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全国信用金庫大会における総裁挨拶要旨
2002年 6月21日
日本銀行
[目次]
はじめに
本日は、このような席にお招きいただき、誠にありがとうございます。信用金庫業界の皆様におかれましては、地域に密着した金融活動を通じて、地域経済の発展と、国民生活の充実に貢献しておられます。皆様方のご努力に対しまして、深く敬意を表したいと思います。
また、皆様方には、日本銀行の政策や業務の運営に、日頃から多大なご協力を頂いております。本席をお借りして、改めて厚くお礼申し上げます。
本日は、多少お時間を頂きまして、(1)最初に、最近の経済情勢と金融政策運営について、(2)続いて金融システム面の課題について、お話したいと思います。
経済情勢と金融政策運営
わが国の景気は、ほぼ1年前に本席にお招き頂いた後も、輸出・生産の大幅な減少が続くなど、広範な悪化傾向を辿ってきました。しかしながら、ここにきて漸く「下げ止まり」に向けた動きがみられるようになってきています。
その背景としては、米国など海外経済の回復の動きが挙げられます。このため、輸出がかなり明確な増加を示しているほか、国内における在庫調整の一巡もあって、生産も持ち直しています。
一方で、設備投資など、国内最終需要は依然として弱めの動きが続いています。家計の雇用・所得環境も、引き続き厳しい状況にあります。当面のポイントは、(1)米国を始めとする海外経済の回復テンポがどうなるか、(2)国内では、輸出・生産面の前向きの力がどこまで非製造業や家計部門に拡がっていくのか、といった点にあると考えています。
このように、わが国経済は、循環的にみれば、改善の動きが見え始めている訳ですが、不良債権問題に反映されるような様々な構造調整圧力を抱えている点には変わりありません。90年代以降の経験を踏まえても、そうした構造的な問題の克服を通じて、潜在的な成長力を高めていかない限り、民間需要の自律的かつ持続的な拡大は難しいように思います。
それだけに、景気に明るさが見え始めた今こそ、経済・産業面の構造改革や金融システムの強化への取組みを強めていくことが必要ですし、またその好機だと思います。政府の経済財政諮問会議でも、経済活性化に向けて真剣な取組みが行われています。
企業経営者の方々には、こうした機会を捉えて、是非前向きな経営・事業を展開し、需要の創出に繋げていって頂きたいと考えています。地域の金融の重要な担い手である信用金庫の経営者の皆様には、融資案件への適切な対応を通じて、そうした企業活動をサポートし、本来の信用仲介機能を発揮して行かれるよう期待しています。この点については、のちほど「金融システム面の課題」との関連で、もう少し詳しく触れたいと思います。
この間、日本銀行は、昨年3月に採用した新しい金融政策の枠組の下で、日銀当座預金残高を大幅に増額するなど、思いきった金融緩和を行ってきました。こうした金融政策運営は、金融市場の安定確保を通じて、景気の底割れを防ぐという意味で、大きな役割を果たしてきたと思います。
ようやく下げ止まりの動きが見え始めた景気の足取りを、さらにしっかりしたものにしていくためにも、金融政策運営面では、思いきった金融緩和を粘り強く継続していくことが、何よりも重要と考えています。
金融システム面の課題
次に金融システム面の課題について述べます。改めて申上げるまでもなく、わが国の金融は、多くの課題に直面しています。なかでも、不良債権問題の早期解決をいかにして実現していくか、来年4月に予定されているペイオフの全面解禁に対してどのような構えで臨んでいくか、といった点が重要だと考えています。そして、実はよりトータルな問題として、金融機関の破綻が続いたこの10年の間に損なわれた金融機関に対する信認をいかにして回復していくのか、という問題があると感じています。
この場におられる、各信用金庫の経営の任に当たっておられる方々も、日々そうした問題に腐心しておられることと思います。
しかし、今更申上げるまでもないことですが、金融機関が何よりも優先して取組むべき課題は、不良債権問題の早期解決ではないかと思います。不良債権の新規発生がなかなか止まらず、毎年のように収益の大半ないしはそれを上回るロスの処理を余儀なくされ続けている現状を改めていかない限り、預金者からの信認は得にくいと言わざるを得ません。
もちろん、不良債権の問題は、単に金融機関のバランスシートの問題ではなく、借り手企業が直面している経済の構造変化も絡む広がりの大きい問題です。ことに、中小企業については、個々の企業での対応に自ずと限界があると思います。社債などの発行が可能な大企業と違って、資金調達手段も限定されています。また、企業によって経営基盤も多種多様であり、その抱える問題も様々です。それだけに、金融機関サイドにおいて、各企業の実情をきめ細かくみていく必要があります。個々の企業と率直に問題点についての理解を共有し、掘り下げた対話を行うことが、不良債権問題ないし企業再建の問題を解決に導く鍵になると思います。そして重要なことは、対応が遅れれば遅れるほど、結局コストは高くつくということです。
こうした努力を具体的な成果につなげるのは、決して簡単なことではないと思います。しかし、地道に、かつ後手にまわることなく、問題に正面から取組むことがどうしても必要です。この点、信用金庫の皆様は、従来から貸出先企業との対話を重視してこられたと存じます。今後とも、地域経済にしっかりと根を下ろしておられる皆様方の努力に強く期待しています。
そうした個別金融機関や各企業の努力が、日本経済全体の回復にも大きく寄与することと存じます。私どもも、こうした皆様のご努力を可能な限りサポートして参る所存でございます。ご清聴有難うございました。
以上