ホーム > 日本銀行について > 講演・記者会見・談話 > 講演・記者会見(2010年以前の過去資料) > 講演・挨拶等 2000年 > 「貯蓄広報中央委員会委員総会」における総裁挨拶要旨

「貯蓄広報中央委員会委員総会」における総裁挨拶要旨

2000年 3月22日
日本銀行

  1. (1)貯蓄広報中央委員会の委員総会にあたり、ひとことご挨拶申し上げます。

  2. (2)最初に、最近の経済情勢と、日本銀行の金融政策運営について申し上げます。

  3.  昨年2月に、私どもがゼロ金利政策という思い切った金融緩和に踏み切ってから、1年以上が経過しました。

     この間の経済情勢を振り返ってみますと、まず、金融・資本市場では、景気の改善をサポートする良好な環境が維持されてきました。すなわち、ゼロ金利政策のもとで豊富な資金供給が行われ、市場の流動性懸念が大きく後退しました。株価も上昇し、長期金利はきわめて低い水準で安定しています。こうした金融環境の改善の下で、足許の景気は持ち直しに転じています。

     このような実体経済や金融面の動きを全体としてみた場合、ゼロ金利政策は、日本経済が、約1年前のような「デフレ・スパイラルの瀬戸際」といった状況を何とか脱け出し、回復の条件を徐々に整えていく上で、大きな役割を果たしてきたものと考えています。もちろん、その一方で、金利収入に多くを依存しておられる方々が厳しい状況にあることは、十分認識しておりますし、大変心苦しく思っているところです。

     ただ、目下のところ、日本経済に明るい兆しがみえ始めたとはいえ、個人消費や設備投資といった民間需要の自律的回復がはっきりと展望できる状態には至っていません。物価も、当面は横這いで推移すると見込まれますが、需給要因に由来する潜在的な低下圧力については、なお留意する必要があります。こうした判断に立って、日本銀行は、ゼロ金利政策を続けているところです。

  4. (3)次に、金融システム面、特に昨年末大きな議論を呼んだ預金保険制度の見直し問題および金融再編の動きについて触れさせていただきます。

  5.  昨年末、与党3党において、いわゆる「ペイオフ解禁」を1年間延期する旨の合意がなされ、先般、法案が国会に提出されました。

     この一両年、わが国の金融システムの安定化、信認向上のために様々な措置が講じられ、努力がなされてきただけに、「ペイオフ解禁」を1年延長するということに違和感を持つ向きもあろうと思います。ただ、国民負担を伴う特例措置をどの時点で終了させるかという問題は、最終的には立法府を通じた国民の判断によるべきものであり、今後の国会の審議を見守っていきたいと思います。

     この問題に関連してもっとも重要なことは、回復しつつあるわが国金融システム全体に対する信認を損うことがあってはならないということです。この点、金融機関経営においては、さらなる改善に向けた努力が必要であると考えています。

     こうした中で、昨年来、大手金融機関を中心とした大規模な金融再編に向けた動きが急速に進んでいます。また、最近では、銀行と産業界との間で、情報技術革新の成果も利用しながら、新たなタイプの金融サービスの提供を模索する動きもみられています。

     私どもとしては、こうした新たな動きの下で、市場競争のダイナミズムが十分発揮され、わが国金融システム全体の再生と機能向上が、より早期に図られることを強く期待しているところです。

  6. (4)さて、貯蓄広報中央委員会では、「貯蓄と消費のバランスある生活」の実現を提唱し、「金融経済情報のサービス」、「生活設計の勧め」、「金銭教育の普及」を3本柱とした活動を展開しています。貯蓄と消費のバランスのとれた健全な家計運営の実現は、国民個々の豊かな暮らしづくりに貢献するのみならず、わが国経済の安定的成長を実現していくうえでの基盤をなすものです。この点、当委員会の活動は「物価の安定を通じて国民経済の健全な発展に資すること」を目的とした私どもの日銀法の精神にも相通ずるものであります。

  7.  また、金融ビッグバンの進行に伴い、個人に自己責任が求められていくなかで、国民に金融・経済に関する正しい知識をいかに効果的・効率的に普及、浸透を図るかが喫緊の課題となっていると思います。

 このような状況の下で、当委員会は、預金保険制度や金融ビッグバンの内容の紹介など、金融に係る知識・情報の提供活動に積極的に取組んでいます。こうした活動は日本銀行の使命である、わが国金融システムの安定や信用秩序の維持といった面からみても重要であり、今後も、国民に対し、中立・公正な立場から、こうした知識・情報の提供活動を一層強化するよう期待しています。

 最後になりましたが、貯蓄広報中央委員会が実に約半世紀の長きにわたり、時代の要請に積極的に対応し、大きな成果をあげてこられましたことに改めて深く敬意を表する次第です。

 国民の「心豊かで安定した生活」を求める気持ちが一段と強まっておりますだけに、私どもとしても、先ほどの会長のお話からも窺えますように、時代の要請や国民ニーズの変化に柔軟に対応しつつ、中立・公正な立場から、国民生活をサポートするこの運動に強く期待しているところです。

 本日ご列席の皆様方の顔ぶれからも明らかなように、当委員会は、あらゆる分野の代表者で支えられています。国民的運動としてのこの運動に引続き格段のご支援・ご協力を賜りますようお願い申し上げまして、私のご挨拶とさせていただきます。

以上