ホーム > 日本銀行について > 講演・記者会見・談話 > 講演・記者会見(2010年以前の過去資料) > 講演・挨拶等 2003年 > 全国証券大会における総裁挨拶要旨
全国証券大会における総裁挨拶要旨
2003年 9月18日
日本銀行
本日は、全国証券大会にお招きいただき、誠にありがとうございます。証券業界の皆様には、日頃から、私ども日本銀行の政策や業務運営について多大なる協力を賜り、厚くお礼申し上げます。
本日は、最近の金融経済情勢や金融政策運営のあり方、ならびに金融資本市場の果たす役割の重要性などに関しまして、私どもの考えを申し述べ、ご挨拶に代えたいと存じます。
わが国の経済は、横這い圏内の動きを続けていますが、このところ景気回復に向けて明るい動きが現われてきているように思われます。
すなわち、企業業績の回復を背景に設備投資が緩やかに回復しており、特に製造業大企業ではその傾向がはっきりしつつあります。また、輸出環境においても、米国の成長率が高まり、東アジア経済も全体としては成長軌道に復していくとの見方が、徐々に現実味を増していると考えられます。さらに、春先にかけて低迷していた株価も大幅に上昇しており、企業や家計のマインドに好影響を与えています。
このため、今後わが国の景気は、次第に輸出や生産が増加基調を取り戻すことによって、前向きの循環が働き始め、緩やかながらも国内需要の自律的な回復につながる、と考えられます。
もっとも、企業の過剰債務圧縮や人件費削減などの調整圧力が根強い中で、輸出や生産を起点とする経済の回復がどの程度の強さと広がりを見せるかについては注意してみていく必要があります。
この間、金融資本市場の動きをみると、株価が堅調に推移するもとで、長期金利が上昇しています。長期金利は、基本的には、経済の先行きに対する市場参加者の見方を反映して変動するものですが、短期的にはさまざまな要因に反応して、不規則な動きをすることもあります。日本銀行としては、経済実態を離れて長期金利が不安定な動きをすることがないかを含め、金融資本市場全体の動向を冷静かつ丹念にモニターしていきたいと考えています。
次に、金融政策運営についての考え方を申し上げます。日本銀行は、量的緩和政策の枠組みの下で、さまざまな不確実性の高まりに対して、追加的な流動性供給を機動的、積極的に実施してまいりました。こうした対応により、様々なリスク要因が金融市場における流動性不安を通じて景気に悪影響を及ぼすという事態は回避し得たと考えています。
今後の金融政策運営に当たっても、景気回復に向けた動きを確実なものとするため、量的緩和政策を堅持し、潤沢な資金供給を続けるとともに、金融緩和の波及メカニズムを強化するための取り組みを行い、中央銀行としての立場から経済の動きをしっかりとサポートしていく所存です。
日本銀行は、現在の量的緩和政策を「消費者物価指数の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで継続する」という強い約束を行っています。これは、予想物価上昇率ではなく、毎月発表される現実の消費者物価指数を基準としている点で、明確かつ具体的な約束です。このことは、これまでも明らかにしてきていることですが、改めて強調しておきたいと思います。
このように、日本銀行は強力な金融緩和政策を実施していますが、金融緩和の効果を経済のすみずみにまで行きわたらせるためにも、金融資本市場に期待される役割は非常に大きいと考えています。
金融資本市場の役割を考えるうえでポイントとなるのは、市場の「価格発見機能」ということではないかと思います。必要な資金が企業や家計などに効率的に配分されるためには、市場においてリスクに見合った価格や金利の設定が行われることが最も重要な前提となります。新たな金融取引手法の開発や、市場の流動性の向上によって、さまざまなリスクについてより合理的な価格発見が行われるようになれば、資金配分が一層効率的なものとなり、企業の積極的な投資活動を呼び起こすことにもつながると期待されます。
この点、近年においては、資産担保証券などの証券化関連商品をはじめ、新たな市場の拡大がみられるようになっています。今後も、証券市場の重要な担い手である証券業界の皆様方をはじめ、関係者の方々の創意工夫により、金融取引に関する新たなイノベーションが行われ、金融資本市場が一段と活性化することを強く期待しています。
日本銀行においても、資産担保証券市場の発展を支援するため、先般、資産担保証券の買入れを開始いたしました。民間債務の信用リスクを直接負担することは中央銀行にとって異例の措置ですが、日本銀行の買入れも「触媒」となって、資産担保証券市場が自律的に発展することを期待しています。
次に、金融システム面に目を転じますと、わが国金融システムは、全体としては依然厳しい状況の下にあります。しかし、次第に健全化の方向に歩を進めつつあるように窺われます。
最大の問題である金融機関の不良債権問題については、貸出債権の経済価値の適切な把握を出発点として、それに基づく適切な引当や償却の促進のほか、産業・金融一体となった対応を強化していく方向での努力が進められています。
特に、不良債権問題への対応を進めていくなかで、企業の経営資源を徒らに散逸させることなく、産業構造改革にも役立てていくことが重要であるという点について、関係者の意識は高まっています。公的な主体として、産業再生機構が活動を本格化していますが、民間の自主的な対応も拡がりを見せてきています。
また、わが国経済やその基礎である産業構造を変革していくという観点からは、新たな付加価値の創出が不可欠であり、事業を起こすという意味での起業家が幅広く現われてくることも重要です。そのための環境整備の一環として、先程申し述べた市場の価格発見機能を通じてリスクマネーが適切に供与される必要があることは言うまでもありません。
企業と投資家との間でリスクマネーを適切に仲介していくことは、証券業務に期待されている大きな役割の一つであり、また、証券業界にとって、大きなビジネスチャンスでもあるはずです。産業構造の転換の必要性が高まっている現在、証券業界は、この面での更なる積極的な取組みが期待されていると言えましょう。
同時に、証券業界は金融資本市場の主要な担い手として、リスクとリターンの関係を顧客に対して一層明確に提示していくこと等を通じて、市場の透明性や機能を向上させ、その一層の活性化につなげていくことが引続き強く求められています。証券会社と金融機関が、互いに競い合って、多様でしっかりとした信用仲介径路を確保していくことが、わが国の金融システム全体を強化するとともに、経済の仕組みの改善を支えていくことにもつながっていくと考えています。
以上のように、証券業界が一段と重要な役割を担っていくためには、証券会社自身の経営基盤を強化することも、引続き重要な課題です。現在、株価、取引量とも持直してきていますが、経営基盤の強化の手を緩めることなく、経営の一層の効率化と創意工夫を凝らした事業展開に取組んで頂きたいと思います。
わが国経済や金融システムを巡る情勢は、厳しい中にも、ほの灯りが見えつつあります。日本銀行としてもこうした灯を消さないよう、最大限の努力を行って参ります。
最後になりましたが、皆様方の一層のご発展を祈念して、ご挨拶と致します。
ご清聴ありがとうございました。
以上