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日本銀行と金融政策:今を賢く生きるために1
琉球大学における須田審議委員特別講義
- 審議委員・須田美矢子は、今年6月19日に京都大学、また、同じく7月10日に琉球大学でそれぞれ特別講義を行いました。本稿は、その内容を取りまとめ、加筆修正したものです。
2002年7月22日
日本銀行
以下には、冒頭の挨拶部分および目次を掲載しています。
はじめに
日本銀行政策委員会審議委員の須田美矢子です。本日は、大学の先生方や学生の皆様方のご厚意で、貴重な講義の時間を割いて頂き、ありがとうございます。先日、本日の講演を準備するために、高校の「政治・経済」や「現代社会」の教科書を読み返しました。日本銀行あるいは金融の仕組みに関する皆様の予備知識を大まかに理解するためです。これらの教科書を読みながら、本日のテーマとして次の三つを考えました。
一つは、当然のことですが、日本銀行の機能をできるだけ丁寧に説明することです。先ほど冒頭で、「現在、日本銀行政策委員会審議委員という役職を務めている」と申しました。皆様は、これを聞いて、「そもそも日本銀行って何をしているところか」、「セイサクイインカイって何だ」、「シンギイインとは何者か」などと思っているのではないでしょうか。無理もありません。私の知人で、かなり見識がある方々からも同じような質問を受けることがあります。そこで、私の立場をご理解頂くために、政策委員会と審議委員についても詳しく説明することに致します。私が現在の職務に就いたのは昨年4月のことです。それから1年余が過ぎました。この間の経験も踏まえつつ、現在、私が日頃悩んでいることの一端もお話しようと思います。
次に、現在の金融政策運営の基本的な考え方を説明します。先ほどの高校の教科書では、「金融引締め政策とは、金利を引き上げて通貨流通量を抑制し、経済活動にブレーキをかけることであり、金融緩和政策はその逆である」、また、「中央銀行は、景気と物価の安定を図るために、公定歩合操作、公開市場操作、および、預金準備率操作を実施している」などということが非常に簡単に記されています。ところが、後で詳しく説明しますが、現在、短期金融市場では、翌日に期日が来る取引の金利(オーバーナイト物金利)は事実上ゼロ%で推移しています。名目金利をゼロ%よりも低くすることはできません。今日、日本銀行は、というよりも皆様は、世界の歴史上でも極めて特異な状況に直面しています。そこで、最近の金融政策運営の基本的な考え方を丁寧に説明することに致します。これが第二のテーマです。
最後に、金融政策と直接的には関係しませんが、「皆様に、是非とも、金融や経済に関する知識や考え方を身に付けて頂きたい」という私の願いをお話しします。皆様は、やがて職に就き、収入を得て、自らの衣食住を賄うことになります。恋人とのデート費用も必要でしょう。趣味に費やすこともあるでしょう。他方で、将来の支出に備えて収入の一部を貯蓄しようと考える人も少なくないと思います。元手となる金額の大小に関わらず、皆様は一人の投資家になります。是非とも賢い投資家になって頂きたいと思います。昔から、「教育の基本は読み書き算盤である」と言われてきました。今日では、パソコンなどの知識を習得する必要もあると言われています。それに加えて、私は、「経済や金融に関する知識を理解し、自らの判断で資産を形成していく能力を身に付けて頂きたい」と思っています。
本日の話を聞いて、一人でも多くの方が、「日本銀行って意外に身近なんだ」、そして、「自分自身のために経済や金融の基本的な仕組みを勉強しようかな」という気持ちを持って頂ければ、とても嬉しく思います。
目次
- 1.はじめに(上記のとおり)
- 2.日本銀行とは何か
- 2−1.日本銀行の機能と目的
- 日本銀行の機能と目的
- 日本銀行の業務
- 2−2.独立性と透明性
- 独立性
- 政策運営の透明性
- 2−3.政策委員会と審議委員
- 政策委員会
- 審議委員としての生活
- 金融政策運営に関する説明責任
- 2−1.日本銀行の機能と目的
- 3.現在の金融政策運営の基本的な考え方
- 3−1.現在の金融政策運営の構成要素
- 豊富な資金供給
- コミットメント効果
- 3−2.金融緩和の効果
- 3−3.金融緩和の度合いの尺度
- 3−1.現在の金融政策運営の構成要素
- 4.家計の金融資産選択
- 4−1.家計の金融資産選択の現状
- 4−2.金融資産選択における基本的な考え方:「リスクとリターン」および「分散投資」
- リスクとリターン
- 分散投資
- 4−3.家計の金融資産選択を規定する要因とその影響
- 預金の全額保護・ペイオフ解禁の影響
- リスク資産の収益性
- 金融サービスの多様化
- 資産選択が多様化する意義
- 4−4.おわりに:金融経済の知識を深めよう!
参考文献
- 参考資料1:マネタリーベースとマネーサプライ(2002年6月平均残高)
- 参考資料2:家計の金融資産の構成比に関する日米比較
- 参考資料3:金融商品を選択するうえで重視している基準
- 参考資料4:金融に関する知識