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全国証券大会における岩田副総裁挨拶要旨

2005年 9月22日
日本銀行

 本日は、全国証券大会にお招きいただき、誠にありがとうございます。証券業界の皆様には、日頃から、私ども日本銀行の政策や業務運営について多大なる協力を賜り、厚くお礼申し上げます。

 私からは、最近の金融経済情勢や金融政策運営、ならびに証券決済や証券市場の課題などに関しまして、私どもの考えを申し述べ、ご挨拶に代えたいと存じます。

 わが国の景気は、IT関連分野における調整が概ね一巡し、国内民間需要に牽引される形で、自律的な回復軌道に復しつつあります。高水準の企業収益を背景として、設備投資は増加を続け、個人消費は、雇用者所得の緩やかな増加を通じて底堅く推移しています。一時期伸び悩んでいた輸出も、海外経済が拡大を続けるもとで、緩やかに増加しています。

 先行きについても、海外経済の拡大が続くもとで、輸出の伸びが次第に高まっていくとみられるほか、国内民間需要も、高水準の企業収益や、雇用者所得の緩やかな増加を背景に、引き続き増加していく可能性が高いと考えられます。また、企業部門のバランスシート調整が概ね終了し、民間銀行貸出(特殊要因調整後)も前年並みの水準にまで復してきています。このように、日本経済の基礎条件の改善が続く中で、息の長い景気回復が続くとみられます。

 もちろん、景気の先行き見通しに関するリスク要因をきちんと念頭に置いておく必要があります。特に、原油価格の高騰が世界経済や金融資本市場に与える影響、ハリケーン被害の影響も含めた米国経済の動向に注目しています。これまでの原油高は、エネルギー効率が相対的に低いエマージング諸国の高成長に伴う需要の増加が大きな要因でした。しかし、足許の原油価格の高騰には、ハリケーンによる原油生産・精製施設の破壊といった供給面のショックが加わっています。そうした意味で、原油高が、原油輸入国を中心に世界経済の成長を停滞させることがないか、これまで比較的落ち着いてきたインフレ予想に変化がないか、注意が必要だと考えています。また、米国経済に関しては、高騰を続ける住宅価格の動向や、先般のハリケーンの被害が家計や企業の支出マインドを慎重化させることはないか等について、しっかりと確認していきたいと思います。

 この間、物価面では、国内企業物価は、原油価格上昇の影響などから上昇しており、先行きについても、上昇を続けるとみられます。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、電気・電話料金引き下げの影響もあって、小幅のマイナスとなっています。先行きについても、マクロ経済の需給環境の改善が続く中で、米価格の下落や電気・電話料金引き下げなどの影響が弱まることから、年末頃にかけて、ゼロ%ないし若干のプラスに転じると予想されます。

 次に、金融政策運営につきましては、日本銀行は、消費者物価指数の前年比が安定的にゼロ%以上となるまで量的緩和政策を継続するという「約束」のもと、所要準備額を大幅に上回る潤沢な資金供給を続けています。現在、消費者物価指数の前年比がなおマイナスで推移している状況下におきましては、今ほど申し上げた「約束」に沿って、量的緩和政策の枠組みを堅持していくことで、物価安定のもとでの持続的な経済成長の実現、すなわちデフレ脱却のために、金融面からの支援を行っていく所存です。

 さて、証券界の皆様方と日本銀行は、従来から、幅広い分野で対話と相互協力を積み重ねてきました。特に、証券決済や証券市場の効率性、安全性の一層の向上を目指して力を合わせていくことが、重要だと思います。

 その良い例は、証券決済インフラの整備です。近年、国債、株式などの清算機関が相次いで業務を開始したほか、社債、株式にかかる振替決済システムの開発や準備も着実に進められています。こうした動きに対し、私どもとしては、日本銀行当座勘定取引の提供等を通じ、証券決済の安全性・効率性向上の面で、証券業界と協力してきました。日本銀行としては、有価証券のペーパーレス化や取引の約定から決済までの一連の事務を人手を介することなくオンラインで一貫処理する仕組み(所謂「STP化」)の動きが今後一段と進捗し、わが国証券市場のインフラがさらに強固たるものとなることを期待しています。

 また、最近、天災、テロ等への備えの重要性が強く意識されるようになっています。証券業界におかれましても、本年6月、業務継続体制の整備に関する基本的な考え方や、具体的な整備項目・対応事例を取り纏めたガイドラインを制定されるなど、万一の場合への備えを進めておられます。皆様方の取り組みにより、証券会社や証券市場全体の業務継続体制が、一段と充実していくことを期待しています。日本銀行としても、金融・決済システムや市場全体の業務継続体制の整備に向けて、引き続き努力してまいりたいと考えています。

 わが国の信用仲介経路は、間接金融から直接金融へ、また、市場型間接金融へと多様化してきております。この大きな金融構造変化の下で、証券業界や証券市場が果たす役割は、ますます大きくなってきています。証券会社の業務も、インターネット取引の拡充、ラップ口座の提供、自己勘定での投資の拡大など、新たな展開をみせています。こうした動きは、経済全体に資金をより効率的に配分するための、新たなダイナミズムを作り出すものと受け止めています。と同時に、多様な業務を適切に展開していくためには、リスク管理の高度化などの面で、これまでとは異なる工夫が求められる点にも留意が必要です。

 本年7月、日本銀行は、最近の金融環境や金融資本市場の変化を踏まえ、決済機構局と金融機構局を新設する機構改編を行いました。私どもとしては、両局の活動を通じて、皆様方とともに、より効率的で安全な資金・証券決済システムの構築や、わが国金融の高度化を推し進めて行く所存です。

 最後になりましたが、皆様方の一層のご発展を祈念して、ご挨拶と致します。ご清聴有難うございました。

以上