっていくように、それを金融面からサポートできるような諸条件をいかに整えていくか、ということが非常に重要になってきていると認識している。

【問】

透明性と柔軟性を両立させるメッセージの出し方について伺いたい。現在その役割は展望レポートが果たしていると思うが、今の展望レポートでは不足している点があるのか。もしあるとすればどのような点を付け加えてメッセージとして出していくことになるのか伺いたい。

また、物価の見通しであるが、今月の金融経済月報では、消費者物価指数はプラス基調になっていくと予想されているが、これが実現した時が量的緩和政策解除の基準を満たした時と合致するのか。なお、「基調」という言葉が入っているが、特殊要因によって単月にマイナスになるようなことが仮にあったとしても、基調の捉え方としては金融政策の判断を大きく阻害するものではないという理解で良いか。

【答】

物価は既に3か月連続でゼロ%以上になっており、見通しとしては、1月分以降はより明確なプラスの数字が出るであろうということである。その背後にある経済情勢の分析を加えて判断していけば、物価のプラス基調がより強く定着していくという合わせ技の判断が出てくると思う。その根底は、経済の持続的な拡大の中で需給が改善し、ユニット・レーバー・コスト(単位当り労働コスト)が物価を押し下げる方向に働く力が減衰していくというように、物価形成の基礎がしっかりしてくるということであり、そこが非常に重要な判断の土台である。

消費者物価指数自体が、特殊要因、一時的要因で多少上下することはいつでもあるが、その一時的要因で上下するという物価指数の表層部分の動きをそれほど重視して考えなくても、基調がしっかりしてきたという判断があれば、それは私どもの「安定的にゼロ%以上」という判断に結びつきやすいと考えている。

もう一つ重要な話であるが、展望レポートについて皆様がどのように評価されているかわからないが、私どもとしては展望レポートの中の特に金融政策に関する部分において、私どもの先行きの政策径路について、できる限りのメッセージ、最大限のメッセージを盛り込んできているつもりである。量的緩和政策の枠組み修正のタイミングについても触れてきているし、枠組み修正後の金利政策の運営についても、私どもとしては相当程度のメッセージをそこに既に盛り込んできているつもりである。

今後の私どもの作業としては、仮に枠組み修正後ということになると枠組み修正までのプロセスは終わるわけであるが、その後の金利をターゲットとする通常の金融政策の運営について、既に書いている部分もある。それを今後の新しい経済のアウトルックとの対比において、これで十分かどうか、さらに追加的に情報提供できる部分があれば惜しみなく情報提供していくことになると思う。ごく自然体に考えて、経済の見通しと政策の径路について、できる限り整合性のとれたかたちでメッセージを出していくということであり、ここで離れ業的なことをするつもりは全くない。

【問】

先程、次回の金融政策決定会合以降、経済全体を見据えた上での指数の判断がより重要になっていくと述べられたが、これは次回の金融政策決定会合以降、量的緩和政策の解除がいつあってもおかしくないと考えてもよいのか。

また、次回3月の金融政策決定会合において、量的緩和政策の解除を判断する際、非常に障害となるようなスケジュールあるいはタイミングなどがあるのか。例えば、年度内であるから非常に調節が難しくなるとか、国会がまだ終わっていないのでやりにくい、あるいは自民党の金融政策小委員会がまだ報告書をまとめていないのでやりにくいなど、障害になり得るものがあるかどうか伺いたい。

【答】

先程、経済全体の判断を踏まえた消費者物価指数(除く生鮮食品)の判断が、より重要になってくると素直に申し上げた。それは、既に3か月にわたってゼロ%以上という数字を経験し、さらに今後より明確にプラスの指数が出るであろうという前提を踏まえれば、ごく自然に言えることであり、その範囲内で申し上げた。

実際問題として、私どもはこれまでのところ、消費者物価指数が安定的にゼロ%以上になったかどうかについては、ごくわずかずつ判断を前進させてきているのが実情である。従って、この段階で、翌月以降具体的に視野に入れるというほど予断を持って臨んでいない。私どものスタンスは、「予断を持って臨んでいない」と何回申し上げても足りないくらい明確である。回を追うごとに、判断の重要性が増してきているということは事実だが、来月以降具体的に視野に入っているかというと、そこまでは私どもは現時点においては申し上げることはできない。

2番目のお尋ねであるが、来月に限らずそれ以降も、年度末や政治的なイベントなど色々なことが常にある。毎回申し上げているが、金融政策は、経済・物価情勢の流れの中でもっとも適切なタイミングを、遅からず早からずという意味で適切なタイミングを掴んでいかなければならないので、情勢判断を離れたイベントが、金融政策の判断のタイミングを決める上で、非常に重要なウエイトを占めるということはない。これは明確にないと申し上げる。

【問】

経済財政諮問会議でいわゆる名目成長率と長期金利の関係の議論が続いており、その中において金融政策が長期金利に及ぼす影響力についての議論がある。これまで量的緩和政策のもと、すなわち時間軸効果のもとで、日銀は長期金利にある程度影響力を行使する政策を行ってきたが、量的緩和政策を解除した後を展望した上で、改めて金融政策と長期金利の関係について、どのように捉えているのか伺いたい。

【答】

様々なアカデミックな分析があり得るという前提で申し上げる。私どもは実際に金融政策運営の責任を負い、金融政策運営のコックピットの中に入ってオペレーションをしているという立場で、現実の生きた長期金利の動きを色々判断している。そういう目で過去の長期金利の動き等を見ていると、私どもの頭の中に最後に残る長期金利の姿は、基本的には将来の経済や物価に関する市場の見方を反映して、市場そのものが決めるというものである。理論が決めるものでもないし、誰かパワフルな人が決められるものでもない。市場そのものが、将来の経済や物価に関して貪欲なまでのエネルギーを注いで眺め尽くした後、市場自身が判断して決まると思っている。こうした純粋な長期金利の姿にプラスして、債券を保有することに伴う様々なリスクに応じた上乗せ幅、リスクプレミアムが乗る。これが現実の長期金利として目の前に出てくると思う。

私どもの金融政策運営の舞台から眺めると、80年代以前のグローバル化が進んでおらず、マーケットのセグメントが明確だった時期、あるいは市場の中で規制が強かった時期、長期金利は様々な現れ方をしていたと思うが、80年代以降、金融の自由化やグローバル化が進んだ後の各国の例を見てみると、長期金利は名目GDP成長率を幾分上回って推移することが多いと私どもは認識している。従って、長期金利が安定的に形成されていくために必要な第一の条件は、マクロ的な経済・物価環境の安定の確保、実現であり、それが金融政策の最も重要な役割である。第二の条件は、特に日本のように財政再建の重い課題を負っている国であれば、財政再建の長期的な方向性を透明なかたちで国民の皆様の前に示し、それを通じて財政赤字に伴うリスクプレミアムをできるだけ上乗せしないことである。これら2つが非常に重要な条件だと思っている。改めて申し上げるまでもないが、私どもの役割は非常に大きい。しかし、それは長期金利そのものに直接働きかけて、今申し上げた市場が決める長期金利をマニピュレイト(操作)できるという意味ではない。私どもができることは、金融経済情勢を的確に見極めながら、まさに適切な金融政策の運営を行い、物価の安定と経済の持続的な成長を図っていくことである。非常にオーソドックスに聞こえるかもしれないが、それが結局は早道になると考えている。

【問】

総裁は、量的緩和政策解除後の枠組みは日本の実情にあったものとすると繰り返されている。現状の消費者物価指数に対するコミットメントということで、0.1%ポイントの数字や特殊要因などを見る議論が活発に行われているが、そういった現状を見て、やはり日本では、数字に対するコミットメントが金融政策を縛る側面が強いとお感じになるか。また、量的緩和政策は異例な金融政策という表現をしているが、量的緩和政策解除後に想定されるゼロ金利政策も──ゼロ金利政策になるのかどうかわからないが──、やはり異例な金融政策とお考えか伺いたい。

【答】

日本の実情にあったというのは、先行きの経済の見通しについて、できるだけ多くの国民の皆様と共有し、物価の見通しについても共有したいということである。私どもの金融政策の径路についても、これらの見通しを共有することにより相当程度透明性がカバーできると思う。それでもさらに政策について、日本銀行がどのようなものの考え方をしているかということを、これらの見通しの上に乗せていくかということも大事だと思う。さらには、物価安定が金融政策の究極の目的なので、物価安定について日本銀行がどう理解しているかという私どもの考え方を──数字で示すか示さないかは別にして──、国民の皆様とできる限り共有したいと思っている。

日本の場合には過去の経験からみて、国民の皆様がお持ちの物価観は、非常に安定した物価の動きを前提に考えている可能性が高いと思っている。多くの識者の方でさえ、海外では2%位ではないかとか、2~3%位ではないかと簡単におっしゃっているが、これは私にとって非常に不思議なことだと思われる。日本の国民の皆様の物価観はどのようなものかを、私どもは正しく知りたい。そういうことを共有しないと正しいメッセージを作ることは難しい。概略を言ってみるとそういうことであるが、まだ具体案は持っていない。

2番目の質問であるが、量的緩和政策の枠組みを修正してゼロ金利政策になってもなお異例かどうかというご質問であるが、少なくとも量的緩和政策ほど異例ということではない。というのは、ゼロ金利政策の段階になれば、イールド・カーブはより自然に形成されてくると思う。このように金利メカニズムが作動しやすくなるという意味で、異例さの度合いは減ると思うが、超緩和ということには変りない。経済・物価の実勢に見合った金利水準ということから言えば、なおかなりの超緩和の状態だと言える。

【問】

ショックに対する強さという話があったが、先月ライブドア・ショックで株価が一気に急落した後、以前の水準を取り戻したが、この回復力について総裁はどのように評価しているか伺いたい。また、改めてライブドア・ショックが経済に与えた影響について、どのようにお考えか伺いたい。

【答】

株価は日本経済のファンダメンタルズの良さ、そして個々の企業の業績段階に掘り下げても、評価に十分耐え得るような株価形成がなされ続けている。そういう株価形成のメカニズムの土台のところで強さが続いており、一時的なショックを受けて株価が下落してもリバウンドするような回復力が強いマーケットだと認識している。現実の動きも大方そのようになってきていると思っている。ライブドア・ショックについては前回も申し上げたが、新しい様々な動きが市場の中に出ており、これからも出てくるだろうと思う。こうした新しい現象により常に新しいルールが必要となるかもしれない。新しいルールを遵守させる仕組みを求めるきっかけになるかもしれない。そして、そのような動きすべてを振り返って、すべての市場参加者が自らのディシプリン(規律)として取り入れていかなければならない部分を読み取れる材料が多く出てきていると思う。マーケットは正に生きており、前向きにこれからも生きていく場合に、ショックをショックとして唾棄(だき)すべきものだと感じるよりは、フォワード・ルッキングにこの中から新しいルール・メイキングの知恵、ルールを遵守させる仕組み、そして自らのルールとして取り入れる、ディシプリン(規律)として取り入れていくというように、市場が発展していくための新しいナレッジをどれだけ汲み取っていけるか、汲み取っていける人が市場参加者として増えていくかどうか、といった非常に重要な材料を提供したのではないかと思っている。

【問】

本日の金融政策決定会合では7対2ということだが、反対票の2票の方はこれまでと同じ主張だったのか。量的緩和政策解除の議案の提案はなかったのか教えて頂きたい。

【答】

2票は従来と同じく、量的緩和政策の枠組みを維持しながら量的ターゲットを少し減らしてはどうかという提案であった。

【問】

預金金利について伺いたい。低金利の中で国民の受け取る利子所得がかなり減少しており、その意味では国民に負担を強いたというのが量的緩和政策のマイナス面であったかと思う。量的緩和政策の枠組み修正後、国民の恩恵という面で政策を理解する上で、預金金利にどのように反映されていくかが、1つのポイントになるのではないかと思う。量的緩和政策の枠組み修正後の預金金利について、変更のタイミング、設定のメカニズムあるいは水準について、総裁はどうお考えか。

【答】

ご承知の通り、すべての金利の中で預金金利だけをピンセットでつまみ出して特別に設定することはできない。全体の金利のレベル、イールド・カーブが形成される中で、結果として預金金利も決まってくるという状況は今後とも変わらないと思う。ゼロ金利が長く続いた状況のもとでは、先程超緩和という言葉で申し上げたように、預金金利も含めた金利が非常に低い水準になる。経済全体の回復力をつけていくために、金利を受け取るべき立場にある人々が、金利をより少なく受け取るという形でコストを払ってこの経済を支えてきた。かつ、ゼロ金利に加えて、量的緩和政策の期間においては、イールド・カーブの最短の部分だけでなく、やや長目のイールド・カーブも下押しされていたという意味で、結果として金利を受け取る人々の利息がそれだけ余計に減殺された。預金金利もその一部であったということになると思う。量的緩和の枠組みが修正されても、出発点がもしゼロ金利であれば、引き続き金利水準は非常に低い。やや長い期間で押し下げられていたイールド・カーブが修復する程度のことは起こるが、やはり将来に向かって経済の実勢に見合った金利水準へ徐々に鞘寄せしていく過程が始まって初めて、預金金利が預金金利らしく復活してくるということではないかと思う。

【問】

先程国民の物価観の話が出たので詳しく伺いたい。物価観とは何を指すのか。議事要旨等で公開されている議論にもあったが、デフレが続く中で期待インフレ率も低い状況が続いてきたが、そういう状態を指しているのか。それともそもそも国民が望ましいと思っているインフレ率が他国と比べて低い、あるいは違うということか、また別のことなのか。そうだとすると、物価観が違うとすれば、それは、マクロ経済にとって望ましい物価水準が他国と違うということの根拠になるとお考えなのか伺いたい。

また先程、消費者物価指数は1月分からははっきりとしたプラスになるというご発言があり、マーケット等では0.4%位との予想もある。それがはっきりとしたプラスであると考える場合、8月の基準改定の影響等によって再び下がる可能性を考えると、基準改定の影響を考慮しはっきりとしたプラスという幅をどのように考えるかという問題になると思う。1月分以降は、基準改定を経てもはっきりとしたプラスを維持できるというお考えなのか伺いたい。

【答】

物価観という定義のない言葉で申し上げたが、物価観と言った場合、私の頭の中にあることは、人々が物価について心配することのないような状況ということである。物価がどんどん上がるようになると、人々は毎日の生活の中で物価のことを考える時間がそれだけ余計多くなると思う。逆に、物価がどんどん下がれば、経済がどんどん悪くなるのではないか、あるいはうちの金融機関は大丈夫だろうかと考えることも含めて、物価を心配する時間が1日24時間の中で増える。理想的には、物価が上がる心配も下がる心配も全くせずに活き活きと経済生活ができることが一番良い。一体どういう物価であれば人々は物価のことをほとんど考えなくて済むのかということが、それぞれの国の国民が過去の系譜の中で、自分の生活経験も含め、あるいはもっと以前に遡った様々な経験も含め、暗黙の中の知識として頭の中に蓄積されているのではないか。望ましい物価上昇率ということを言う人が多いが、そのような数字はアプリオリ(先験的)にはなく、計算上すぐに出てくるものでもない。要するに、金融政策で物価の安定を確保するということは、人々が物価に関して余計な心配をせず、100%経済活動に勤しんで頂くために行っている。そういう意味での経済的なウェルフェア(厚生)を確保するために金融政策を行っている。人々が物価について心配する領域を、もし仮に数字で表せば、ひょっとしたら日本の場合は、過去の系譜からいって他の国より低いのではないかという感じを、私自身は持っていると申し上げた。

2番目の質問の消費者物価指数の改定については、指数が改定されれば、当然新しい指数に則って判断していく。しかし、繰り返し申し上げているが、指数だけを見ているわけでは決してないので、常に経済のバックグラウンドに関する分析を十分施した上で指数を見ている。新しい技術的な向上を伴った指数に置き換わったからといって、私どもは物価に対する基本的な判断をすぐに修正する状況には、おそらくならないだろうという前提で考えている。

【問】

みずほ銀行の顧客情報が行員を通じて暴力団に流れる不祥事が生じた。日銀が顧客情報の管理や漏洩のリスクをみていくという話もあったが、そうした点も踏まえて所感を伺いたい。

【答】

情報管理は金融業にとって非常に大切なことである。金融業は、情報サービス産業の一面を持ち、情報価値は非常に大事であることから、ここに対する管理体制に欠陥があることは、金融サービス業として致命的な欠点を持っていると指摘されても致し方ないほどの大きなことだと思う。リスク管理体制について色々と申し上げているが、今回のケースはオペレーショナル・リスクの一部に入ってくると思う。信用リスクやマーケット・リスクに加えて、オペレーショナル・リスクにも力をいれて銀行のリスク管理体制をしっかりしてもらいたいと思う。私どもも金融機関にそうしたお願いをし続けている。今回のケースについては、具体的にどういうことであったか詳細はまだよくわからないが、一般的に言って、顧客の情報管理は非常に大切なことだという認識を、各銀行において経営者だけでなく、現場の方々、そして現場を管理する職位者の方々が一層強く意識するような態勢を是非敷いて頂く必要があると思う。

【問】

先程、経済の実勢に見合った水準に徐々に鞘寄せする過程が始まって初めて預金金利が復活してくるとおっしゃった。日銀が持っているバランスのよい息の長い回復が続くという経済のシナリオが維持される中にあって、国民へのメッセージとして、預金金利が復活するような時期はそれほど遠くない時期に訪れると期待してよいのかどうか伺いたい。

【答】

それ程早く期待して頂いてよいというシナリオを、今のところ持ち合わせていない。経済の持続性の強い回復は、これからも金融緩和的な環境がサポートすることによって実現し得るという部分がなお大きいと思っているので、量的緩和政策の枠組み修正後も——必ずしもゼロ金利でなくても——、かなり緩和的な環境で持続的な景気回復のパスを固めていく時間がある程度必要なのではないかと思う。物価はプラス基調を強めていくと思うが、日本の物価に固有の粘着性、そして経済全体から見て物価が上がりにくい環境が当面続く可能性が高いと思っているので——そういう見通しが外れれば別であるが——、この前の展望レポートでお示しした通り、金利のレベルを修復していくプロセスはなお余裕を持って進められる可能性が強いと判断している。そういう意味では、預金者の方々は急に預金金利が回復したという感じにはなかなかなりにくい。そういう点では、預金者の方々にもう少し我慢して頂かなければならないかもしれないと思う。

【問】

次の4月の短観について、全般的にどのような期待や予想をされているか伺いたい。

【答】

短観の予測については、日本銀行が企業の方々にお尋ねしていることであり、それをこちらから答えると混乱が起こると思うのでお答えしない。そのほうが企業の方から素直なお答えを頂けると思う。

【問】

インフレ目標について、自民党の中川政調会長が2%程度のインフレ目標導入は選択肢の1つだと具体的に言及されている。先程、期待の安定化策についてのルールの話をされたが、柔軟性との両立等を勘案すると、やはりインフレ目標は導入できないというご判断か。

【答】

インフレ・ターゲティングが望ましい金融政策ではないかというご主張を持っておられる方は他にも多くいらっしゃるし、学界にもいらっしゃる。私どもはそうしたご意見について、それぞれの考え方の背景に至るまで、きちんと検証して勉強させて頂いている。日本銀行として責任のあるメッセージの出し方は何かということを考える上で、そうした多くの識者のご意見を十分咀嚼していきたいと思っている。今のところ私どもは結論を持っていないので、特に中川政調会長のご意見について具体的なコメントはできないが、ものの考え方まで掘り下げて私どもとして活かせるところは活かしたいということである。

以上