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春審議委員記者会見(6月1日)要旨

2006年6月2日
日本銀行

―2006年6月1日(木)
那覇市における金融経済懇談会終了後
午後2時から約30分間

【問】

本日の金融経済懇談会では、どのような意見が寄せられたのでしょうか。また、当地沖縄の経済の現状や今後の展望などについて、どういった議論があったのでしょうか、お聞かせ下さい。

【答】

本日は牧野副知事をはじめ20名の方にご出席頂き、私から冒頭ご挨拶申し上げた後で、皆様からご質問やご意見を頂きました。

皆様からのご発言をかいつまんで申し上げますと、まず、観光事業について、「2017年中で550万人と最高の入客を記録し、近年は75%がリピーターになっている。ただ、客単価が若干下がり気味でホテルの収益環境が悪化している面もある」とか、「空港の混雑回避や自衛隊との共用問題の観点から空港施設のインフラ整備も今後の安定的な観光振興のためには必要」との一方で、「観光立県として、観光客が復帰後44万人程度だったものが600万人近くまで増加しており、よくここまで頑張ったものだ」というご感想もありました。また、「今後も修学旅行生の増加など、官民挙げた積極的な施策を展開していきたい」というご意見が聞かれたところです。

また、地域格差に関して、「景気・物価面では本土と沖縄ではかなりタイム・ラグがあって、まだ小売では物価の下押し圧力が強い」、「景気は全国的には回復しているが、ブロック別にみると地域間格差がまだ残っているのではないか。従って、なかなか景気回復の実感が持てない面がある」、「都市銀行がかなり積極的な、バブル期のような貸出姿勢を見せているが、地元でできるものはできるだけ地元の金融機関に任せるということが望ましい」といったご意見がありました。

さらに、日本銀行の金融政策について、「量的緩和解除後、世界的な株安とか為替変動が続いている。ゼロ金利解除の時期については物価をみて決めるのか。また、株価や為替等の影響をどう考えるのか」、「中小企業にとって支払利息の上昇に繋がる政策金利の引き上げは慎重にやってほしい」、「設備投資の面を考えると、物価としては軽いインフレがあった方が望ましいのではないか」、「金融政策を考えるうえで、企業の設備投資に与える影響を十分に勘案して欲しい」といったご意見がありました。

若干繰り返しになりますが、皆様から県経済の現状について多岐に亘る貴重なお話を伺いました。今後の課題についても的確に認識されており、これに対して官民挙げて様々な取り組みをなされていて、心強く思いました。例えば、主力の観光について、「修学旅行客のマーケットの開拓とか、リゾート・ウエディングの推進等で大きな成果が上がっている」としつつも、今後の課題としては、「観光に関する人材の育成、空港設備の整備、レンタカーに対応した駐車場や案内版の整備などが必要だ」ということでした。

金融政策運営については、ゼロ金利解除の時期について皆様の関心が大変強いと感じました。中でも、中小企業への影響とか、設備投資への影響等が懸念材料としてあるように感じました。

それから、二千円券の普及について、当地では官民挙げての取り組みがなされており、沖縄県内では着実に発行が増加しています。全国的な流通の促進に向けて、日本銀行も努力してもらいたいというご意見がありました。

ここからは、私の感想になりますが、私にとっては久しぶりの沖縄でしたが、一昨日来、当地で企業視察や経営者との懇談をさせて頂きました。それまで私の持っていた認識としては、一点目は、沖縄経済は他の地域と比べて、長らく比較的厳しい状況が続いてきたことです。二点目は、日本経済の今回の回復は海外経済の拡大に伴って輸出・生産が伸びた、いわば製造業主導の回復だったわけですが、沖縄は製造業の比率が他の地域に比べてかなり低いので、そのメリットをなかなか受け難いのではないかと考えておりました。三点目は、沖縄経済は公共投資への依存度が高いわけですが、これが財政再建ということで減少傾向にあります。

このように、どちらかと言えば、厳しい要因が多いと思っておりましたが、実際には、皆様のご努力で、全国同様の着実な回復を続けていると評価して良いのではないでしょうか。

  1. その要因の第一は、観光業の発展です。一つは、もともと豊かで美しい自然があって、恵まれた地理的条件があり、琉球王朝以来の伝統的な文化があります。二つには、それに加えて官民のご努力とか、県民の皆様のおもてなしの心とか、そういうこともあって観光客も増え、移住者もかなり増加して、人口も増加しています。こういうことを考えますと、今後もこの傾向は続いていくと期待して良いと思います。

  2. 二つ目の要因は、今、有力産業に育ちつつあるIT産業の動きです。特に、急成長を続けているコールセンター事業が、県の支援策もあって県内に多数進出しております。那覇の新都心には国内最大級のコールセンターが建設されており、今後も雇用面での効果が期待できると思います。

  3. 三つ目の要因は、我が国唯一の金融特区について、関係の皆様のご努力でこの3月には画期的な内容の地域CLOの組成という成果が上がっております。この他に、沖縄ファミリービジネスフォーラム、沖縄型電子マネーコンソーシアムなど、こういった金融特区関連の動きは——成果が出てくるのはこれからだと思いますが——期待できると思います。

さらに違う観点から言えば、ポピュラー音楽とか、女子プロゴルフといったところで、世界のマーケットに通用するようなブランドが活発に形成されてきております。こういう面からも元気な沖縄が引き続き発展することが期待できるのではないか、というのが私の感想です。

【問】

本日の金融経済懇談会の挨拶要旨に「政策の対応が遅れ、経済・物価の振幅を大きくしてしまうリスクに目配りする必要がある」とありますが、現状、ゼロ金利が続く中で、設備投資とか物価を含めて経済のアップサイド・リスクをどうみていらっしゃるのかお伺いします。

【答】

量的緩和政策から金利を基準とする政策に変更し、ゼロ金利を維持しておりますが、これからも当面ゼロ金利を維持していく予定です。ということは、ゼロ金利による景気の刺激効果を今後も継続することが必要だという判断に基づいているということですが、物価が上昇してきますと、同じゼロ金利でも景気刺激効果はだんだんと大きくなってきます。現時点ではゼロ金利による景気刺激効果を継続させるのが基本的な判断ですが、先行きあまり長く続けますと景気刺激効果が行き過ぎて、景気と物価が振れたり、またその反動が大きくなるリスクがあります。当面の問題ではありませんが、将来は、元のバブルに戻るかもしれないリスク、つまり刺激効果が行き過ぎてしまうリスクとのリスクバランスを判断しながら考えていくことが必要という意味で申し上げたわけでして、現時点ではゼロ金利を続けて、景気刺激効果を続けていくことが重要という見方は変わっておりません。

【問】

金融経済懇談会でも指摘があったようですが、量的緩和政策解除からゼロ金利政策の解除に伴って、株価や為替がどのような影響を受けるのか、という点に関連してお伺いしたいと思います。もちろん金融政策を決定するのは物価・経済動向だと思うのですが、いわゆるゼロ金利を解除することによって円高になるリスクをどのくらい考慮に入れて政策を考えていくのかをお伺いします。

【答】

ゼロ金利を解除することによって若干円高方向に振れる可能性があるのはおっしゃるとおりです。ただ、それをどの程度勘案するかという質問は大変難しい質問です。ゼロ金利を解除する時の状況がどうかということが基本になると思いますが、それによって今後の景気・物価に対してどのような影響を与えていくのか、そういったことを総合的に考えながらゼロ金利解除の判断をするということと思います。為替に対する影響もゼロ金利の解除にあたって一つの判断材料と思いますが、あくまでも総合判断のうちの一つの要素という位置付けではないでしょうか。

【問】

金融経済懇談会の挨拶要旨で、「今後の金融政策運営については、適時適切に情報発信を行って、出来る限り市場にサプライズを与えないようにしていきたい」とのことでしたが、実際にゼロ金利解除を判断する場合には、突然「ゼロ金利解除を決めた」と言うわけではなく、一つ二つ前の会合であったり、その時期の講演等でゼロ金利解除が近いということを市場に伝えるようなメッセージを発していくと捉えてよろしいのでしょうか。

【答】

只今のご質問にその通りお答えすると、そこは少し違うということです。これからの情報発信は、この次の政策変更はいつ頃になるということを直接申し上げるのではなく、現在、物価や景気の情勢をどう判断しているのか、その中にあって今後の金融政策をどのように考えているか、そういうことをできるだけ肌理細かく申し上げていくことを通じて、マーケットや国民の皆様に判断材料を提供していくということでありまして、ストレートに、「今後の金融政策はどう動いていきます」と直接申し上げるということではないと私は思っております。

【問】

冒頭挨拶の中で株価について、調整局面という認識を述べていました。昨日、1万5,500円を割るところまで下がってきて、先程、地元の方からも株価への懸念が出されたということでしたが、株安を調整とみているのでしょうか。

また、最近、日銀当座預金残高が下がってきて、若干短期金利が動いて、日銀が資金供給オペを実施するような局面が出てきています。金利の引き上げは日銀当座預金残高が所要準備額の水準に戻ってからだという総裁の発言が4月頃にありましたけれども、日銀当座預金残高が所要準備額である数兆円というところに戻ることがゼロ金利の解除条件になるとお考えなのかどうか。それとも短期金利が動いてくるのなら、それに合わせて、金利を引き上げることもあり得るとお考えなのか、その辺りをお聞かせ下さい。

【答】

最初の株価についてのご質問ですが、株価は昨年の後半以降、景気回復や企業収益への期待感で、4月には一時、1万7,000円台半ば頃まで上昇しました。その時の状況は、例えばPERでみますと、海外市場との比較ではやや突出したかたちになっていたと認識しております。それが、5月入り後、上昇が一服して、1万5,000円台の半ば位という、いわば昨年の秋頃の水準に戻った状況にあります。これは、一つには海外市場の株価との連動という面がありましょうし、4月以降、円高が進みましたので、企業収益に悪影響が出るのではないかという懸念が広がっていることもあるかもしれませんが、私としては、そういう意味ではまだ調整局面とみて良いのではないかと思っています。今後の株価動向については海外の株式市場の動向も重要と思いますが、要は国内の持続的な景気回復が続くかどうか、その中で企業収益の改善が継続していくのか、そういう点をみていくことが大事ではないかと思っております。

もう一つの市場動向についてですが、短期の金融市場では非常に長い間、金融機関同士の取引が活発に行われていなかった状況がありました。現在は、その市場機能が回復過程にあるという認識です。その中で、一部の市場参加者がやや厚めの資金保有を志向されているということもありまして、無担保コールレートのオーバーナイト物の金利が、これは概ねゼロ金利の範囲内での動きと申し上げて良いと思いますが、先週末から今週始めにかけて若干上昇しました。そういう状況で日銀としても、肌理細かいヒアリングをしたり、資金供給オペを実施したり、また、市場参加者のほうでも補完貸付を活用されるということで、結果として特段の混乱は生じていない状況と思います。しばらくはこういった状況が続き、短期金融市場の機能回復が実現していくことによって落ち着いてくるのではないかと思います。市場機能回復のための金融機関サイドでの対応としては、一つは、5年の間でかなり手薄になっている業務体制を整備されるということ、二つ目には市場参加者がかなり入れ替わるとか、かつての出し手が取り手になるとか、そういう入れ替えが起こっている中で、いわば取引先別のクレジット・ラインの整備を進めるということ、もう一つは、その間に行われたRTGSに対する資金繰り対応といったものが必要とされていると思います。

最後に、日銀当座預金残高とゼロ金利解除との関係ですが、日銀当座預金はゼロ金利の預金ですので、金融機関が市場に対する体制整備を進められて、コール・マーケットでの取引をなさるようになれば、理論的には所要準備の状況に近づいていく方向が自然と思います。しかし、先程も申し上げましたようにまだ市場機能の回復のための金融機関の努力が継続しており、先行きどこまで続くかが読めない状況であります。その中で日本銀行としては既に金融調節の目標を金利に変えておりますので、日銀当座預金残高がどこまでいけば金利を動かす条件が満たされたか、というのは必ずしも決定的な条件にはならないのではないかと思います。そういう市場機能の回復の状況、それから市場関係者の対応状況をみながら、基本的には景気・物価情勢を総合的に判断してゼロ金利解除を決めていくことになると思います。

【問】

先程、アップサイド・リスクの話がありましたが、挨拶要旨の内容をみると、どちらかというとダウンサイドのほうを強調されているように思います。アップサイドとダウンサイド、現状の可能性としてどちらに振れる可能性があると思われるのか。午前中の冒頭挨拶要旨では原油、海外のリスクについて文章を多く割かれていますので、景気に与える影響という観点から教えて下さい。

【答】

私のこれまでの職業経験も若干影響しているのかもしれませんが、やはり今、最大の不透明要因は、依然として原油価格ではないかと思っています。現在の状況はイランやナイジェリア情勢に基づく地政学的リスク、あるいは投機資金が入っているという要因があって、必ずしも足許の在庫とか需給関係にかかわらず上昇して高止まりしているので、当面の需給からすると、いずれは調整されると思います。ただ、中国、また、米国もそうかもしれませんが、需要がどんどん伸びている中で、必ずしも十分な供給増のための投資が現状なかなか行われていないということからいくと、やはり地政学的リスクの推移によっては、引き続き高止まりが続く、あるいはさらに上がっていくということさえ考えられなくもありません。日本経済の場合には、エネルギー効率が高くなっておりますので、直接的な影響はそう受けないと思いますが、やはり日本経済の今後の持続的な回復あるいは拡大にとっては、世界経済、特に米国、中国の継続的な拡大が非常に重要ですので、原油価格上昇の影響を受けて米国あるいは中国の経済が下振れするということになりますと、日本経済の持続的な回復も難しくなるのではないか。どちらかというと私は原油価格のさらなる上昇、高止まりに伴う経済としての下振れリスクを心配している状況です。

【問】

それは、例えばITの在庫調整とか、あるいはアップサイドの投資行動の行き過ぎよりも顕在化する可能性が高いリスクというご認識ですか。

【答】

可能性がそれほど高いとは必ずしも思いません。原油価格が再上昇ということになりますと、やはり世界経済に対する影響がかなり大きくなるのではないかという意味で強く認識しているということです。

【問】

物価についてお伺いします。先般4月の消費者物価指数が発表され、市場で予想されていたよりも物価の上昇率は上がっていると思うのですが、この点、展望レポート(「経済・物価情勢の展望」)での見通しと比べて——この間のユニット・レーバー・コストも随分上がってきている、あるいは需給ギャップも解消しているとの数字も出ておりますけれども——物価上昇圧力は高まっているとお考えなのか、それともシナリオの範囲内とお考えなのでしょうか。

【答】

結論的に申し上げますと、4月の消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率は0.5%と、連続して同じ水準を維持しました。4月には若干の特殊事情もあり、下がるのではないかという見方もあったかと思いますが、私の見方は、いわゆる一時的要因以外のものが上昇傾向にあるため、従来の傾向は維持されるのではないかというものでした。そういう意味では、ほぼ展望レポートで見ていた先行きの物価の動きの想定の範囲内、もう少しはっきり申し上げれば、想定を裏付けるような動きが続いているという感じではないかと思います。

【問】

挨拶要旨の中で、ゼロ金利解除の時期について、「判断を急ぐことなく全体として余裕をもって対応できる状況であると認識している」とのお考えを示されていますが、余裕をもって対応できると判断されている理由について少し詳しくご説明頂ければと思います。

【答】

先程も申し上げましたが、ゼロ金利を解除するかどうかという判断については、景気とか物価が徐々に好転していく中で、ゼロ金利を維持していくとその金融政策面からの刺激効果が次第に強まってくる可能性があります。現在はまだ景気・経済を持続的な成長軌道に乗せていくためにそうした刺激効果が必要という判断をしているわけですが、これが行き過ぎると、将来、景気・物価の振幅が大きくなるリスクが出てきてしまう。従って、経済を持続的な成長軌道に着実に乗せていけるかということと、一方で刺激効果が行き過ぎることがないかというバランスを慎重に見極めながら解除の時期を判断していくということでありまして、私自身としては刺激効果が強く出過ぎてしまうというリスクは現在では少ないのではないかということから、ゆっくり慎重に判断していく余裕があると申し上げた次第です。

以上