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日中中央銀行間協力の将来像

中国人民銀行研究生部(北京)における藤原副総裁講演要旨

2002年12月 9日
日本銀行

[目次]

  1. 1. はじめに
  2. 2. 過去の協力関係強化の努力
  3. 3. 新たな段階に入った協力関係
  4. 4. 双方が共有できる経験
  5. 5. 協力関係の将来像

1. はじめに

ご列席の皆様こんにちは。

日本銀行副総裁の藤原と申します。このたびは、中国人民銀行のお招きで参りました。日中国交正常化30周年の記念すべき年に、中国人民銀行研究生部においてお話する機会を得ることができ大変うれしく光栄に思います。

私は戦前の一時期を中国の東北地方で過ごしたことがあり、中国には懐かしい思い出があります。また、日本銀行副総裁就任前にはジャーナリストとしても毎年のように中国を訪問していました。従いまして個人的にも日中関係への思い入れはひとしおであります。1998年3月に副総裁に就任した後も何度か訪中し、東北地方を訪れたり、また中国人民銀行で戴相龍行長にお目にかからせていただきました。

本日は、日本銀行と中国人民銀行、日中両国の中央銀行間の協力関係の将来について、お話したいと存じます。アジアの発展、ひいては世界の安定のため日本と中国の協力関係は非常に重要であります。我々日中中央銀行間の協力関係を振返ってみますと、これまでの交流で、お互いの信頼関係を築いてまいりました。今後はアジア地域の発展への貢献も含め、一段と高い協力関係を構築していきたいと願っております。そうした協力の中で我々双方が共通の視点でお互いから学べることもたくさんございます。

日本では、現在構造改革が進行しております。金融機関の不良債権の処理という問題に現れている金融機関の構造改革は産業の構造改革の問題と密接に関連しています。中国でも金融機関の不良債権の問題は国有企業の改革の問題と表裏一体の問題であろうと存じます。我々は、こうした過去の負の遺産を清算すると同時に、技術革新の進展など世界経済の大きな変革の潮流を先取りした構造改革圧力に対応していかなくてはなりません。

こうした大きな課題に対処していく際、中央銀行として貢献できることは少なくありません。まずなによりも適切な金融政策運営や金融システム安定化策を実施することが求められましょう。こうした政策運営に加え、金融資本市場の整備・育成などのインフラ整備に注力していくことも重要です。これらの分野について、日中両国の中央銀行はそれぞれの経験を共有することが可能でしょう。

2. 過去の協力関係強化の努力

ここで、まず、日本銀行と中国人民銀行とのこれまでの協力関係を振返ってみたいと思います。日本銀行と中国とのお付き合いも30年前にさかのぼることができます。国交正常化以前、廖承志、高碕達之助という二人の古い友人同士を窓口としたいわゆる「LT貿易」の時代がありましたが、戦前に日本銀行から中国に派遣されたことのある岡崎嘉平太氏が、このLT貿易協定の締結に尽力しLT貿易交渉の日本側代表を務めました。そのような関係もあり、1972年、日中国交正常化の年に、日本銀行は職員を北京のLT貿易事務所に派遣いたしました。その後日本大使館開設に伴い大使館への派遣に移行し、以来現在の福本書記官まで14代の職員を中国に派遣しております。

1974年には日本銀行調査局長を団長とする訪中団が始めて中国を訪れ、1976年には森永総裁、1980年には前川総裁が訪中、一方、1978年には陳希愈副行長が訪日するなど、日中中央銀行間の交流は活発化しました。1981年には後の総裁である三重野康理事の訪中を第1回目とする実務訪問団の相互訪問が開始され、その後、昨年までそれぞれの実務訪問団が10回ずつ双方を訪問し、今回も私と同時に日本銀行の実務訪中団が来ておりますが、これは日本側訪中の第11回目となります。両行の総裁、行長の相互訪問も行われ、本年3月には戴相龍行長に日本においでいただくことができました。

また、日本銀行は香港に事務所を有しております。日本銀行香港事務所は1957年に開設され、今年で45周年を迎えております。

2カ国間での交流を重ねてきただけではありません。例えば、1991年に開始された東アジア大洋州中央銀行役員会議(EMEAP)にも日本銀行と中国人民銀行は参加しており、11カ国の中央銀行が総裁レベルを含め、様々なレベルで交流を深めていますし、1996年からは日中韓3カ国の中央銀行総裁会議もほぼ定期的に開催しております。このように、我々の交流は重層的に広がっております。

現在まで両行の交流に貢献した方々は日中ともにたくさんおられます。日本銀行関係者の中で例を挙げさせていただきますと、先ほどお話した三重野康元総裁は、中国との関係を特に重視し、実務訪問団の交換を開始しただけでなく、ご自身も日本銀行在職中に4度訪中しました。また、総裁退任後は中国金融学会の外国人顧問として数年前まで毎年中国を訪問し、金融学会で毎回講演をおこなっておられました。

日本銀行は、中国の決済システムの開発にもかかわっております。現在アイワイバンク銀行社長の安斎隆氏が、日本銀行在職中の1990年代初から世銀のプロジェクトである中国の決済システムの整備にかかわり、プロジェクトで主導的立場を果たされました。安斎氏はその後、日本銀行のアジア関係担当理事として中国との関係強化、EMEAPの強化に尽力されました。

私は、我々の現在の密接な関係は日中双方の多くの先人の努力によってもたらされたことを忘れてはならないと思っております。このような交流の努力は、お互いに相手側についての理解と信頼を深めることに大いに貢献いたしました。現在我々の間にある理解と信頼関係は、これらの先人の努力の賜物と考えなければなりません。また、中国が金融改革を進めていく上で、日本の金融制度の良いところを参考として、悪いところは教訓としていただいて何がしかのお役に立ったとすれば、大変幸いであります。

3. 新たな段階に入った協力関係

さて現在、日中両国中央銀行の協力関係は新たな段階を迎えております。

本年3月、日本銀行の速水総裁と中国人民銀行の戴相龍行長は東京において日中為替スワップ取極めに署名いたしました。これはチェンマイ・イニシャティブの枠組みのもとで行われたものであります。2000年5月、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国に日本、中国、韓国の3カ国を含めた13カ国(これをASEAN+3と呼びます)の間で、「2カ国間での金融取極めをそれぞれが相互に結ぶことを通じて支援体制を構築すること」が合意されました。これを、会議が開催されたタイの地名を取って「チェンマイ・イニシャティブ」と呼びます。日本がこれまで中国以外のアジア諸国と結んだ取極めは、日本が一方的にアジア各国に資金を融通するものでしたが、日本銀行と中国人民銀行との間で締結された日中間のスワップは、円と人民元を対象として両国間が対等な立場で取極めを結び、両国がいずれも資金を融通し合う立場で契約を結んだことが特徴です。今後、この取極めを契機に情報の交換などを更に密接に行っていきたいと思います。

日本銀行と中国人民銀行では昨年から、従来の副行長、理事を団長とする実務代表団に加え、局長以下のレベルでのより実務的な交流を充実させてきております。例えば、金融政策関連では、現在の金融政策の動向や金融市場の自由化のプロセス、金融市場整備、金融調節の具体的手法などについて、相互に情報交換を行いました。また、統計の分野でも、日中両国の主要な統計の具体的作成方法について情報交換を行いました。これらの実務的な情報交換を通じて我々は相手国の実情につき一層理解を深めることができました。

4. 双方が共有できる経験

今後もこのような交流を深めていくことが必要であります。そうすることによって、我々双方に共通する様々な課題について、協力を進め、経験を共有していくことが可能です。

冒頭でも触れましたが、現在われわれ両国が直面している大きな共通の課題として経済の構造改革の問題があげられます。中国では国有企業の改革や金融改革などの構造改革が同時に進められております。日本でも、金融機関の構造改革と産業の構造改革が同時に進められようとしています。このような産業、金融を含めた構造改革は、不良債権といった形で残る過去の問題の清算であると同時に、世界的に進行する次の世代の技術革新や国際環境の変化を先取りしていくという将来の発展のために不可欠な前向きの対応でもあります。

日本経済は、いわゆるバブルの崩壊以降、構造問題が重くのしかかる中で、マクロ経済政策を総動員してきたにもかかわらず、持続的な成長軌道に復帰できずにいます。そのなかで、物価は緩やかな下落傾向が続いています。日本銀行も、90年代から思い切った金融緩和措置を講じてきましたが、短期金利がほぼゼロとなり、更なる低下余地がなくなったことから、昨年3月からは、金融政策は未踏の領域に踏み込んでいます。すなわち、日本銀行は昨年3月、従来の短期金利を操作目標とする金融政策から日銀当座預金という「量」を主たる操作目標とする金融政策に移行いたしました。最近では10月30日に開催された政策委員会金融政策決定会合において日銀当座預金の目標値をそれ以前の10~15兆円から15~20兆円に引き上げました。金融機関の所要準備預金額が約4兆円ですから、銀行システムに非常に潤沢な流動性を供給していることがご理解いただけると思います。

このような日本銀行による潤沢な流動性供給は、わが国経済に様々なショックが加わる中で、金融市場の安定確保と、景気の下支えに強力な効果を発揮しております。しかし、日本銀行が潤沢な流動性を供給しても銀行貸出は減少を続けており、信用仲介活動を活発化させるには至っておりません。これは、多くの企業では過剰債務問題がなお未解決であるうえ、グローバルな競争の激化等によって先行きの経営環境を巡る不確実性とリスクが高まっていることから資金需要が高まらない一方、民間銀行においては、バブルの後遺症だけでなく経済の構造調整に伴う不良債権の発生が続いているため、貸出という信用リスクのある資産を供給する能力が低下していることによるものです。また、銀行システムによる金融仲介機能が十分発揮されないなかで、直接金融市場でのリスク仲介機能も充分でないため、産業活動を金融面から刺激する効果が乏しい状況が続いています。

日本銀行の金融緩和がこれまで以上に効果を発揮し、経済の持続的な成長を実現していくためには経済主体が各々将来を見据えた構造改革に積極的に取り組むとともに、税制改革を含めた財政の適切な運営や、規制の緩和、撤廃などについて、具体的な取り組みを進め、企業や家計の活発な支出活動を引き出していくことが不可欠です。また、このような需要面の対応と同時に、金融システムの安定を図りつつ、金融資本市場の活性化を図り、金融仲介機能を強化することが、金融緩和政策がこれまで以上の効果を発揮するための前提となります。

日本銀行は10月11日、「不良債権問題の基本的な考え方」というレポートを発表し、不良債権の早期処理と企業再生を含む包括的な対応の必要性を訴えました。日本政府も、10月30日に「改革加速のための総合対応策」と「金融再生プログラム」を発表し、不良債権処理を加速するとともに産業再生機構を設立し、再生可能と判断される企業の債権を金融機関から買い取り、企業の再生を図っていくこととしております。日本銀行としても、不良債権処理の加速策が企業金融に及ぼす影響を注視し、企業金融の円滑化を図って参る方針です。

また、日本銀行は11月29日から金融機関保有株式の買取りを開始しました。わが国の金融機関は様々な歴史的経緯もあって、多額の株式を保有しています。このため株価下落が金融機関経営に及ぼす影響は、他の主要国と比較しても格段に大きいものとなっています。金融機関保有株式の買取りは、こうした株価変動リスクを少しでも早く軽減し、金融機関が不良債権問題の克服というもっとも重要な課題に着実に取り組める環境を整備する観点から、中央銀行として極めて異例の措置を決断したものです。日本銀行は原則として2003年9月末までの間に総額2兆円を上限として株式を金融機関から買い入れます。対象金融機関は株式の保有額が自己資本(Tier1)を超過している銀行です。この2兆円という金額のイメージですが、金融機関は2004年9月末までに自己資本(Tier1)を超える保有株式を売却しなくてはいけないこととなっています。現時点で、2兆円という金額は、この超過分の時価の約3分の1程度となっております。

次に、金融仲介機能の強化を図るための金融資本市場の整備について申し上げます。中国でも直接金融の機能を高めるために金融資本市場の整備に向けて関係当局が多大な努力を払っておられると伺っております。

日本でも金融資本市場の整備のためにこれまでも様々な改善が進められております。例えば税制面では1999年に有価証券取引税や取引所税が廃止されています。国債市場では市場の流動性を高めるために2001年3月からリオープン方式が開始されています。これは、同一クーポンの新発債については、過去一定期間に発行された既発債と同一銘柄として取り扱う制度です。また、2003年1月には元本と利子を切り離して売買できるストリップス債の導入も予定されております。日本銀行はこのような国債市場の改善に様々な提言を行うとともに、国債の登録・振替機関として、必要なシステム開発を進めてきております。

また、日本銀行では、金融調節のためのオペレーション手法を改善するため不断の見直しを行っています。例えば、先月には、従来の債券貸借オペや短期国債現先オペに代えて、新しい形式での国債現先オペ(新現先オペ)を開始しました。また、明年春に予定される民間の電子CP振替決済システムの稼動開始に伴い、その適格担保化、さらには電子CPオペを、順次実現させる方向で検討を進めております。さらに私どもの適格担保について、優良な資産と認定できるものは積極的に適格担保に取り込むように努めており、一定の基準を満たす資産担保債券や資産担保CPを適格担保として認めております。

以上のほか、日本銀行は、関係者の方々とともに資本市場の発展に向けた様々な検討を行っています。例えば中小企業金融の円滑化を図るため中小企業売掛金債券担保CPについて、公的当局、銀行、証券界など幅広い方々と議論し、その成果を公表させていただいております。

金融資本市場の整備に関連して、格付け機関の整備や、会計の見直し、統計の整備など広い意味での金融インフラの整備も共通の課題です。この中で統計の整備についてみてみると、中国人民銀行では、最近金融統計の質を高めるため「金融統計管理規定」を制定し公布したと伺っております。そこで、日本銀行の統計改善の努力についてもご紹介したいと思います。

日本銀行では、各種の金融市場、金融機関の諸勘定などに関する金融統計はもとより企業短期経済観測調査(短観)、マネーサプライ統計、卸売物価指数、国際収支統計など様々な経済統計を作成・公表しています。これらの統計の改善に向けて、日本銀行では従来から検討を進めて参りましたが、本年8月に基本的な考え方をまとめたレポートを公表いたしました。

その内容の主な点について申しますと、まず、統計データに関する透明性の向上です。日本銀行では収集したデータについてはできるだけ広く社会に還元することとしています。第2に、金融経済構造等の変化を適切に反映した正確・的確な統計を提供することです。例えば、オフバランスの金融商品など新しい商品について可能なものから統計整備を進めております。第3に多様化・高度化するユーザー・ニーズを的確に把握し、それに応えていく視点を一層重視することです。各種統計の公表早期化を積極的に進めているほか、ホームページによる統計データへのアクセスの容易化などを実施しています。最後に、報告者負担の軽減を図ることです。収集データの削減やIT技術を活用したオンライン収集の対象拡大などを行っております。

最近の統計の見直しの具体例として、本日対外公表しました企業物価指数があげられます。これは、卸売物価指数の定例の基準改定にあわせて、価格調査を取巻く環境や産業構造等の変化を反映させ、価格調査方法、指数体系等を大幅に見直し、名称も「企業物価指数」に変更したものです。中国人民銀行でも、今年から「企業商品価格指数」を公表されております。日本銀行と中国人民銀行では従来から物価統計作成手法について意見交換を行っており、今回の両行の新しい統計の公表にはこうした成果が活かされていると思います。

若干、具体的な例を挙げて参りましたが、日中双方で行われているこれらの努力は、双方にとって参考になるものであり、共有可能な経験であります。また、お互いに具体的な金融調節の手法や、統計作成手法を知ることによって、それぞれの金融経済情勢に対する理解をより深めることが可能です。日中両国の中央銀行はこれらの様々な分野における情報・意見交換を様々なレベルで今後とも強化していくべきです。

5. 協力関係の将来像

最後に、日中中央銀行の協力関係の将来の姿について考えてみたいと思います。

私は、現在、東アジア地域における中央銀行間協力について大きな流れが生じ始めているように感じております。一つは先述したASEAN+3のチェンマイ・イニシャティブの下でのスワップ取極の進展・拡充です。市場撹乱的な為替投機等を牽制するとともに、域内各国の為替・金融市場の安定を図ることがその目的です。既に日本は、中国を始め、韓国、マレーシア、タイ、フィリピンの5カ国と取極めを締結済みです。さらに現在インドネシアやシンガポールとも交渉を行っています。中国も、日本のほか韓国、タイ、マレーシアの4カ国と既に取極めを締結されています。ちなみに、韓国も日本、中国、タイ、マレーシア、フィリピンとの間で取極めを締結済みです。これらの取極の総金額は300億ドルに迫っております。

一方、東アジア地域では日中韓3カ国とASEAN諸国との間で自由貿易協定締結や経済連携の動きが高まってきています。本年1月、日本はシンガポールとの間で経済連携協定に調印いたしました。これは日本にとって初の2国間自由貿易協定であり、経済連携協定と呼ばれているのは従来型の自由貿易協定より広い範囲の2国間の協力分野も含んだ協定であるからです。この協定には交渉段階から日本銀行も参加し、金融サービス分野において2国間協力を行うことになりました。また、本年11月初にカンボジアで行われた日本・ASEAN首脳会議で、日本政府とASEAN各国政府は包括的経済連携構想を発表しました。さらにシンガポールに続き韓国との間では日韓FTA研究会を進めていますし、ASEANの中ではタイ、フィリピンとの間で経済連携に関する作業部会を開始しています。

これらの現在検討されている経済連携構想においても、シンガポールとの経済連携協定と同様、金融サービス分野における協力が検討の対象としてあげられております。

また、先述の日本ASEAN首脳会議と同時に行われた日中韓の首脳会談では日中韓自由貿易協定の研究を行うことが合意されましたし、中国・ASEAN首脳会議では、昨年中国が提案した中国とASEANの包括的経済連携についての枠組みが合意されました。

将来的には日中間の自由貿易協定も日程に上ってくることが予想されます。

このように、東アジア地域では自由貿易協定の要素を含む経済連携構想の動きが現実味を帯びてきており、その中で金融サービス分野における協力の分野についてもどのような協力が可能か検討が進められております。一方、先述のとおり2国間のスワップ取極めという為替・金融市場の安定を目指した金融面での協力が既に先行して拡大しております。このような動きを全体として眺めると、欧州のEUや北米のNAFTAに比べれば初期の段階にあるものの、それらと類似の貿易や金融、通貨など多方面にわたる地域協力の動きがアジアでも動き始めたと言って良いと思われます。もちろん、欧州や北米とアジアでは各国のおかれた状況も異なり、アジア各国はより多様性に満ちています。アジアにおいて欧米地域と同じような進展が見られるとは限らないかもしれません。今後、東アジアにおいて貿易、金融、通貨など様々な分野においてどのような協力形態が望ましいのか十分検討を進めていく必要があるでしょう。

戴相龍行長は、本年3月に訪日されたおり行った講演において、新世紀に向けた日中の金融協力体制の確立について提言されました。その中で、戴行長は日中両国中央銀行間の交流と協力を強化し、さらに緊密な金融協議システムを確立すること、アジア地域における金融協力メカニズムを打建てるため努力すること、などを提案されております。戴行長のご提言は、先に述べた東アジアにおける大きな流れに沿ったものであろうと思います。

東アジアにおける地域協力の進展の中で、我々日中両国の中央銀行の協力関係は、さらに重要性を増して行くにちがいありません。日本銀行としても、今後両行の協力関係が強化されていくことを切に希望しております。日本銀行としては、以下に述べるような面で協力を強化してまいりたいと思っております。

  1. (1)第1は、現在行われている理事・副行長レベルの実務訪問団の相互訪問を引続き維持するとともに、局長以下のさらに実務的なレベルでの情報・意見交換についてもより活発化し、相互理解を深めていくことです。現在、不定期に行われている、金融政策や統計などの分野における実務的な情報交換をより頻繁に行いたいと思います。
  2. (2)次に、重大な政策変更や相手国に影響する可能性のある施策、金融システムの流動性に影響を与える措置等については遅滞なく相互に通知し、理解を得る努力を行うことです。日中両国の経済はお互いに密接に影響しております。また、日本の金融機関は中国に、中国の金融機関は日本にそれぞれ進出しています。それらの金融機関の流動性等の状況には、中央銀行としてお互いに強い関心を持っております。
  3. (3)第3に東アジアにおけるスワップ協定の広がりや経済連携の拡大などにみられる域内協力の進展についても必要な貢献が行えるよう、両国中央銀行が充分に意見交換を行いながら協力を進めていくことです。また、EMEAPや日中韓3カ国中銀総裁会議など多元的、重層的な協力関係も強化していくべきでしょう。

今後も、日中両国の中央銀行は高い視点と理想をもって、協力を進めていくべきでありましょう。日中国交正常化30周年の記念すべき年にあたって、本年が、21世紀における新しい日中の中央銀行間協力を推し進めていく契機の年となることを希望して、私の話を終えたいと存じます。

ご清聴どうもありがとうございました。

以上