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全国証券大会総裁挨拶要旨
2002年 9月19日
日本銀行
本日は、全国証券大会にお招きいただき、皆様方にお話しする機会を得られたことを、たいへん光栄に存じます。既にご承知かと思いますが、私どもは、昨日、金融政策運営と金融システム安定に向けた取り組みの両面において、当面の日本銀行の考え方を対外的に明らかにしました。私からは、その内容を中心に、お話をさせていただきたいと思います。
まず、金融政策運営の面では、昨日の金融政策決定会合において、当座預金残高目標を10~15兆円程度とする、これまでの思い切った金融緩和を継続することとしました。
わが国の経済情勢をみますと、最終需要は依然として弱めの動きが続いていますが、輸出や生産は引き続き増加しており、こうしたもとで、企業収益が回復に転じるなど、景気は、全体としてほぼ下げ止まっています。
先行きについては、海外経済の動向が大きな鍵を握っています。米国景気については、株価下落による企業や家計のマインド面への影響はみられますが、家計支出は底固さを維持しており、生産の回復も続いているなど、景気回復のシナリオ自体は維持されていると見て良いように思います。また、東アジアでも、回復に向けた動きが続いています。
このように、海外経済の緩やかな回復が持続する中で、わが国の景気も、今後、下げ止まりが次第に明確になっていくものと考えられます。
ただ、その一方で、海外株価の動向や、IT関連需要の先行き、国際政治情勢など、わが国の輸出を巡る環境には不透明感があることも事実です。こうした下で、国内株価は不安定な地合いを続けています。株価の下落は、様々なルートを通じて企業や家計の支出行動に影響を及ぼし得るだけでなく、現在の金融経済情勢の下では、金融市場や金融システムを不安定化させる可能性があるため、注意が必要です。
現在、国内の金融市場は、日本銀行の潤沢な流動性供給のもとで、全体として極めて落ち着いた動きとなっています。オーバーナイト金利はもちろん、やや長めの短期金利までほぼゼロ金利が継続しています。また、中長期の金利も、極めて低い水準で推移しています。この間、金融機関の流動性調達に対する不安感も、ほとんど見られない状況にあります。
今後仮に、金融市場が不安定な動きとなる惧れがある場合には、日本銀行としては、これまでと同様、金融政策決定会合で決定した当座預金残高目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う方針です。この点、金融機関は、日本銀行に対し、既に十分な量の担保を差し入れていますので、実際に必要が生じれば機動的に対応することが可能な体制となっています。
以上、申し上げたように、日本銀行としては、今後とも、経済金融情勢の動向を十分注視しつつ、思いきった金融緩和の継続により、市場の安定を確保し、漸く見え始めた景気回復に向けた動きが確実なものとなるよう、金融面からしっかりとサポートしていく方針です。
ただ、このような日本銀行の金融緩和が効果を十分に発揮し、経済の持続的な成長を実現していくためには、税制改革や公的金融の見直し、規制の緩和・撤廃などについて、具体的な取り組みを進めることが不可欠です。また、金融システムの安定を図るとともに、金融資本市場の活性化を図り、金融仲介機能を強化することが大前提となります。次に、この点について申し上げたいと思います。
金融システム面における最大の課題は引き続き不良債権問題への対応です。この問題の克服のためには、不良債権の価値のより適切な把握やその早期処理の促進、企業・金融機関双方の収益力強化などを軸とした、総合的かつ粘り強い対応が必要です。
この間、金融機関保有株式の価格変動リスクが、経営の大きな不安定要因となっており、そのリスクを軽減することが喫緊の課題となっています。この点については、日本銀行としても金融機関の保有株式削減努力をさらに促すための新たな施策の導入を検討しており、できるだけ早期に成案を得るよう努める所存です。
また、不良債権問題をはじめとした課題への取り組みの過程で、わが国金融システム全体の問題点についても、次第に各方面の議論が深まってきているように思います。
例えば、預金取扱金融機関の収益性やリスクテイク能力の低下が、その信用仲介機能に少なからぬ影響を及ぼす──マネタリーベースの増加が銀行貸出の増加になかなか繋がらない──状況が出てきています。また、かねてより新たな事業を起こすという意味での起業家の出現が強く期待されていますが、そうした起業家に対してリスクマネーが適切に供与されてきたとは言えないとの指摘があります。
こうした状況の下では、わが国金融システムについて、証券会社と金融機関が、互いにさらに競い合って、多様な信用仲介経路が確保されることの重要性が、強く認識されるようになっています。
実際、政府からは、多岐にわたる金融資本市場の活性化策が打出されてきており、先日も「証券市場の改革促進プログラム」が公表されました。私どもとしても、今後、こうした施策が実を結び、金融資本市場の活性化に寄与することを大いに期待しているところです。
しかし、申すまでもないことですが、金融資本市場の活性化は、こうした環境整備だけで成し遂げられるものではありません。金融資本市場の主要な担い手である証券業界の皆様には、こうした環境整備も活用しつつ、更にそのうえに、民間の自由な発想に立った一層の創意工夫を積み上げていくことが期待されていると申せましょう。リスクとリターンの関係を顧客に対して一層明確に提示していくことなどを通じて、市場の透明性を向上し、投資家・発行体双方からの信頼をさらに高めていくことも、市場活性化に向けた重要な課題です。この点についても、証券業界の皆様には大きな期待が寄せられていると思います。
最近の株価の動向などをみても、証券業界の方々には厳しい情勢が続いていると拝察します。一方で、やや長い目でみると、わが国人口の高齢化に伴う資産運用ニーズの変化や、資産流動化ビジネスへの関心の高まりなど、証券業務のビジネスチャンスの拡大につながり得る流れも見受けられます。証券業界の皆様におかれては、こうした分野に限らず、これまで培ってきたネットワークやノウハウなどを活かして、新たなビジネスチャンスにも積極的に挑戦して頂きたいと考えています。
金融資本市場の一層の活性化を通じて、信用仲介経路が一段と多様化していくことは、わが国経済全体の構造改革を金融面から支えていくためにも重要です。それだけに、今後の証券業界が積極的に役割を果たして行かれることを期待したいと思います。
証券業界各位の一層の発展を心からお祈りして、私の挨拶とさせていただきます。
ご清聴ありがとうございました。
以上