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野田審議委員就任記者会見(6月19日)要旨
2006年6月20日
日本銀行
―2006年6月19日(月)
午後4時から約30分
【問】
日銀が3月に量的緩和政策を解除して3か月以上が経っていますが、日銀当座預金残高の削減プロセスも大体終わり、金融政策は日銀がいつゼロ金利を解除するのかという重要な局面を迎えています。その中での就任であり、また、委員は銀行での豊富な経験をお持ちですが、それをどう今後の金融政策に活かしていくのか抱負をお伺いしたい。
【答】
今日は皆様お集まり頂きましてありがとうございます。野田でございます。どうか宜しくお願いします。
ご指摘の通り、5年間にわたる量的緩和政策が終わり、それから早3か月が経ちましたが、こうした日本経済、あるいは日本の金融政策にとって、言わば屈折点と言えるような時期に日銀の審議委員を拝命致しまして、かつてない程の緊張感を覚えております。民間の経営に勝るとも劣らないくらいエキサイティングでチャレンジングな職務、仕事だと認識しております。先程おっしゃって頂いた、銀行時代、あるいはその後の実業界での経験、この40年近くにわたる経験というものを、どこまで活かせるかは、私自身全く未知数でございますが、月並みにはなりますが、「微力ながら全力を尽くしたい」と言うのが抱負になろうかと思います。
【問】
福井総裁が村上ファンドに1,000万円を拠出していた問題というのが先般色々と話題を集めていますが、このことに対するご見解をお伺いしたい。
【答】
村上ファンドの件につきましては、報道されている以上のものは存じません。感想ということですが、本件は、ある意味で個人の問題に属するものですので、私からのコメントは差し控えさせて頂ければと存じます。
【問】
日銀の幹部に対して資産公開を義務付けたらどうかという議論も内外であるようですが、このことについてはどのようにお考えでしょうか。
【答】
資産公開という問題が、国会等で問題提起されていることは、私も承知致しております。本件は、一つに個人の財産権の保護、今一つは個人のプライバシーの保護という問題とも密接に関連しているものですので、こういった点を十分に勘案、検討してみる必要があるのではないかと思います。いずれにしても、問題提起がなされており、これに関する議論は今後深められていくのだろうと思いますので、現時点ではこれ以上のコメントは差し控えさせて頂ければと存じます。
【問】
幹部が保有している株について、在任中は信託等の方式を使って、凍結すべきではないかという議論もありますが、この点についてはいかがですか。
【答】
この問題につきましても、おそらく今後議論が深まっていくと存じます。その議論に従って私自身も処したいと存じますが、個人的な意見として申し上げれば、今ご指摘の信託──多分、管理信託ということだと思いますが──も有力な一つの方法かなと考えております。
【問】
野田委員ご自身も民間時代に株などを結構持っていらっしゃるのでしょうか。
【答】
「結構」と言われてもお答えしかねるのですが、何がしかのものは金融資産として──私も金融界におりましたし、そういった関係もございまして──いくつかの種類を保有致しております。
【問】
3月に量的緩和政策を解除し、その後、株価は下落気味であるが経済指標は堅調なものが出ています。委員から見て、ゼロ金利政策解除の条件、どういう状況になってくればゼロ金利では低過ぎる、経済・物価情勢に見合った金利への修正が必要になってくるのかについてお伺いします。
【答】
非常に難しい問題だと思います。4月の展望レポート等では、わが国の経済は非常にバランスよく成長を継続しており、息の長い拡大を続けそうだと言われていますが、私もその通りだと思っています。ただ、ゼロ金利政策解除の時期につきましては、今後政策委員会に入り、諸々の統計データや議論も十分踏まえ、判断すべきであろうと思っています。従って、今ここで、どういった条件でというようなことについて、具体的に申し上げる状況ではないし、また私自身そのようなものを持ち合わせていないというのが正直なところです。
【問】
福井総裁の件について、個人の問題に属することなのでコメントを差し控えたいとおっしゃいましたが、金融を司るトップである福井総裁がこうした事態になって、国民からの不満、不信感がかなり渦まいているのではないかと思っています。そうした状況について、改めてどのようにお感じになられますか。
【答】
福井総裁の村上ファンドの件については、様々なことが述べられ、色々な方がご意見をおっしゃっているということは承知しています。ただ、繰り返しになりますが、これは福井総裁個人の問題ということでもありますので、それらのコメントに対する私のコメントはあえて差し控えさせて頂きたいというのが、先程申し上げたところです。
【問】
これによって日銀の信頼というのはかなり傷ついた面もあるかと思いますが、信用回復のためにはどのようにすべきだとお考えですか。
【答】
今回のことで、日銀の信頼性であるとか、そういったようなものが傷ついた、あるいは損なわれたというようことは、直接的にはないのではないかと個人的には考えております。ただ、先程来皆様がご指摘の通り、世間で広くこの問題が注目を集めているわけですので、こうした点については、やはり私どもも謙虚に受け止めて、耳を傾けて今後議論していかなければならないと思います。そういう意味では、信用回復ということでのご質問でしたが、信用回復以前の問題として、日銀としては、今後日本経済を持続的な成長軌道に乗せるということでもってそれをお示しするというのが、まず大事な道筋ではないかと考えている次第です。
【問】
先程、資産公開の問題に絡んで、今回就任にあたり委員ご自身の保有株式などを信託されたのかどうか、お聞きします。
【答】
信託したかと言われると、信託しつつあるとお答えした方が適切かと思います。完全に信託が終わっているという状況ではございませんが、その方向で処理をしたいということは、ここではっきりと申し上げられます。
【問】
それは、日銀の事務当局からの助言か何かがあってそうされたということですか。
【答】
いいえ。もちろん日銀の事務当局から日銀の服務規律等についてのレクチャーを既に受けておりましたが、私自身の財産を日銀の服務規律とは別に、こういう方法でやりたいと考えたのは、私自身の判断、自己責任に基づくものでございます。日銀の事務局が云々という話は一切ございません。
【問】
そうしますと、福井総裁の村上ファンドへの拠出が明らかになる以前からこういった信託というようなかたちを活用すると、お考えになっていらっしゃったのですか。
【答】
はい。明確なかたちで具体的にということではございませんが、保有有価証券をどうするかは、就任が決まりました時に私の胸の中ではずっともやもやとしたものがありまして、その過程でこういう方法もあるのかなと考えておりました。ただ、直接のきっかけは福井総裁の村上ファンドへの拠出が報道されてからだと思います。
【問】
個別の話で恐縮なのですが、保有されている金融資産の中に村上ファンドへの出資はありますか。
【答】
ございません。
【問】
その他プライベート・ファンドに対する出資というのは。
【答】
ございません。
【問】
3点お伺いします。1点目は、展望レポートに書かれていた潜在成長率について、個人的な見解としては、大体どの程度のものであると見積もっておられて、違和感があるのかどうか、もう少し高めであっても良いと思っておられるのでしょうか。
2点目は、中長期的に見た場合の安定した物価水準というのは、0~2%というレンジが先日出された政策委員9人の数字でしたが、野田委員はどの程度のものであるとご覧になっていますか。
3点目は、現在の日経平均株価は1つの金融指標ですが、日本のファンダメンタルズ、底力を十分に反映したものであると、見ることができるのでしょうか。それとも上振れしているのか、下振れしているのでしょうか。
【答】
まず潜在成長率のご質問ですが、これにつきましては私も勉強途上であり、1%の上の方とか、あるいは2%を超えるのかといった細かいところまでの見解は持ち合わせておりません。最優先の勉強課題であり、今後良く勉強してみたいと考えておりますが、今この場でいくらということは申し上げられません。
2点目の私が考える安定した物価水準はどの程度かというご質問ですが、そもそも中長期的に安定した物価水準の理解というものは、各委員がそれぞれ示しているのでしょうが、誰がいくらとは公表されているわけではないので、私がこの場でいくらですとピンポイントで申し上げることは、いささか適切ではないと思います。もちろん私なりの考えとしては大体この辺りかなというのはありますが、ここでピンポイントでお示しするのは適切ではないと思います。ただ、あえて申し上げれば、確か中心値が1%を中心にばらついているといった表現であったと記憶していますが、それ自体は私にとっては違和感のない数字ではないかと認識しています。
3点目は現在の株価水準についての評価につき、ファンダメンタルズと比べてどうかということですが、株価についての評価は個人的には持っていますが、私の今のこの立場で株価水準についての評価を申し述べるのは適切ではないと思いますので、回答はご容赦願いたいと思います。
【問】
先程の信託のくだりで、有価証券についてどうするかということについて、「もやもやしたものがあった」というお話がありましたが、もう少し詳しく、どういうところでもやもやしたところがあったのかお伺いします。
【答】
審議委員就任後、例えば個別銘柄の運用について指図するのは問題があるでしょうし、仮に売買をしないまでも、それをそのまま保有し続けるということはどうなのだろうかと、私自身思っていたということであり、何をもってどうだという根拠のあるものではありません。日本銀行というよりは、審議委員の職務の公正性というようなことを広く考えた時には、何か方策を打っておいたほうが良いのではないかという程度のことから考え始めたとご理解頂きたい。
【問】
日本銀行の役員の方が個別の銘柄の株を持っているのは、元来好ましくないというお考えがあるということでしょうか。
【答】
財産をどのように運用するかはそれぞれ個人の方がそれぞれの裁量でお考えになるということであり、お尋ねのような意味で申し上げているつもりは全くございません。
【問】
日本銀行の役員に就任したら一定のルールを設けるべきであるとお考えですか。
【答】
先程から申し上げている通り、私は個人的にこう考えたということであり、他の人がどうであるべきということで考えたわけではございませんので、そこは良くご理解頂きたいと思います。
【問】
先程の点と若干繰り返しになるかもしれませんが、有価証券の信託の関係について、信託しつつあり、直接的なきっかけは今回の福井総裁の問題であり、いずれそうするかもしれなかったというお気持ちがあったにしても、直接は福井総裁の関係であったということですが、ということは信託するのが審議委員就任に間に合わなかったのは、福井総裁のことがなければもっと遅れていたということでしょうか。就任日に間に合わなかった理由を確認までにお伺いできればと思います。
【答】
私は日本銀行の服務規律自体を良く理解していたつもりですので、特に急がなければならないというつもりは全くございませんでした。
【問】
今ご自身では信託をしつつある、そういう方向であるということですが、今後日銀内でも内規・服務ルールの見直しを議論していく中で、委員は、幹部──どこまでを幹部というかは別として──の保有する金融資産について、信託することを内規ルールとした方が良いと思われているでしょうか。また、資産公開について財産権の問題・プライバシー保護の観点があるとおっしゃいましたが、閣僚・副大臣・政務官等は、各保有株数・固有銘柄まで公表しています。日銀幹部について、様々な政策決定に関わっていると思いますが、そこまでは必要ないと、思われているということでしょうか。
【答】
両方についてお答えするとすれば、私自身はまだ、かくあるべしと言うことを頭の中に描いているわけではありません。今後、おそらく議論は深まっていくと思います。その議論をよく拝聴し、私自身ももう少し頭の中で煮詰めていきたいと考えています。従って、2番目の問題につきましても、民間人が、あるいは選挙で選ばれたわけでもないような私どもが、資産公開をすることについての是非については、最初の冒頭近くでも申し上げた通り、今後よく考えていきたいということであります。今、かくあるべしということを申し上げているわけではありません。
【問】
これまでの金融政策について、具体的に言えば、新日銀法になった98年以降、速水総裁の時代、そしてここまでの福井総裁の時代の金融政策をどのように評価していらっしゃいますか。
【答】
改正日銀法以降の日銀の金融政策についての評価については、これは大変大きな質問であり、今の私にとってお答えは極めて難しい。ただ、あえて申し上げれば、98年の日銀法改正後の日本経済は、正に私もその中に身を置いていたのですが、極めて混乱と言いますか、未曾有の状況であったわけでございますので、後の評価では、様々なことが言えると思いますが、そのプロセスの中で、混乱の中で政策を執行してこられた先輩方のご苦労に対しては、一定の評価は差し上げたいと思います。この種のものは、いわゆる総括として様々なことが評価できると思いますが、今申し上げたように、私にとっては非常に難しいことです。ただ、混乱の中での大変なご苦労については、一定以上の評価をしたいということでそれ以上の回答はご勘弁頂きたいと思います。
【問】
日本銀行の説明責任という考え方について、お伺いします。福井総裁自身の村上ファンドへの拠出や、今後政策委員として、色々な金融政策も含めたきめ細かな説明が、国民を含めたマーケットに対して必要かと思いますが、現状の日本銀行の説明責任は、十分果たされているのかについて、民間という立場から、どのように見られていたのかということと、今後どうあるべきかということを、少し抽象的ですが、お考えがあれば教えて頂きたいと思います。
【答】
日銀の説明責任については、これまで日銀の政策委員の方々もあるいは執行部の方々も、期待に近い、ないしは期待通りの責任を果たされたと思います。それは、先程冒頭にも申し上げましたし皆様もご存知の通り、日銀の政策がここ5年間あるいは数年間以上、かなり長い間動かなかったということ、それが非常にクリア過ぎる程クリアであったということからくるものかも知れません。従って、日銀の説明責任であるとか、透明性の確保ないしは向上という観点から言えば、正にこれからアカウンタビリティーが試される時であろうと思っています。福井総裁もいわば普通の状態に戻っているというような、これに近い表現をされていたかと思いますが、そういう状態の中での説明責任が、これから最も大事になってくるだろうと思います。
以上