ホーム > 日本銀行について > 講演・記者会見・談話 > 講演・記者会見(2010年以前の過去資料) > 記者会見 2006年 > 総裁記者会見 (4月11日) 要旨

総裁記者会見(4月11日)要旨

2006年4月12日
日本銀行

―2006年4月11日(火)
午後3時半から約40分

【問】

本日の金融政策決定会合の結果の趣旨、および本日発表された金融経済月報を踏まえた景気の見通しについてご説明頂きたい。

【答】

本日の金融政策決定会合においては、現在の金融市場調節方針、すなわち「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、概ねゼロ%で推移するよう促す」を維持することを決定した。

背景となる経済・物価情勢については、前月以降、短観をはじめいくつかの指標が明らかになったが、これらをみても、わが国経済は、内外需のバランス、企業部門と家計部門のバランスがそれぞれとれたかたちで、着実に回復を続けていることが改めて確認された。

海外経済は、米国、中国を中心に、順調な拡大を続けており、これを受けて、日本からの輸出も増加を続けている。また、短観がよくその姿を示しているように、国内的にみても企業は、増収・増益見通しのもとで、しっかりとした設備投資計画を示している。企業部門は堅実なビジネス・プランを持ち、過度に前傾姿勢──はしゃぐという言葉はあまり適切ではないが、そうした感じ──を示すこともなく、大枠として、引き続き慎重なスタンスを維持しているように見受けられる。こうしたことは、投資行動の行き過ぎを回避し、息の長い成長につながる可能性を持つものと考えている。

また、企業部門の好調さが家計部門に波及し続けていることは毎回申し上げているが、今回も、雇用・所得面では、有効求人倍率や失業率など労働市場の需給改善を示す指標がみられたほか、短観の雇用人員判断でも人手不足感が強まっている状況である。雇用者所得は、雇用と賃金の改善を反映して、緩やかな増加を続け、結果として個人消費も増加基調にある。

これが現状だが、私どもはこの延長線上で日本経済の先行きをみても、生産、所得、支出の好循環が働くもとで、景気は着実に回復を続けていく可能性が高いと判断している。

物価面では、前回の記者会見以降、特に大きな変化はない。足許まで上昇してきた国内企業物価は、国際商品市況高などの影響を強く受け、先行きも上昇を続けるとみている。また、消費者物価指数(生鮮食品を除くベース)の前年比は、1月に続き2月も+0.5%となり、プラス基調で推移している。先行きも、需給環境の改善が続く中、若干の振れを伴いつつもプラス基調を続けていくことは間違いないと予想される。

前回の金融政策決定会合以降の金融市場の動きをみると、短期金融市場は、期末日を含めて極めて落ち着いて推移してきた。この間、株価や長期金利は若干上昇し、為替相場は概ね横這い圏内の動きとなっている。全体としてみれば、前回の金融政策決定会合における金融政策の枠組み変更を、市場参加者に冷静に受け止めて頂いていると思っている。もっとも、海外市場の動向とも絡み、債券市場の一部にボラタイルな動きがみられていることも事実である。日本銀行としては、引き続き金融市場の動きを十分注視していく必要があると考えている。

以上のような情勢判断のもとに、今回は政策的にはノーチェンジとさせて頂いた。

【問】

先月の量的緩和政策の解除以降、市場の関心は早くもゼロ金利解除の時期に移りつつあるように思われるが、ゼロ金利解除時期、あるいはタイミングについて総裁の基本的な考えを伺いたい。

【答】

現在まだ市場から流動性を吸収している過程にある。市場の状況をみながらこの過程を円滑に進めたいという状況であり、その先の金利政策の展開については、全く予断を持って臨んでいない。

前回の金融政策決定会合の後にも申し上げたが、量的緩和政策解除時の公表文で示した通り、先々、「経済がバランスのとれた持続的な成長過程をたどる中にあって、物価の上昇圧力が抑制された状況が続いていくと判断されるのであれば、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境が当面維持される可能性が高い」ということであり、公表文で示した通りの判断を今もそのまま持っている。

先々の金利政策については、今後の経済・物価情勢を踏まえて、適切に判断していくことに尽きる。今の段階では何らの予断も持っておらず、完全にオープンであるとご理解頂きたい。

【問】

消費者物価指数について、4月に電気料金の引き下げ等の影響が出ると言われているほか、8月には基準改定を控えているが、それぞれどのような影響が出るとみているのか。また、金融政策の今後の運営にあたって、それをどの程度参考にされるのか伺いたい。

【答】

私どもは、物価指数の表面的な動きですべてを律するという考え方を従来から持っていない。個々の特殊要因が単月にどう現れるか、あるいは、指数改訂という技術的な要因が表面的な指数にどのような影響を及ぼすかということはもちろんきちんと受け止めていかなければならないが、私どもの物価情勢についての判断は、指数をみながら、その背後にある経済情勢をしっかり踏まえて行い続けている。景気が持続的な回復過程を辿る中で、経済全体としての需給バランスの改善が続き、ユニット・レーバー・コストの面からも物価を押し下げる力が段々減衰しつつある。こういう基本的な判断を踏まえて物価を理解し、そうした理解をベースにすれば、消費者物価指数のプラス基調は続いていく可能性が高いと考えている。従って、そうした単月の指数の振れが金融政策の基本的なスタンスに絡む可能性はないと思っている。

【問】

市場にはゼロ金利解除の時期を夏場と織り込む動きが出ているが、そこは総裁のお考えとギャップがあるか伺いたい。

【答】

私も多くの市場関係者の方々を存じ上げているが、特定のポジション・テーカーの方々を別にして、本当の市場のプレーヤーは、色々なポジションを持ち、色々なヘッジ取引もしながら市場の中で柔軟に構えておられ、金融政策の変更についても、幅広い見方を胸の内に秘めて市場行動しておられる。私どもの政策変更に対して市場が不規則な反応をしていないことが、その証しだと思っている。

【問】

先月の日銀の量的緩和政策の解除を挟み、欧米の中央銀行も利上げを行い、日米欧が同時に金融引き締め方向に入ったと指摘されている。先週末のウィーンでのアジア欧州会議でも、世界的な金利上昇についての懸念も示されているが、こうした日米欧の金融引き締めが世界的なマネー・フローに何らかの影響を与えるとお考えか。

また、ワシントンで来週開かれるG7でそうしたことも議題になるかとも思うが、G7について所見を伺いたい。

【答】

日本も含めた主要国中央銀行の金融政策をみると、極めて慎重な政策運営が行われている。世界経済全体の持続的な成長を確保しながら、同時に原油価格や国際商品市況の上昇の影響等が物価面にどのようなリスクをもたらすかということも十分計算しながら、闇雲に引き締めに走ることなく、極めて慎重な政策運営をしている。

その背後には、グローバル化の進展の中で金融資本市場の一体化も進み、国境を越えて資本が自由に移動するようになっているので、金融政策面からのマネジメントが注意深く行われることによって、不規則な資本移動を大きく呼び込まないよう十分意識しながら、金融政策運営が続けられていると考えている。従って、長短金利の変動、あるいは色々なボラティリティというものを市場関係者がどのように受け止めていくかということを十分認識した上で、金融政策は今後とも行われていくであろうと考えている。

G7については、いつも非常に幅広いテーマで議論が行われるので、こうしたこともある程度議論される可能性はあると思うが、これにのみ焦点が当たるということはないと思っている。

【問】

先程の経済に対する判断の中で、企業行動は極めて慎重であって過熱感が出ていないという話があったが、最近資産価格の上昇や株価、地価について色々と指摘される面もあるかと思う。そうした面で企業の投資行動に資産バブルの予兆というものをリスクとして感じられているのかどうか、現在の所見を伺いたい。

【答】

まず一般的に、企業の通常のビジネス・プランの立て方、投資計画の立て方が、特に短観のベースなどで直接の材料として浮かび上がってくる。日本企業の場合、大企業、中小企業、製造業、非製造業、おしなべて新年度も増収・増益計画であるが、徒に強気に走って見込み生産をどんどん行ったり、徒に大きな金額の売上予想を立てるようなことはしない、という感じになっている。従って、造り過ぎて在庫を抱えてしまい、その大きな調整負担がいずれ待っているというような流れを作らない慎重なビジネス・プランになっていると窺われる。来年度に向けての設備投資計画をみると、設備過剰感がなくなった状況で、設備稼働率がじわじわと上がってきており、そういう状況を企業は受け止めながらしっかり投資はするが、過剰なキャパシティを一挙に抱え先行き資本ストックの調整負担を大きく被らなければならない、というような状況を避けた計画になっているように思われる。つまり、大きな在庫循環とか、大きな資本ストック調整といったリスクが感じられる度合いは非常に小さい。そういう意味で堅実な計画であるし、企業がはしゃいで強気になってはいないということは、結果として息の長い景気回復が続くという方向性に沿ったものではないかということを申し上げた。

資産価格の動きについてのお尋ねがあったが、最近発表された不動産価格の指数などをみても、中央と地方、あるいは中央の中でも地域によってまだかなり開きがあるが、一部の地域では不動産価格のかなりの上昇がみられるようになってきている。これは過去と比べて大きな変化だと受け止めているが、大きくとらえると、収益還元法の中での価格の動きという健全な範囲内での動きを逸脱している、あるいは大きく逸脱しそうであるとは、まだ受け止めていない。

【問】

量的緩和政策の解除後、4月に入ってから実際に日銀当座預金残高の減額が本格的に始まり、直近では25兆円台と市場予想をやや上回るペースで減額している。量的緩和政策解除時は数か月かけてという話であったが、日銀当座預金残高の減額ペースの現在のイメージは、具体的にどのようなものであるのか伺いたい。

また、日銀当座預金残高減額による経済や金融市場への影響をどのようにみているのか伺いたい。

【答】

ご承知の通り、前回の金融政策決定会合後、3月中の日銀当座預金残高の推移は、財政資金の支払いなどもあり、結果として30兆円前後の水準で推移した。そして、新年度入り後の日銀当座預金残高は徐々に減少してきている。昨日時点で26兆円弱、本日もほぼ同じ程度で終わったと思う。

これが市場予想を上回るスピードだとは受け止められていないと思う。単純に残高を落としているわけではなく、必要な資金供給を行いながら、市場の感触に合致するように残高を減らしてきていると思っている。そういう意味で格別、マーケットの中で混乱や違和感を生んでいない。無担保コールレートは極めて落ち着いて推移しており、その動きに不安定感が漂っているということもない。今後とも短期金融市場の状況を十分点検しながら、徒に不規則な動きを呼び起こさないように残高削減を全うしていく方針である。これまでの短期金融市場の落ち着いた展開をそのまま今後とも維持できるということであれば、当初の想定通り、数か月程度の期間を目途に、日銀当座預金残高の削減を実現できる可能性が今のところ高いと思っている。つまり、予定は狂っていない。

減額の影響については、前回の金融政策決定会合における枠組み変更時にも申し上げた通り、ゼロ金利そのものに復帰し、想定の線に沿って調節が行われている。従って、想定外の影響が経済におよぶリスクを新たに感じているかと言えば、そういうことは全くない。

【問】

前回の量的緩和政策を解除した際、金融政策面から刺激効果が一段と強まるリスクを挙げられていたと思う。現段階で金融緩和の度合い、ゼロ金利に伴う緩和水準が以前に比べて強まっているという判断をされているのか。また、過去のゼロ金利──1999年、2000年のゼロ金利ないしは量的緩和の後半のほとんどゼロ金利の効果しかないと言われた時期──に比べて、現在ないしは数か月先に緩和効果が高まり過ぎるリスクをどの程度感じているのか伺いたい。

【答】

前回の金融政策決定会合以降まだ1か月である。この1か月間の変化は、色々な経済指標、物価指標が出て、景気の着実な回復振りと、消費者物価指数のプラス基調がさらに定着しつつあるということが確認された。一方、ゼロ金利に伴うリスクは、この1か月の間に強まったかどうかは、この間の情報だけではまだ判断できない。これは次回の金融政策決定会合で出す展望レポートにおいて長期的な経済・物価の見通しを示し、その見通しについて2つの柱によるクロスチェックをかけていく。特にその2つ目の柱はより長期的にみたリスク要因に関するものであり、そのレポートの中でもう少し詳しい分析ができれば、示していきたいと思っている。

【問】

日銀はゼロ金利政策を行っており、先行きについてもオープンだと何回もおっしゃっている。経済成長率も緩やかであり、物価の展望に関し物価上昇も激しいものではないという見通しであるが、中長期金利の動きをみると、日銀や内閣府が言っていることと少し違い、上昇スピードはかなり速いような気がする。中長期金利は実勢を必ずしも表していないのではないかと思うが、どのようにお考えか伺いたい。

もう1点は実務的なことであるが、本日の金融政策決定会合で決定した共通担保資金供給オペレーションは、早ければ何月頃に実施できるのか。資金吸収面では手形オペを続けるということで良いのか。

【答】

最初のご質問については、量的緩和政策が終わり通常の金利レジーム、金利政策という運営枠組みの中で、市場がどういう金利形成を行っていくか、まだようやく始まったばかりの段階である。今の段階での市場金利の形成のされ方が経済・物価の情勢に合っているか否かをコメントするには、まだ早過ぎると思う。

市場は市場なりの見識をもって先行きの読みを入れて、市場金利の形成を始めているのだろうと思う。私どもも市場の動きを鏡として受け止めていくので、それについて歪んでいるとか歪んでいないといった偏見を初めからもって市場をみているわけではない。

市場が示している金利をそのまま正直に受け止めながら、さらに情勢判断というかたちで新しい情報を市場に提供し、市場金利の形成のされ方がよりダイナミックに、より練れたものになるように、これからの努力が始まったばかりだと思っている。

先程も申し上げた通り、今月末に公表する展望レポートでは、2006年度、2007年度の2年度に亘っての経済・物価の見通しと、それが中長期的な物価安定のもとでの持続的な成長径路に沿っているかという評価、そしてより長い目でみた場合のリスクは何かについての新しい材料を出していく。それらを市場にきちんと消化して頂き、市場金利がより活きたものになっていけばと願っている。

本日発表した新しい共通担保資金供給オペレーションは、現時点では6月末頃に従来の手形買入オペから新しい共通担保資金供給オペに移行することを予定している。なお、今、資金吸収とおっしゃっていたが、資金吸収の売出手形はペーパーレス化はしないので別の話である。詳細については、後程、事務方から説明があるので、そこで聞いて頂きたい。

【問】

量的緩和政策解除後、預金金利の動向に国民の関心があると思う。金融機関は、1年以上の預金金利をここに来て引き上げる傾向にあるが、それについて先行きを含めどのようにお考えか。また、1年以下の普通預金金利を含めて、金利上昇のタイミングをどのようにみているのか伺いたい。

【答】

規制金利の時代ではないので、個別の預金金利については、まさに市場金利の変化を眺めながら、個別の金融機関が自ら決めていくものである。従って、預金金利が今後どうなるかは、広く言えば金利全体の今後の動きがどうなるか、その中で個々の金融機関が営業戦略も加味しながら決めていかれることである。今後の金利情勢次第であるので、今のところ、預金金利が今後どうなるかを具体的に申し上げるだけの材料を持っていない。

【問】

昨年12月8日の名古屋での金融経済懇談会後の記者会見だったと思うが、記者の皆さんは消費者物価指数の下振れのことばかり言うが私は必ずしっかり上がる要因を知っている、というようなことをおっしゃられたが、それはどういう要素だったのか。そして、その要素はこれからも日本の物価を安定的に押し上げていくとお考えか。

【答】

おっしゃったようなことを名古屋で強調して申し上げたかどうか明確に憶えていないが、私は日本経済について、将来性があるという意味において、一貫して強い確信を持っている。そして当時の景気動向について、踊り場的現象等も経験した中にあっても、日本経済の基調は着実に景気回復を辿る方向に動いているという確信を持っていた。従って、経済がそのような方向性を辿り、特に潜在成長能力を若干でも上回るペースで景気回復を続ける限り、経済全体としての需給は改善する。そして急速ではないが緩やかに雇用情勢も改善し、雇用や賃金が少しずつでも増えていくことになれば、ユニット・レーバー・コストが下がり続けて物価を押し下げるという状況も次第に減殺されていく。このような物価の一番基礎的な条件の変化を踏まえたものである。

今後とも経済は着実な回復過程を辿るだろうと基本的に認識しており、その傾向がさらに続くと思う。その一方で、私がいつも申し上げていることは、日本企業は大変厳しい国際競争に晒され続けていて、これに打ち勝つ努力をしながら企業経営上良い結果を出し続けている。すなわち、周辺諸国からの低コストによる競争圧力を克服しながら、経営実績を上げていこうということであるので、コスト・コントロールを十分効かせながら経営をしていかなければならない。あるいは製品価格への転嫁は、軽々には行えない状況で企業業績を上げていかなければならない。企業は努力して着実に進んでいるので、景気回復とともに物価の下落圧力はどんどん減殺する方向に進んできているが、一方で景気が回復したからといって、従来の経済のように、それがストレートに物価上昇圧力につながることもない。そういう両面の実態を踏まえながら物価を判断していかなければならない状況であると思っている。

【問】

消費者物価指数の場合、石油製品に支えられている部分が数字上かなり大きいと思うが、仮にそれがなくなったとしても、需給の改善によってかなりの物価上昇が見込まれるということか。

【答】

「かなりの物価上昇が見込まれる」と申し上げたことは一度もない。物価の基礎的条件は着実に改善している。消費者物価指数について言えばプラス基調は定着しつつあると申し上げたが、「かなりの物価上昇が見込まれる」とは、この席だけでなくあらゆる席で一度も申し上げたことはない。そうでなければ、先程申し上げた通り、景気が着実に回復しても物価上昇圧力が強まることがないのであれば、当面極めて低い金利による緩和的な金融環境を提供し続けることができるだろうというステートメントを出すわけがない。「物価のかなりの上昇が見込まれる」ということを申し上げた憶えはないということを繰り返し申し上げる。

【問】

市場との対話について伺いたい。半年に一度展望レポートで示す金融政策の姿と、毎月の記者会見等での情報発信をどのように組み合わせていくお考えか。総裁は、日本に合ったやり方で行うと述べられているが、諸外国の例では、声明で金融政策の先行きを示したり、会見でかなりの程度先を読みやすいメッセージを出すなど色々なパターンがあるが、今後の金利上昇局面で、日本としてはどのようなかたちで市場との対話を行っていくことを考えているか伺いたい。

【答】

この4月の展望レポートから、特に2つの柱できちんと評価を加えていくという意味でさらに充実させていく。展望レポートを使って金融政策運営の透明性を図る仕組みは既に以前から始まっており、毎月の記者会見の場で金融政策決定会合での判断を示しながら説明していくという組み合わせも、既にかなり定着していると認識している。

年に2回、展望レポートで長期的な私どもの経済・物価の見方を示している。そして毎月の金融政策決定会合は、そうした長期的な見通しの線に沿って経済が動いているかどうか、経済が標準的な見通しにぴったり沿って動いているかどうか、少し不満足な方向で動いているのかあるいはより良い方向で動いているのかどうか、という判断をして、この場で説明しコメントを加えている。こういうことなので、単にそういう下敷きとなる長期的な見通しを持たずに、「前月に比べて景気は上振れしました、下振れしました」というような基準なき変化の説明は、展望レポートを示して以降は止めたということである。常に標準シナリオあるいはベースとなる長期的な見通しとの対比で、刻々と変化する経済の判断を示して皆様と議論させて頂いているが、次回の展望レポート以降は、2つの柱でより明確に経済・物価の見通しをチェックする。即ち、経済・物価の見通しが中長期的にみて「物価安定のもとでの持続的な成長に沿っているかどうか」についての判断を加えるとともに、仮に沿っていたとしても、より長い目でみてそれを脅かすリスクとしてはどんなものがあるかということについて、まとめて材料提供する。そして毎月毎月は、刻々たる変化がこのシナリオに沿っているかどうかという判断を、従来通り続けていくことになる。

【問】

これまでの量的緩和時は非常にリジッドな条件だったのでどうしても先行きが読みやすいという側面があったと思うが、総裁の発言を伺っていると、市場にとって金融政策の先行きがあまりに読み取りやすくなるのは好ましくないという考えをお持ちのように感じられるが、そのあたりの考えを伺いたい。

【答】

私どもは透明性向上の努力を十分しているつもりであり、今後ともさらに向上努力の余地があれば行っていくという姿勢に変わりはない。ただ、量的緩和政策時代のコミュニケーションと金利を軸に金融政策を行なっていく場合のコミュニケーションとは基本的な構図が違う、という点はよくお考え頂かなければならないと思う。量的緩和政策のもとでは、短期金利はゼロ制約に縛りつけられて動かない。従って、言葉のやりとり、文字通りコミュニケーションにかなりのウエイトがかかっていた。量的緩和政策解除後は、金利が動く世界にだんだんなっていく。ゼロ金利といえども、皆さんから「ゼロ金利はいつ動くんだ」というようなお尋ねがあること自体、「金利は動くものだ」というようになっている。そして、現に先物市場や長期の債券市場をみても、先程のお尋ねのように既に金利が動いている。金利を軸とする政策の時代のコミュニケーションは、常に市場金利を真中に挟んでコミュニケーションが行なわれる。言葉のやりとりだけではコミュニケーションは全うしない。市場参加者の認識が市場金利を動かすであろうし、私どもからの新しい情報提供——情勢判断が中心である——が市場参加者にどう受け止められてどう理解されるか、これに市場金利がどう反応するかというように、常に市場金利を仲介項としてコミュニケーションが行なわれる。このように構図は変わっており、こういうダイナミックなメカニズムを理解せずに言葉だけで100パーセント読み取ろうという時代は終わりということだけは明確に言えると思う。

【問】

現在金融庁の懇談会において、いわゆるサラ金の多重債務問題を巡って、特にグレーゾーン金利の問題が話し合われている。一部には、金利は、消費者金融の金利も含めて、市場原理で決定されるべきだという意見もあるが、グレーゾーン金利問題についての所感を伺いたい。あわせて少し前になるが、一部の大手銀行と消費者金融会社の共同広告について、与謝野金融担当大臣が国会で問題視する発言が報じられたが、この点についても所感を伺いたい。

【答】

金利はすべての取引について市場で決まるのが基本原則だと思う。しかしながら、消費者に関連する小口金融の金利については、やはり国民の生活に直結し、大きな変化や影響をもたらす可能性がある金利であることから、できる限り関係金融機関が、その辺に対する十分な配慮をした上で、金利設定をすることが望ましいと思う。これは私どもの直接の所掌事項ではないが、金融庁の立場からご覧になると、行政的にもある程度のコントロールが必要か否か、ウォッチが必要な分野だろうとは思う。なお、広告については、私どもが直接規制する立場になく、その適否については金融庁のコメントに譲りたい。

以上