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「日本経済と金融政策——多様性と国際性を長崎に学ぶ」
長崎県における中原審議委員講演要旨
2002年7月10日
日本銀行
[目次]
- 1.はじめに
- 2.景気の現状と当面のリスク要因
- (1)景気の現状
- (2)当面のリスク要因
- 輸出の持続性/内需拡大の可能性/米国経済と株価動向/
- ドル安と国際間資金フローの変化
- 3.金融政策について
- 4.日本経済が成長力をとり戻すために
- 5.最後に——多様性と国際性を活かして
1.はじめに
日本銀行政策委員会審議委員の中原でございます。本日は、長崎県の官界・経済界を代表する方々を前に、日本経済および金融政策をお話する機会を得まして大変光栄に存じます。昭和24年の開店以来、私共の長崎支店は地元の皆様に大変お世話になっております。本日はご多忙な中、私の講演会にご来臨賜りましたことと併せまして、永いお付き合いに対して心から感謝申し上げます。
過去、何回か当地を訪問する機会に恵まれましたが、長崎県の特徴は多様性と国際性という言葉にまとめられるように思います。地勢的には、九州本土西端の半島部と、対馬・壱岐・平戸・五島列島をはじめとする約600の島嶼、この2つの部分から成っており、長崎市以下8市、70町、1村の79自治体の殆どが海に接しています。こうした地勢的な特徴に、古代からの中国・朝鮮との通交、鎖国時代の西欧諸国との窓口という歴史が加わりました。県土の9割が山地で占められているため、長崎県内の各地域は、海外との交流を経ながら、それぞれが独自の文化・風土を形成してきました。この結果、県全体としてみると、多様性と国際性という特徴が形成されてきたものと拝察します。今後の日本経済を考える上でもこの多様性国際性はひとつの重要なキーワードとなるのではないかと思います。
さて本日は、現下の経済情勢、先行きのリスク、そして金融政策の考え方を中心にお話をさせて頂きますが、その後で日本経済の構造問題の一側面である不良債権の問題及び中小企業と経済空洞化の問題について簡単に触れることにいたしたいと思います。
2.景気の現状と当面のリスク要因
(1)景気の現状
景気の現状につきまして、一言で申し上げれば、「輸出の増勢を背景として底探りから底固めへ向かいつつある」という局面であろうと思います。
経済の川上部門である企業部門においては、製造業を中心として、在庫調整がほぼ終了し生産・出荷が増加しています。実質輸出は本年第1四半期に前年比でプラスに転じた後、本年度に入っても順調な伸びを維持しました。国際的な荷動きも活発化してきています。主に、電子部品やゲーム機の搬送に使用される航空輸送は、5月に前年を20%程度上回り、特にアジア向けでは前年比30%増となりました。これは、実質輸出を財別にみた場合、情報関連や消費財が伸びていることからも裏付けられます。こうした需要に対応するため、4~6月期の生産は、前期比3.7%の高い伸びが予想されています。生産・在庫調整は、昨年10~12月期に底を打ったと申し上げてよいでしょう。先日発表された6月短観によれば、製造業大企業の景況感は3月に比べて20ポイントの大幅な改善となりました。この改善幅は74年の短観調査開始以来、最大です。企業収益も回復する見通しにあります。同短観によれば、2002年度の経常利益は、売上が横這いの中、大企業製造業で34%、中小企業も含めた全産業で16%の増益を見込んでいます。
しかし、こうした輸出、鉱工業生産および企業収益の動きとは裏腹に、最終需要は回復の動きに乏しいと言わざるを得ません。設備投資は、2002年1~3月期の法人企業統計では、全産業・全規模の前年同期比は-16.8%と大きなマイナスとなりました。中でも、電気機械が-50.0%と落ち込みの大きいのが目立ちます。半導体事業を縮小撤退したり、分社化を進めている大手電気機械メーカーの工場統廃合はなお行われているようですし、鉄鋼・化学など重厚長大産業の設備過剰感も強いようです。非製造業においても設備投資の意欲は弱い動きが続いています。金融関係のシステム投資は一段落となりましたし、小売業の一部では、「売上を増加させるために継続的な新規出店が欠かせない」としている先もありますが、全体としては盛り上がりに欠く展開となりそうです。また、民間住宅投資も、2002年1~3月期のGDPは季調済前期比-2.3%とマイナス幅を拡大しました。今まで住宅投資については、一戸建住宅が冴えない一方で、マンション等の新規分譲や貸家等が相対的に好調であり、全体としての需要を下支えしてきました。しかし、ここへきて、マンション販売における契約率が下がったり、ショールームへの来客数が減少するという話を聞いています。個人消費については、供給サイドからみますと、価格が低目の小型車や軽自動車が中心とはいえ自動車の販売が好調なうえ、バブルが崩壊して以降、減収減益であったスーパー業界も増収増益に転じるなど底固い部分もあります。しかし、引続き所得・雇用など消費を巡る環境は厳しい状況が続いています。
以上、景気の現況をまとめますと、底探りから底固めの動きが感じられるものの、内需拡大のモーメンタムは弱く、また以下申し上げるような今日の景気回復の特徴とも言うべき多くの脆弱さや不確実性、リスクを抱えていると言わざるを得ません。今後第4四半期にかけて、我が国経済は全体として緩やかな回復基調に入ると思いますが、その足取りは弱いものとなりそうです。さらに物価についても、円高基調への転換やこうした内需の弱さを反映してデフレ傾向が続くとみられます。
(2)当面のリスク要因
では、景気の先行きにおいて、どのようなリスク、不確実性があるのでしょうか。今回の回復の特徴的な点を挙げながら検証してみたいと思います。
先ず第一は、輸出の持続性です。今までの景気回復パターンは、ロケットでいえば、輸出と公共投資という二つの補助エンジンが点火、時間をおいて内需という主エンジンに点火して上昇軌道に乗るというものでしたが、今回は補助エンジンは輸出しかありません。従って輸出の増加がいつまで続くかが大きな問題です。今のところ、アジアの内需が急速に立ち上がって来たことや昨秋来続いた円安の累積的効果が残っており足許の輸出の増加は予想を上回ると言っても良いものです。しかしその持続性については不安があります。ここへ来て、情報関連財の輸出が増えていますが、これは世界的に大幅に調整された電子部品等の在庫の積増しに伴うものであり、パソコンなど最終製品の出荷にいまだ本格的な動きがない状況の下で、いずれ輸出の増加テンポは緩やかになっていくとみられます。後に述べますとおり、米国景気の本格的な回復が、遅れる懸念もここへ来て強まってきていますし、折りからの円高基調への転換や中国、韓国などのセーフガード援用の流れも輸出の頭を抑える要因として働く可能性があります。
第二の問題は、景気を自律的回復軌道にのせるのに十分な内需、即ち設備投資と消費がどのようなタイミング、どのような強さで出てくるかと言う問題です。先日の短観によれば、今年度の国内の設備投資計画は、大企業で前年比6.7%減少、中小企業で9.3%減少となっています。まだ、過剰設備の重しが重厚長大産業を中心に残っており、また新規の投資は中国を中心に海外に向かう可能性が高く、国内の設備投資は今年度も前年実績を下回る惧れはかなり高いと思います。雇用の調整は、製造業・大企業においては一段落したのではないかと思いますが、引続き人件費を圧縮する観点から正社員をパートに切替えたり、ベアや定昇の廃止など賃金体系の見直しが進んでおり、雇用と所得を巡る環境は厳しく、消費に大きな期待はできません。
以上、設備投資と消費からなる内需という主エンジンに点火するのか、点火するとしてもそれはいつ頃になるのか、その前に輸出という補助エンジンが燃え尽きてしまわないか、といった懸念が残るところです。
第三は、海外経済、特に米国の経済の動向についての先行きが不透明なことです。米国の実体経済はについては多少の経済指標の振れはありますが、総じて順調な回復過程を辿っていると言ってよいでしょう。消費は引続き堅調ですし、ISM指数をみても受注生産などの指数は景気の順調な回復を物語っています。問題は株価です。世界の景気回復がアメリカ経済に頼る構図が強まっている中で、米国株価の軟調な地合いに世界の株価が連動し、下落しています。S&P500指数やNASDAQは、昨年秋の同時多発テロ以降の最安値を最近更新しています。また、株安に加え、ここへ来てアルゼンチンやブラジル等エマージング諸国の金融資本市場が不安定となっていることも、米国経済の先行きを占ううえにおいて気がかりです。
さて米国株安の背景としては、エンロンに端を発した会計や企業ガバナンスに対する不信感、中東情勢の緊迫やテロ再発懸念および企業収益の早期回復に対する期待の剥落の3点が挙げられると思いますが、私は最初に挙げた要因、企業会計に対する不信の影響が大きいと感じています。企業会計の問題は、SECなど当局の対応がすばやく、いずれ収束すると思いますが、投資家の信頼が回復するにはまだかなり時間を要するのではないでしょうか。また、ストックオプションの経費計上の問題はまだ結論が出ていませんが、万一経費に計上するとなると企業会計技術上の問題とは言え、表面上の企業収益を引き下げ市場にもネガテイブな影響を与えることになるでしょう。今回のこのような問題を契機として、短期的な株高志向の経営という米国流のビジネスカルチャーにも変化が出て来るのではないかとみています。また一説には、そもそも今回の米国ITバブルの崩壊——見方はいろいろあるでしょうが、株価の動きからすれば私はやはり1999年から2000年の米国経済はバブルであったと言って良いと思います——以後、十分なストック調整が行われていない、「特に企業・家計の債務が極めて高水準である」、「家計は住宅価格の持続的な上昇を頼りに消費を続けておりこの構図はいつかは崩れる」、「企業は高レバレッジ経営を続けて来た咎めが出てくる」、というような見方から景気のダブルデイップや企業収益の低迷を予想し、株式市場に対して長期悲観論を唱える向きもみられます。米国の資産構成をみますと、家計、投資信託、年金基金、そして保険、いずれも株式の割合が高く、株価の下落が実体経済に与える影響については、懸念材料として慎重にみておくことも必要と考えています。しかしながら、私は、株価の基本は、企業収益に対する期待成長率であると思います。現在、企業部門においては、人件費等の固定費を削減する努力が続けられており生産性の上昇も続いています。通信など大幅な稼働率の低下に悩む業界もありますが、総じて設備ストック全体の調整はかなりの程度進んでいるように思います。また、底固い消費を支えている一つの要因と言われる住宅価格の上昇も、一服傾向とはいえ、雇用や所得、金利環境などについて大きなショックがない限り、大幅に下落して逆資産効果が生ずる可能性は低いと思います。このようなことから米国経済は年度後半には企業部門の設備投資が増加し、米国経済全体も本格的な回復パスに戻るというシナリオを私はまだ捨ててはいません。
四番目の問題は、為替の問題です。6月短観によれば、大企業が今年度の業務計画の前提としている円相場は、対ドルでみて、125円73銭となっていますが、最近の円高傾向が企業の収益を圧迫し、これがひいては株価に影響することが心配されています。円高と言いましたがこれまでの流れでは、むしろドル安というべきでしょう。対ユーロでは3月末比で1%程度の円安、対アジア諸通貨では小幅の円高となっていますが、円の実質実効為替相場は3月末から特に円高に振れているとは言えません。このようなことを考えると、円高というよりも、むしろドル安が、米国経済の何を物語っているかが重要です。ドル安が米国の中長期的構造問題に根差すものであり、今後趨勢的なものとして持続的ドル安円高が続くとすると、日本経済も大きな影響を受けることになるでしょう。当面のドル安要因としては大きく言って2つあると思います。第一は米国への資本の流れに変化が出て来たことです。2000年から2001年にかけて米国のITブームの中で生じたM&Aによる欧州からの資本流入が大幅に後退しています。また米国への証券投資も、米国企業の収益回復に対する懸念や企業財務に対する会計不振から株式を中心に細ってきているようです。折悪しく米国財政が2002年財政年度で1000億ドルの赤字となる一方、企業、家計の債務比率は高く、米国全体として大きな貯蓄不足に傾いており、ドル下落は構造的な問題という見方も強くなってきました。今のところ、グローバルな通貨ポートフォリオの組替えが起きているという確証はありませんし、日本やEUの景気回復の足取りも弱いところから、私はこの先どんどん大幅なドル安が進むとはみておりませんが、日本をはじめ世界景気の先行きを見るうえで注意を要すると思います。
3.金融政策について
(1)量的金融緩和の効果と問題点
さて、以上に述べたような輸出主導の緩やかな景気回復が始まっているとはいえ、さまざまなリスクや不確実性を抱える日本経済に対し、金融政策はいかにあるべきでしょうか。まず、現在の量的金融緩和が何を目的とし、どのような効果を挙げてきたのか振り返ってみたいと思います。
日銀は、昨年3月、それまでの銀行間の資金取引市場におけるオーバーナイト金利を一定の水準に保つ調節方法から、日銀における銀行など金融機関が保有する当座預金残高の合計を一定額に保つ「量的金融緩和」策に切替えました。併せて、そのような政策を、消費者物価の前年比上昇率が安定的に0%以上になるまで続けることを約束しています。具体的な操作目標である当座預金残高は、その後の景気悪化に従って、昨年の8月、9月、12月に引上げられ、現在は10兆円から15兆円というレンジを目標として金融調節を行っています。また、この間、長期国債買切りオペを増額したり、適格担保の種類を広げるなど、量的目標を維持するための調節手段の多様化や拡大を行ってきました。
このような量的緩和が狙ったものは何だったのか、私は大きく三つに整理できると思います。第一は非常に豊富な流動性を市場に供給することにより、金融資本市場に安心感を与え無用の混乱を防いだことです。9月11日のテロ直後や年末、またペイオフ解禁を控えた3月期末など市場は多くの不安や混乱の要因を抱えていましたが、日銀は徹底的に流動性を供給し市場に安心感をもたらし、大きな混乱もなくこれらの時期を乗り切ったことはご存知のとおりです。
第二はこのような量的緩和を、消費者物価が安定的にゼロ%以上になるまで継続することを約束したことにより、長目のターム物金利を低い水準に安定させました。ターム物金利は、将来の予測された短期金利に、期間によるリスクプレミアムを加えたものになります。市場参加者は、このような約束により、それぞれの予測の範囲で日銀が将来にわたり金融緩和のスタンスを変えることはないと判断し、結果としてターム物金利のリスクプレミアムが縮小し、それを低い水準で安定させることになったものです。
以上、流動性の供給による金融資本市場の安定化と、いわゆる時間軸によるターム物金利の低い水準での安定が市場に安心感を与え、国債や株式市場を下支えし、また、実体経済面におけるデフレ圧力を和らげる効果を持ったであろうことは否定できません。
量的緩和が狙った第三の効果は、ベースマネーを大幅に増加させることにより銀行の信用創造機能を刺激し、またリスクテイクの姿勢を強めさせて、これがポートフォリオリバランスやマネーサプライの増加を通じたインフレ期待を作り出し、資産価格を上昇させ実体経済へ刺激をもたらすことです。
これについては、その効果は未だ不確実と言わざるを得ません。日銀の当座預金と現金の合計であるベースマネーは、このところ30%前後の伸びとなっていますが、現金・銀行預金およびCDの合計額であるマネーサプライ(M2+CD)はわずか3~4%しか伸びていません。日銀が国債を買って供給した資金は、銀行の当座預金に入ります。供給された資金は、実体経済からの資金需要が極めて弱い中、再び銀行による新しい国債購入に使われ信用創造に繋がっていきません。企業は過剰設備を抱えグローバルな競争にさらされており、財務体質を強化することを優先しているため、借入を増やして新しい投資をしようとはしません。家計は、物が溢れて欲しいものがあまりないうえ、年金や医療、老齢化などの将来への不安が強く、物価が下がって実質的な購買力が増えても消費を増加させようとはしません。しかしながら、これは、量的緩和が有効でないと言うことを意味するものではありません。ゼロ金利下での量的緩和は、明らかに単純なゼロ金利政策よりも、「より多くのベースマネーを供給できたであろう」という点において、また「期待形成の働きかけの強さ」という点において、その緩和の効果は高いものと思います。問題は量的緩和が有効であるための前提条件が満足されていないことにあります。量的緩和によるリバランスが起きるためには、銀行の信用仲介機能やリスクテイクの機能が健全に働かなくてはなりませんし、企業の投資意欲やクレジットに対する需要が必要です。銀行も企業もバランスシート調整に力を入れざるを得ない経済の下では、量的緩和の有効性は大きくそがれてしまうと思います。
これまでの量的緩和については、いろいろな疑問や問題点も指摘されています。例えば、「なぜ10~15兆円という曖昧な目標とするのか」、「最近吸収オペをやっているが引き締めているのではないか」、「デフレが止まっていない、デフレが止まるまで18兆円でも20兆円でも目標を引上げるべきだ」、「目標を達成する方法がないなら、もっとどんどん長期国債や外債を買うべきだ」、「インフレターゲットを設定してインフレ期待を醸成すべきだ」というような点です。また一方では、「量的緩和の弊害としてインターバンク市場の流動性がなくなり、すでに市場として機能していない」という指摘もあります。
これらについては、私は次のとおり考えています。先ず、10~15兆円というレンジで目標を示したのは、これを定めた12月においては、年末を控えて流動性不安が強く、市場が必要とする流動性を十二分に供給せざるを得なかったこと、およびその反面先行きにおいては、流動性需要の縮小が予想されたため、目標の幅をもって示さざるを得なかったことによるためです。もちろん、これでは調節のDirective——指示——としては不十分ですので、10~15兆円の出来るだけ高い水準を狙うということが議事の中での合意となっています。現実にその後市場が不安定となった場合には、その目標にかかわらず一層の供給を行うとの「なお書き」により期末には27兆円の当座預金となりました。また、今年度に入ってから資金需要に多少落着きが出てきましたが、ほぼ上限である15兆円レベルをキープするような調節を行っています。必要に応じ吸収オペも行っていますが、これは目標を超える過剰な資金を現先オペにより吸収し、その満期を将来の資金不足日にあわせること等の操作により将来の札割を防ぎ、15兆円という高い目標を平均的に維持するために行っている操作であります。決して金融を引締めることを意図したものではありません。ここで注意しておかなくてはいけないのは、当座目標の数字そのものが緩和の程度を比例的に表わしているわけではないということであります。もちろん、15兆円の方が10兆円より緩和度は高いはずですが、1.5倍高いというわけではありません。あくまでマーケット環境との相対的な関係によるものと思います。例えば3月末などは27兆円も出してやっと落着くという状況でしたし、今の環境では15兆円のレベルでも極めて安定したマーケットとなっています。
デフレが止まらないからもっと目標を高くせよという主張もあります。長期的に物価が貨幣的な現象ということは否定しませんが、ベースマネーをいくら増やしても貨幣——マネーサプライが増えていないのが現実です。企業の価格支配力が弱まりエマージングマーケットからの供給圧力が恒常的に続くなかでは、ベースマネーを増やすだけではデフレを止めることは出来ないと思います。また、そもそも、量的緩和目標の下で際限なく目標額が増やせるかという問題もあります。市場がそれ以上流動性を受け付けない限界に達すれば、日銀は思うように短期国債や手形による流動性供給オペを行うことができません。だからといって、長期国債をどんどん買えるかといえば、財政規律に対する懸念から長期金利が上昇してしまうリスクがあり、その額は自ずと制限されます。さらに外債を買入れることについては、調節手段としては考え得ると思いますが、ある程度継続的で安定的な調節手段としては当面直ちに採用すべき方法とは思われません。インフレターゲットについては、既に多くの議論が行われており、詳しくは立ち入りませんが、方法論と切り離した目標設定は意味がないと思います。また、ターゲットを設定したからといってインフレ期待が出てくるとは思われません。ただ私は、中央銀行が、物価安定の定義として物価上昇率について具体的数字を持っておくことは必要なことではないかと思います。
量的緩和の弊害として、流動性を供給しても、これが一部に偏り、固定化してしまって、機動的・弾力的なインターバンク市場が崩壊したという副作用を指摘する声もあります。当初は、「平常時では恐らく達成が困難ではないか」と見られていた15兆円レベルのターゲットが結局のところ引続き達成できています。しかし、その背景になっているのは、銀行間の市場が極めて変則的な市場となっているということだと思います。コール市場は、2000年10月には30兆円程度の規模でした。今や縮小に縮小を重ね、14兆円程度になっています。これは、金融システム不安、信用不安が拭い切れない状況が続く中、ゼロに近い金利のもとで資金放出をしないことによる機会費用が極めて小さく、金融機関が資金放出してカウンターパーティーリスク——相手方の信用力に係るリスク——をとるより手許に残しておくことを好んでいるためでもあります。すなわち、金利さえ払えば必要なときに必要な資金がとれるという銀行間の資金取引市場としての機能は働かず、市場の流動性の供給は、専ら日銀がオペを通して行うという極めて変則的な市場に変質してしまっています。これはまた、銀行の裁定取引等の機会を奪うことにもなり、銀行は資金取引の担当者を減らし始めている模様です。このように量的緩和策が、市場機能や価格メカニズムを失わせ、信用さえあれば必要な時に必要なお金がとれるというアベイラビリティを損い、結果として緩和効果を抑制することにならないか、慎重にみていく必要はあると思っています。
(2)今後の金融政策について
さて循環的な回復が始まった状況の下で、今後の金融政策はいかにあるべきか。結論から申し上げれば、引き続き量的緩和を根気強く維持していくべきであると思います。即ち、10~15兆円の目標の高いところ、現実には15兆円の水準を目標として、景気回復が明らかとなり、その持続性と自律的回復過程に自信が持てるようになるまで今のスタンスを続け、緩和の軸を振らさないことが必要と思います。また一方で、内外の実体経済面や市場における何らかのショック等で景気の腰折れなどのダウンサイドリスクが顕現化する惧れが強まる場合や金融システムが不安定になる場合には、目標の引上げやそのための調節手段の一層の工夫を検討すべきと考えています。さらに、その先について、景気が自律的な回復過程に入った場合、当座預金への需要がどう変化するのか、それに応じて時間軸のコミットの下で操作目標をどのように設定していくのか等は当然ながら今後の検討課題でありましょう。
先程、量的緩和の効果の中で、マネーサプライの増加やポートフォリオリバランスを通じた実体経済面への効果は未だ不確実と言わざるを得ないと申上げました。これまでのところは、各経済主体が、構造問題や将来不安を抱えている中で、金融の緩和に反応して前向きの回転を見せ始めていないのです。実体経済における貨幣需要は弱く不安定で、金利への感応度は極めて低くなっています。しかし先程も述べたとおり、これは量的緩和が全ての経済情勢の下で全く無効ということではありません。景気回復の持続性はまだ確信が持てないにせよ、生産が底打ちし企業のリストラもかなり進んでいます。言わば、蒸気機関車のスチームタンクに蒸気が溜まり始めているのが現在です。このスチームの力が前進する力を生み、車輪が動き出す、その時にブレーキがかけられていては列車は動きません。量的緩和はスムーズで自律的な回復過程に移るために必要な環境の一つです。ブレーキが解除され、経済の自律的な回復の動きが出てきたときにこそ、量的緩和の累積的な効果が現われてくるのではないかと思います。
4.日本経済が成長力を取り戻すために
再び、日本経済の話に戻ります。日銀が4月に出した「経済・物価の将来展望とリスク評価」の中で、今後のリスクとして、雇用・設備の調整圧力、海外経済の動向、資産価格の動向、不良債権処理の動向そして構造改革の影響を挙げています。一部のリスクについては、当面のリスクとして先程具体的にお話ししました。ここでは日本が再び成長力を取り戻すために必要な構造改革の中で、不良債権の問題、および中小企業と経済空洞化の問題について、問題提起の域を出ませんが多少触れてみたいと思います。
(1)不良債権処理について
昨年度末、金融庁の特別検査を経て、大手銀行は7.8兆円もの不良債権処理を行いました。しかし、残っている不良債権は、年間の業務純益の規模を超えています。今後の構造改革によりデフレ圧力が高まる中で企業倒産はなお増加するとみられ、しばらくは不良債権の新規発生は高水準で続く惧れがあります。一方、銀行は財務体力を既に使い果たしており、金融システムはなお脆弱と言わざるを得ません。本年末にかけて株価の動向如何では、金融システムに対する不安が、本年初に見られたように再び高まる惧れは否定できません。不良債権処理を進めるにあたっては、次の3つのステップが必要です。即ち、不良債権処理のための環境を整備することであり、不良債権の発生を止めることであり、不良債権を処理するための原資を作り出すことです。
先ず、不良債権処理の環境整備ですが、これは「アメとむち」をうまく使い分けることです。処理を進めるにあたっては銀行にそのインセンティブを与えるべきです。処理に関連しての税の扱い、益の繰り戻しや損失の繰り延べについては、各方面より色々な提案が出ていますが、是非早急に検討すべきと思います。またRCC(整理回収機構)への売却にあたっては、価格の面で何らかのインセンティブが必要です。もちろん、簿価での買取りには問題がありますが、税と組合わせた何らかのインセンティブは考えられないのでしょうか。もちろんアメだけではなくムチも必要です。不良債権処理の時限制については、既に金融庁からガイドラインが出されていますが、これは極めて厳格に運用されるべきでしょう。今年度中に、先般の特別検査の手法に準じて、さらに検査が進められる方針と聞いていますが、不良債権問題の第一歩は厳格な自己査定と検査・考査、それに対する十分な引当です。今後も検査・考査を通じて各行間の査定に横串を入れバラツキを無くすべきでしょう。問題となる要注意債権、要管理債権の引当については、一般貸倒引当金のみでなく、会計処理上弾力的な対応ができるような工夫が要るかもしれません。RCCの機能整備も重要です。特に、企業再生機能はさらに拡充すべきであり、人的資源が十分でないならメインバンク等から人を出すことも検討に値します。さらに、「RCCに移されたら信用を失い倒産するしかない」という中小企業の不安を払拭する手だてはないものでしょうか。いずれにせよ不良債権処理については、今や市場メカニズムと銀行の自助努力による解決には限界があるように思います。
次に、不良債権の新しい発生をとめるために何をすべきでしょうか。私は、要注意債権の見極めが決め手になると思っています。要注意先というのは二つに分かれます。一つは、現在の経済構造変化についていけない、いずれ破綻懸念先以下へ下に移る可能性のある先と、もう一つは、現在業況は悪いが、その悪さは循環的なものであり、コア収益力がある、あるいは新技術や新規業務への発展力をもっている先です。特に中小企業では、コア収益力はあるが、「相続税対策で建設したオフィスビルの借入が重荷になっている」というような資産デフレの影響を受けている先も多いのです。銀行は、いずれにせよ不良債権処理の過程で選別はやらざるをえないでしょう。しかし、後者のような本来的に収益力を有する先が、何も手が打たれずに一律に不良債権として扱われ処理されてしまうことは社会経済的にも大きなロスでしょう。ここには企業および銀行が一体となった対策が求められるとともに、なんらかの公的サポートも必要ではないでしょうか。この対策は、中小企業の構造問題への対策でもありますので、後で述べさせて頂きます。
最後に、金融機関に求められているのは、収益の拡大・コア業務の再認識という点です。公的金融機関の業務の縮小などマクロ面での環境整備は重要ですが、銀行サイドも果断なリストラ等の収益力の向上策を避けては通れません。最近、貸出スプレッドを拡大する動きがでています。これは望ましい方向ではありますが、銀行と企業が同じパイを奪い合うのでは意味がありません。銀行は付加価値の高いサービスを心掛けるべきです。また、儲かるものとそうでないものをはっきりさせ、何を収益の柱に据えていくのか明確にしていくことが必須と考えています。先日の大手銀行のシステムトラブルをみると、あのような業務が本当に収益源となっているのかという疑問が湧きます。そもそも根本的な取組み姿勢に問題があったことに加え、収益性の少ない業務であったためにコストのかかるシステム対応が十分でなかったということはないのか、銀行の公共性を考えながら今後どのように効率化していくのか、全銀行に係る問題として検討する必要があるのではないでしょうか。
なお、不良債権処理と並び、今の邦銀にとって最も重要な課題であるペイオフ開始について一言申し上げます。モラルハザードを起こさせない、問題を先延ばしせず銀行業界の再編を促進し構造改革を少しでも早く前に進める、との観点からは、スケジュールどおりの解禁が望まれるのは言うまでもありません。しかし、来年4月の流動性預金に関する解禁は、本年4月の定期性預金とは質的に異なる、はるかに大きなインパクトを与えるものであるということも認識しなければなりません。資金流出にさらされる銀行の問題ばかりでなく、流入する銀行や金融機関とその市場にも不安定をもたらす惧れがあります。ペイオフ開始までに、金融システムが盤石となり、上記のような不良債権処理への道筋がきちんとつけられていなければなりません。金融機関、政府、そして日銀も、改めて流動性預金のペイオフ開始のためにどのような環境や条件が必要か検討し、早目に認識の統一を図る必要があると思います。
(2)中小企業の構造問題および経済空洞化に対して
日本経済は、マクロ的にみると、過剰な設備・雇用に加え、過剰な債務も抱えています。これを解消し最適な経済資源の配分を達成するための構造調整を行わねばなりません。このような経済活性化のための税制改革の役割は非常に大きいと思いますが、ここでは割愛します。三つの過剰の解消は、大企業製造業ではここへ来てかなり進展して来ています。先般の経済産業省の調査でみても、2~3年で目途がつくように思います。一方、中小企業はこの問題の解消が進んでいません。GDPの民間資本ストックや法人企業統計から計算してみますと、労働分配率、資本係数およびキャッシュ・フロー債務比率は、中小企業ほど過剰感の強いことが分ります。特に、過剰債務の問題は、金融機関が収益性をあげるためリスクに応じた利鞘の拡大を図っているだけに影響は深刻です。中小企業の経営者は、個人的に債務保証をされている方が多く、本業の不振が個人の生活までも脅かす可能性もあります。中小企業の方とお話させて頂くと、「大企業には債務免除が認められているのに、なぜ中小企業には認められていないのか」という声すら聞えてきます。中小企業の構造問題、3つの過剰の解消やその活性化は、日本経済全体の構造調整の重要なポイントとなります。全国5百万社の中小企業は、41百万人と大企業の約3倍の雇用を抱えており、全企業の売上の40%強を占めています。組立産業の国際競争力強化に、中小企業が今なお大きな役割を果たしているのは改めて申上げるまでもありません。
もう一つの構造調整のポイントは、中小企業の構造問題と密接な関係を持つ、経済空洞化への対応です。空洞化の原因の一つは、中国をはじめとしたエマージング・マーケットの経済成長によるものです。エマージング・マーケットは、供給する財やサービスの高付加価値化を進めています。中国からの輸入というと、セーフガードの対象となった食料品や繊維といったイメージが強いですが、品目別のシェアをみますと、ここ10年でもっとも伸びているのは電気・一般・精密機械であり、2001年における中国からの輸入金額の約3割を占めています。また、日本の企業は、生産工程の下流部門だけでなく、研究開発やマザー・ファクトリー等上流部門も中国に移し始めています。さらに、中小企業の職人芸的技術を持った中高年の熟練工が中国で雇用されるケースも出ていると聞きます。これは例えば、数千分の一ミリの誤差も許さない軸受や金型を作る、生産工程での技術という日本のお家芸が流出してしまうことでもあります。
まず最初に挙げた構造問題−過剰債務の問題に関連し、中小企業の金融円滑化の観点から考えてみたいと思います。現在、中小企業は過剰債務を抱えながら、また抱えているが故に、資金調達の不安が最大の問題の一つであり、先日の短観からも、中小企業の資金繰りが厳しさを増していることがみてとれます。資金調達の第一歩は企業の価値を高めることが第一歩でしょう。自社のコア技術はなにか、コアの収益力はどのような商売から産み出されているのかを把握し、日本と世界の構造変化のなかで生き残っていく道を新しい発想から考えていくことが必要です。このため、外部の力を借りるのも良いでしょう。私の民間銀行時代の経験から言わせて頂きますと、銀行は、損益計算書において営業収益より上、つまり企業の本業の分析が得意ではありません。しかし今後、銀行は、担保力ではなく、コア収益力に基づいた業務計画が納得のいくものかどうかを判断していく必要があります。銀行も、このような顧客の動きに、その情報力を生かし積極的に手を差し伸べていくべきです。また銀行は、中小企業のために積極的に資金調達の手法の開発を行うべきです。アベイラビリティを補強する手段として、コミットメントラインの条件を緩めることは必要ないでしょうか。売掛債権の流動化もなかなか進展していないようですが、さらなる工夫はないでしょうか。銀行が付加価値の高いサービスを提供していくことにより、「信用リスクに見合うスプレッドを払うべき」とか「貸しはがしされている」と言うような不毛の議論を無くしたいものです。
中小企業金融については、企業自身および銀行の対応の他に、財政の出番も必要でしょう。現在、公的な中小企業金融については、転業への融資・補助制度はありますが、参入規制のない業界における廃業への融資・補助制度はないようです。中小企業の方からは、「後継者がいないし将来性がないので、債務超過にならないうちに廃業したい。しかし、廃業するための資金繰りがつかないので廃業もできない」という話も伺いました。退出しようとしてもできない企業の存在が、供給過剰問題を長引かせています。中小企業経営者の方々は、儲からない事業を行うことに必ずしも固執されてはいません。東京のある工業会の会長からは、「労働集約的な工程が海外に移るのは避けられない。また、傘下企業の中で、後継者のいない先は廃業したらどうかと指導もしている。日本国内では、付加価値の高いデザイン・企画や販売で生き残りを図る、つまり本当に強い企業だけで国内でも営業できる業界にしたい」との話も聞きました。こうした中、中小企業については、モラルハザードを防ぎ本当の競争力を高めるための実効性ある対策を講じつつ、廃業資金を供給することも考えるべきではないでしょうか。
次に、空洞化への対策は、先の工業会の会長の言葉にあるように、中小企業自身が国内では付加価値の高い財の生産に特化し、それ以外の分野では積極的に海外との分業関係を築いていくことが必要になってきているのでしょう。また規制緩和、税制面からの対応を進め非製造業も含めて中小企業の持つ技術を育てたり起業やベンチャーを活発化させる政策が望まれます。このような政策に関連し、先日シンガポールに出張した時にEDB(ECONOMIC DEVELOPMENT BOARD)から聞いた話は印象的でした。シンガポールは巨大な中国の経済力と市場の拡大を展望し、人材育成や企業家の創造性育成というミクロレベルの産業政策に注力しているとのことでした。具体的には、起業家間の事業提携機会の斡旋、研究所や大学の誘致を通じた人材の育成などです。国内産業の活性化を担っているEDBが、先進各国にオフィスを設けて各国での技術情報やベンチャー・キャピタルの情報、さらには人材まで集め、内外で異業種交流パーティ等を主催しているのは驚きでした。EDBは「そもそも政府は産業政策において素人である」という認識の下、「単純な減税や投資といったマクロ的な政策は、モラルハザードを引き起こしたり、逆に技術進歩の極めて早いなかで次世代を担う産業を発掘できないリスクがある」として「個別の企業が自発的に成長できる環境を整えること、bottom-upのミクロの産業政策を主眼とする」と話していました。例えていうと、「国は温室を造りその中にいろいろな植物(企業家、大学、人材)を集めるが、肥料や水(投資や減税といったマクロ政策)を与えるよりは植物同士が影響し合い成長する中で最適の共生の環境ができる」事を狙っているものと言えましょう。この結果、起業や大学、人材の集積も進みつつあるようです。先日、生命科学の分野に従事する日本の優秀な大学教授が定年を機会にシンガポールへ研究所ごと移った、という話が新聞に報道され話題となったことはご存知かと思います。このような手法での起業援助やベンチャー、中小企業の育成、産学連携などは日本でも地方自治体のレベルで試みが始まっているようですし、先日の第二次デフレ対策にも一部うたわれているのは心強いところです。国レベルでの政策を早く軌道に乗せて行くことが必要ではないかと思います。
5.最後に——多様性と国際性を活かして
明治国家建設まで、日本は、長崎を通して海外を理解し、そして「日本」という自我を確立していきました。海外も、長崎というフィルターを通して日本というものを理解し、それを国際社会に迎え入れてきました。日本人に馴染みの深いグラバー、シーボルトほか、多くの海外の方が長崎を故郷として愛しました。1881年に長崎に赴任した米国人宣教師C.S.ロングの妻フロラは、長崎に赴任するときの喜びを「早春の陽光、たおやかな風、つつじの咲く丘、物静かな港の光景、私達は夢にみたあの長崎に着いた」と記しています。その地勢上の特色から、幾多の多様な文化を包摂しながら、真の国際性を身に付けていた長崎に着いたからこそ発せられた言葉なのでしょう。
今、日本経済は空洞化が進んでいます。企業のみでなく、優秀な才能が逃げ出し始めています。日本人向けのセミナーの中で、ある海外ビジネススクールの教授が「皆様のビジネスが最もうまくいく一番の方策は、日本以外の国でビジネスを行うことだ」と講演したという話があります。頭脳流出まで生じ始めている我が国は、とても「夢にまでみた日本」とは言えない国になってしまいつつあるようです。今後日本経済が、再び成長力を取り戻すためには、日本の経済構造の持つ多様性国際性を活かし、様々な企業や様々な分野での科学技術力、経営力や人材を結集し、国として、地方自治体として、企業としてそれぞれの国際的な競争力を高めていく必要があります、そしてそれをもとに付加価値の高い財・サービスを供給し、この付加価値を投資というかたちでアジアに還元するような経済システムを再び作る必要があります。漸く回復の兆しが見え始めた日本経済は、その多様性と国際性をもとに21世紀の成長のグランドデザインを描く戦略的国家的発想が求められています。
ご清聴有り難うございました。
以上