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香川県金融経済懇談会における西村清彦審議委員挨拶要旨

2006年2月16日
日本銀行

目次

  1. 1.はじめに
  2. 2.最近の経済情勢と見通し
    1. (1)回復の裾野の拡がり:「見えざる構造転換」の成果
    2. (2)先行きを見通すポイント:短期見通しと中長期的な「世界的不均衡」のリスク
    3. (3)資産市場、特に不動産市場の動向について:リスク管理の重要性
  3. 3.量的緩和政策と今後の政策運営
    1. (1)量的緩和政策の現状と評価
    2. (2)今後の政策運営について
    3. (3)政策の柔軟性と透明性
  4. 4.地域活性化に向けて
    1. (1)富の再配分ではなく、地域への志のある投資を
    2. (2)地域再生税制と「志のある事業」、「志のある投資」
  5. 5.終わりに
  6. <付録>「官」から「民」へ——地域再生税制の仕組み

1.はじめに

 本日は、香川県の行政および経済界を代表される皆様方のご出席を賜り、懇談の機会を得ましたことを大変光栄に存じます。

 日頃は、正願支店長をはじめ日本銀行高松支店が大変お世話になり有り難うございます。高松支店が、第二次大戦真っ只中の昭和17年2月に開設して以来、長年に亘って支店活動を継続できましたのも、本日ご臨席の皆様方をはじめとする、地元の皆様の深いご支援・ご理解の賜物と感謝しております。改めまして、厚くお礼申し上げますとともに、今後ともよろしくご指導を賜りますよう、お願い申し上げます。

 本日は、まず私から国内外景気の現状や金融政策運営に関してご報告し、更に最近の地域活性化に関する重要な進展を紹介させて頂いた後で、皆様方から当地の金融経済情勢や日本銀行の金融政策に対するご意見などをお聞かせ頂ければと存じます。

2.最近の経済情勢と見通し

(1)回復の裾野の拡がり:「見えざる構造転換」の成果

 日本経済は長い、出口の無いトンネルのような十数年を過ごして来ました。その間、内外の批判を受けながらも、地道な効率化やコスト削減を通して、派手さとはほど遠い「見えざる構造転換」を進め、ようやく新しい発展の入口に立とうとしています。「見えざる構造転換」は、着実な制度変革がもたらした柔軟性を活かし、働く人々の可能性を引き出す地道な努力によって可能になったといえます。法制改革や金融革新に代表される新しい柔軟性を利用しながら、弛まない研究開発や業務改善の成果によって、90年代の巨大な負の遺産を解消してきたのです。

 1月に日本銀行で開催されました金融政策決定会合で、昨年10月に公表しました「展望レポート」の中間レビューを行いました。主要なポイントは三点です。まず第一に「わが国の景気は、内外需がともに着実な増加を続ける中で、昨年10月の展望レポートで示した『経済・物価情勢の見通し』に比べて幾分上振れて推移すると予想される」こと、第二に「物価面では、国内企業物価は、国際商品市況高や昨年後半の円安を背景に、『見通し』に比べて幾分上振れるものと見込まれる」こと、そして第三に「消費者物価は、概ね『見通し』に沿って推移すると予想される」こと、です。

 わが国経済は、着実にかつ安定的に、ある経済界の方の言い方をお借りすれば、「しぶとく」回復を続けています。輸出と輸入が双方とも増加を続け、生産も裾野を拡げて増加の動きが明確になってきています。企業収益が高水準で推移するもとで、設備投資は引き続き増加していますし、雇用者所得も雇用と賃金の改善を映じて、緩やかな増加を続け、そのもとで個人消費は底堅く推移しています。

 図表1は、鉱工業生産と出荷を示していますが、2004年以降、多少の上下変動はあるものの、安定してきており、足許若干の上方への水準訂正の兆しがみえることがわかります。図表2は消費コンフィデンスを示す指数の変化をみたものですが、これも2004年初の急速な回復後、出入りはあるものの安定していることがみて取れます。今回の踊り場を含みながらの長い景気回復が、「しぶとい」景気回復であることがこれからよくわかります。すべての分野で好景気に浮かれるような状況ではありませんが、主役が頻繁に交代しながら、着実にヒットを積み重ねて得点をあげてきたといえます。

 回復の裾野は、地域にも拡がっています。最近発表された日本銀行の『地域経済報告(さくらレポート)』では、全9地域の判断が上方修正されました。財務省の『管内経済情勢報告』でも、11地域中3地域の判断が上方修正されています。生産回復の都市部から地域への拡がり、そして広汎な消費回復がみられるようになってきました。

 しかし、地域経済によっては、新しい発展への道はまだ脆弱です。特に生産、雇用面などにおいては、地域間のばらつきはむしろ大きいといって良いでしょう。そこで日本経済が新しい発展の世紀を迎えるためには、地域経済に資源の最適配分という経済合理性に合致した新しい発展の枠組みを生み出す必要があると思います。この点は重要ですので、最後にもう一度戻ってお話させて頂きたいと思います。

(2)先行きを見通すポイント:短期見通しと中長期的な「世界的不均衡」のリスク

 次に、景気の先行きについて考えてみたいと思います。その際に、目先の景気の動きと、中長期的な課題を分けて考える必要があります。

 まず、目先の景気の推移を考えますと、景気は緩やかながらも、息の長い景気回復が続くと考えられます。輸出を巡る環境をみると、米国経済は、引き続き潜在成長率並みの拡大基調が維持されるとみられますし、中国経済についても、高成長が続くもとで、在庫抑制などの調整圧力は弱まっています。欧州経済も、ワールドカップ特需等が予想され、こうした海外経済の拡大が続くもとで、輸出は増加を続けていくとみられます。ここで、次の二つのグラフ(図表3、4)をご覧下さい。これは、米国および中国の2005年末までの実質GDP成長率をプロットしたものです。2004年初以降、米国・中国ともに、それまでの変動に比べて、非常に安定的に推移しているのは極めて興味深い点です。もっとも米国では2005年の第4四半期に低下していますが、これは暫定的な数字であり、今後上方修正される可能性がありますし、またこれは前期までの過度の自動車販売促進活動の反動による減速といわれ、安定したGDP成長率の基調には変化がないと考えられています。

 こうした世界的に安定した好景気の中で、国内民間需要も、企業の過剰債務などの構造的な調整圧力が概ね払拭されたもとで、高水準の企業収益や雇用者所得の緩やかな増加を背景に引き続き増加していく可能性が高いと考えられます。

 ただ注意しなければならないリスクを四点ほど指摘したいと思います。

  1.  第一のポイントは、米中を中心とした海外経済の動向です。今年に入ってから、原油価格が再度不安定な動きをみせており、ガソリン価格の上昇を通じて米国の消費を抑制し始める兆しもみられます。更には住宅価格の高騰から過熱状態ともいわれた住宅市場がピークを打った形跡が次第に明らかになりつつあり、それがソフトランディングで景気に大きな負の影響を与えずに済むかどうかが焦点となります。他方、稼働率の上昇や労働市場の逼迫など今後の物価上昇圧力も示す指標もあります。こうした中、FRBの金融政策運営にも注目が集まっており、引き続き注視する必要があります。

     中国は、固定資産投資が高めの伸びを続けるなど高い成長を続けています。ただ、やや過熱気味の懸念が依然残る中で、生産能力の過剰が次第に顕在化しつつあるようにみえる部分もあり、過熱と過剰が混在する状態になりつつあります。銀行の不良債権問題、所得の地域間格差、深刻化する水不足問題など、国内に様々な構造問題を抱えており、その解消には依然相応の時間を要するように思われます。このように、米中ともに景気判断の微妙な時期にあることは留意しなければなりません。

  2.  二点目は、今回の景気の「踊り場」の原因となった、電機、情報通信機械、電子部品・デバイスといったIT関連産業の動向です。全体としてみるなら、ようやく市況の回復がみられたところですが予断はできません。IT関連産業の中でも、高付加価値の製品を生産する競争力のある電子部品・デバイスメーカー等では、出荷の増加など明るさも出てきたようですが、その一方で、世界的な厳しい価格競争に晒されている最終財メーカーや汎用部品メーカーなどでは、依然厳しい価格下落圧力が掛かっているようです。こうした点を勘案すると、激しい価格競争の中で、企業収益が思ったほどの伸びをみせない可能性も否めません。

  3.  三点目は、個人消費回復の持続性です。雇用環境が改善を続ける中で、雇用者所得の底堅さがかなり明確になってきたことは確かでしょう。例えば、「消費者コンフィデンス」(前掲の図表2)は、総じて良好に推移しています。さらに、今年1月13日に平成12年基準に改定されたGDP統計に従えば、以前考えられていたよりも、マクロの消費性向は高くなっています。従って、個人消費回復の傾向が今後も持続する可能性は高いと思いますが、引き続き注意してみていく必要があると思います。

  4.  最後は、原油価格や素材価格の影響です。原油価格は年初にかけて再び上昇に転じており、依然として高水準圏で推移しています。こうした動きの背景には、投機資金の影響もさることながら、中国を初めとするいわゆるエマージング諸国におけるエネルギー需要の増加があります。こうした高水準圏での推移が構造的、長期的な現象である可能性が出てきています。この点は、先行きの景気動向、物価動向を見通す上でも今後の動きを見極める必要があると思っています。

 以上を踏まえますと、わが国経済の短期的な推移につきましては、引き続き回復基調を維持するというシナリオをメインとすることで大きな問題はないと思っていますが、上述したようなリスク要因もあり、これらが顕現化する可能性も頭に置く必要があるのではないかと考えています。

 中長期的には、注意しなければならない大きなリスクがあります。それはしばしば「世界的不均衡」と呼ばれている問題です。米国の巨大な経常収支の赤字が今後も今のような形で持続可能か、という点にしばしば集約されて議論されます。このままでいった場合、将来どこかの時点で世界規模の大きな為替レートの変動をもたらさないか、という問題と言い換えることもできるでしょう。

 現在米国は自国で生産されるよりもはるかに多くを消費しています。このため輸入が輸出を大きく上回り、巨額の経常赤字(経常赤字の大宗を占める貿易赤字は2004年の-6,175.8億ドルから、2005年には-7,257.6億ドルに拡大)を出しています。しかし、同時に米国資産への需要が強く、米国へ巨額の資本が流入し、バランスをとっています。輸入が輸出を大きく上回ると、それだけではドル安になりますが、それを上回る米国資産への需要といったドル高要因などもあって、最近のドル高がもたらされています。

 こうした状況が破綻無く続いている理由の一つとして、米国以外の経済で投資機会の収益率が低いから、ということがあげられます。確かに、最近の円安・ドル高は、企業や家計が国内資産から収益率のより高い海外資産に資産をシフトさせていることが一つの要因としてあげられています。また、企業収益の急速な回復にもかかわらず、企業が設備投資にきわめて慎重な態度をとっていることは、今般の景気回復の過程でも、日本への実物投資の収益率回復について、まだ確信を持てない状況であることを示唆します。このために、米国への資金の流入が続いているのです。実は同じような事態は欧州においても、またアジア通貨危機から立ち直ったアジア諸国にもみられます。加えて、最近の中国の安定した高い成長(前掲の図表4)が、対米輸出の増加と外貨準備の急増という形で支えられていることも、最近の安定した状況の一つの理由と考えることもできます。

 しかしながら、巨額の経常赤字を資本流入で無限にまかない続ける、ということは考えられません。米国の有利な投資機会も有限ですし、他国の投資機会の収益性も回復していくことが考えられます。そうした構造変化を、為替市場や国際金融市場への大きなショックをもたらさずに達成するには、米国とその他の国の双方で協調した努力が必要です。一方で、米国以外の国では国内投資の収益率を向上させ潜在成長率を上昇させ、輸出への依存度を下げる方策をとり、他方、米国で現在ほとんどゼロになりつつある貯蓄率を上げ、財政赤字に対する適切な対処をとらなければなりません。国際的な流れがその方向に向かっているかどうか今後注意深くみていく必要があります。

 日本もその中で重要な役割を果たすことになります。言い古された言葉ですが、内需を高める方策が必要なのです。今般の景気の回復は単なる循環的な回復というよりも、効率化や柔軟性の回復による潜在成長力の回復、という側面があるように思います。しかしながら、まだ日本に対する投資は気迷い状態を抜けていないようです。そしてその投資機会の不足は、地域経済において深刻であることは、景気の現状把握で述べた通りです。この面からも、地域経済に新しい発展の仕組みを作り、それを梃子に日本に対する投資をのばす必要があるのです。更に、消費について一言付け加えるなら、一般に消費と呼ばれるものの中の相当部分は、自分や家族に対する「投資」といった方が良いものです。たとえば教養娯楽や自己啓発の支出です。こうした消費の形をとった投資をのばすことも、最終的には日本への投資の収益率を向上させ、内需を増加させることになります。

 ただし、このような世界的な構造変化が、外的な状況から必ずしもスムースに行かない場合もあります。たとえば様々な地政学上のリスクがそうした外的なショックとなり得ます。従って、リスク管理の観点が、政策担当者も、また一般の企業や家計においても、重要性を増すことになる点には注意が必要でしょう。

(3)資産市場、特に不動産市場の動向について:リスク管理の重要性

 以上、国内外の景気動向ならびに今後の経済見通しに関する私の意見を述べましたが、次に、これもまた最近注目されることも多い資産市場、特に不動産市場の動向に関して、考えてみたいと思います。

 まずは最近の動向について確認しておきましょう。図表5と図表6は、中古マンション(ファミリータイプ)の品質調整済み価格を示しています。不動産価格としては、公示地価や都道府県地価調査がよく参照されますが、情報の収集と分析、発表の間に相当長いラグがあり、しかも鑑定価格というフィルターを通すことになります。これに対して、このインデックス(欧州で事実上業界標準の投資インデックスを発表している民間機関が日本で作成・公表しているインデックス)は、先月の情報が1か月強の遅れだけで手に入り、また実際の取引価格に近いデータを使っている点で、市場の生の動きをみるのにはより適したデータといえます。

 図表5と図表6から、首都圏、関西圏ともに価格は2004年中葉には底を打っていたことがわかります(特に東京都心では底打ちは2002年頃です)。そして2005年は久々に目立った市況の回復が得られたことがわかります。こうした動きは関西圏、特に京都ではっきりしています。

 しかしながら、一部京都のように個別事情で上昇しているところはみられるものの、全般的にみますと、買い急ぎ、売り惜しみが起きているといった状況ではありません。中古住宅市場全般では、下落基調を脱していわば中立的な状況にあるといってよいと思います。

 そもそも土地や住宅には個別性が強く、従ってそこで成立する価格も買い手、売り手の状況によって大きなばらつきが生じるのは通常の姿です。そうした市場では、売り手や買い手の需要にできるだけ合致したように土地を分割合併したり、住宅を改造したりすることで、高い付加価値を得ることが可能になります。最近様々な「転売」による価格上昇等が話題になる場合がありますが、80年代のいわゆるバブル期とは異なり、商業ビルを住宅にしたりするコンバージョン等、こうした付加価値をつける形のものが多くみられるようです。それ自体は、資源の最適配分の見地からは望ましい動きといえます。

 ただ注意しなければならない点もないわけではありません。それは、不動産も他の資産と同様にリスクがありますし、「個別性が高い」という意味のリスクも加味しなければならない資産でもあります。地域の盛衰の激しさは、過去の日本の特徴でもあり、長期的な投資である不動産投資は、こうした環境変化のリスクも十分に考慮されたものである必要があります。特に、こうしたダイナミックな市場ではリスクは思わないところから生じ、またプロセスの複雑さを逆用した不正まがいの行為が起こる可能性には常に警戒する必要があります。もっとも、リスクの判断に資する情報開示は、特にJ-REIT市場の発展で過去とは比較にならないほど進んできたと評価できますし、それに基づく市場による淘汰のプロセスは現在も進行中であると思います。いずれにせよ、こうした市場での情報開示の整備もさることながら、個々の投資家のリスク管理が以前にもまして重要になっていることは間違いありません。

 この点は、特に金融機関についても重要です。収益性向上のため、不動産関連融資やオルタナティブ投資に積極的に取り組む金融機関が増加しています。このことは、ポートフォリオの幅を拡げ、社会全体でみれば新しい投資機会が作り出される可能性を高め、そして金融機関の収益も高めるという点で望ましい動きですが、それはきちんとしたリスク管理がなされていることを前提とします。リスクがあるのにリスクを認識できていなかった、ということがあってはなりません。金融機関におけるリスク管理の重要性は、過去も現在も将来も変わるものではなく、日本銀行としても、考査を通じてそうしたリスク管理の高度化を促しています。

 不動産市場を含む資産市場価格は、家計の消費行動、企業の投資行動とダイナミックで複雑な絡み合いを持ちます。そしてそれは、中長期的な物価水準やインフレーション率にも、時代や環境の変化と重なりながら影響を及ぼします。ただ現在のところ、一般的な関係について、日本においても日本以外においても、どの時代、状況にも当てはまるような実証的結論は得られておらず、明確な判断が難しいことも事実です。

 しかしながら、先行き、資産市場価格の動きと連動して、将来のインフレーション率に大きな影響を及ぼす可能性があると認められる事態になれば、金融政策の面でも適切な対処をとる必要があることはいうまでもありません。そして、そのような場合にも、金融機関のリスク管理が徹底され、健全性を維持することによって、政策の波及経路がしっかりと確保されていることは、金融政策が有効に作用する重要な前提条件となります。

3.量的緩和政策と今後の政策運営

(1)量的緩和政策の現状と評価

 日本銀行が「量的緩和政策」という未曾有の政策に足を踏み入れてから5年が経過しようとしています。現在のディレクティブ(当座預金残高の目標額)は、2004年1月以降「30~35兆円程度」となっており、極めて潤沢な資金供給が続けられています。また、こうした現行政策を、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率について、安定的にゼロ%以上となるまで継続することをコミット(いわゆる時間軸の約束)している点は、ご案内の通りです。

  1.  こうした量的緩和を現在振り返りますと、第一に金融システム不安に対して多大な効果をあげました。金融システムに対する不安感が強かった時期、金融機関はこうした不安に対処するために流動性の確保へ動きましたが、量的緩和の枠組みを通じて潤沢な資金供給が機動的になされ、こうした需要に的確に対応することが可能となりました。このように量的緩和の枠組みが存在したことは、金融市場の安定や緩和的な金融環境を維持し、経済活動の収縮を招くリスクを回避することに大きな効果を発揮したと考えられます。

  2.  第二に、いわゆる時間軸の「約束」が浸透し、ごく短期の資金市場の金利だけでなく、より長めの期間の資金を扱う市場の金利も低下しました。これが雇用や設備の調整途上であった企業等の低利での資金調達を可能とし、企業収益を下支えすることで調整をより容易にしました。また投資コストの低減を通じて企業の投資採算の改善への道筋をつけたと評価できます。こうした「時間軸」の部分は、名目金利がゼロ以下にならないために生じる手詰まり状態を、「安定的にCPI上昇率がゼロ以上になるまで」先行きゼロ金利にコミットすることで「将来から金融緩和効果を前借りした」ということも出来ます。この「前借り」は、将来の改善が見込まれる場合に効果があり、経済情勢が改善方向にある現在、金融緩和効果もより一層強まっている、といえます。

 また、企業、家計の経済期待に直接働きかけ、不安を解消する効果も期待されましたが、これは「量的緩和」そのものの効果というより、「量的緩和」の「約束」を守ることによる日本銀行に対する「信頼の効果」といって良いと思います。定量的に測ることは難しいですが、この効果は無視できなかったと思います。これに対し、当初考えられたいわゆるポートフォリオ・リバランス効果は、結局のところあったとしても非常に小さかったと評価すべきでしょう。

(2)今後の政策運営について

 今後、量的緩和政策の枠組みの変更にあたっては、コミットメントに従い生鮮食料品を除く消費者物価指数変化率を中心として経済・物価情勢を総合的に検証し、コミットメントで示した条件が満たされたかどうかを慎重にチェックしていくことになります。

 ここで金融政策を考える際の「物価」の概念について、繰り返しになるかもしれませんが、その原則と「物価」として考える財サービスの範囲について考えを明らかにしたいと思います。

 まず、「物価の安定」の責務は、国民に容易に理解される形でなされるべきであり、従って「物価」の定義は国民が消費している財サービスの価格水準を基準とすべきでしょう。すなわち、消費者物価指数あるいは概念的に同種の物価指数によって「インフレ率」を測るのがふさわしいと考えます(概念的にみても、カバレッジからみても、GDP統計家計消費支出に基づくフィッシャー型物価指数が、問題はあるもののおそらくもっとも望ましい指数だと考えられますが、現実問題として政策にそれを利用するのは不可能な状況ですので、消費者物価指数で「インフレ率」を測ることになります。また、すでに他の場所で指摘しておりますが、経済統計の専門家の間では、過去にしばしば問題とされた消費者物価指数のバイアスは日本では存在したとしても小さいというコンセンサスがあります)。

 一方、国民はまた、モノを生産しサービスを供給する生産者である場合もあります。産業機械といった生産財の価格の動きは、多くの場合、消費財の動きとは同じではありません。そして、これらの生産財と消費財の価格比、つまり相対価格は当事者の経済活動、そして景況感に大きな影響を与えます。輸入財についても交易条件という相対価格の影響を通じて経済に大きな影響を与えます。このように経済状態を判断する時、生産財価格や輸入財価格も重要な判断材料ですが、これは相対価格の変化の影響として捉えるべきでしょう(さらに若干技術的なことを追加しますと、よく話題になるGDPデフレーターやそのコンポーネントである家計消費支出デフレーターには、ここでは詳しくは述べませんが、推計値が利用可能になるまでにラグがあること、一次速報から二次速報、確報、確々報、更に基準改定と、頻繁にそして時によると政策判断の方向性が変わってしまう程度に変わる可能性があること、さらにいわゆる「ドリフト」の問題等があり、重要な判断材料ではありますが、それを基に判断して機動的に政策を行う、というのには躊躇せざるを得ません。ただし、これはGDPデフレーターやそのコンポーネントの作り方に問題があると言っているのではありません。それどころか、こうした作成方法は、経済をできるだけ正確に捉えるために必要なやり方なのです。ただ、残念ながら政策判断の基になる機動性は持っていないのです)。

 以上のようなことを勘案すると、経済・物価情勢の判断に当っては、「インフレ率」として、消費者物価指数を中心とし、生産財や輸入財等の相対価格にも周到に検討しながら判断を下すことになります。

 次に、政策運営の指針として適切なインフレーション指標に何を含めればよいか、という問題ですが、「物価の安定」という場合には、長期に亘る安定を意図していることから考えて、原則として一過性のショックはインフレーション指標からは外した方が良いことになります。そのため、現在、消費者物価指数をみる場合には、実際に天候に依存する生鮮食料品を除いています。さらに原油価格等エネルギー価格については、それが一過性のショックなのか、それとも長期的な変化なのかによって、インフレーション指標に入れるべきかどうかの判断が決まることになります。

 歴史的にエネルギー価格の比重が大きく、且つその変動が大きかった国においては、エネルギー価格はインフレーション指標に入れない場合があります。しかしながら、そうした国においても、現在のエネルギー価格の上昇が一過性のショックとは言い難くなりつつあることから、暗黙のうちに対象とするインフレーション指標の中にエネルギー価格を入れて考える方向に向かいつつあるようにみえます。従って、現在のところ、政策運営の指針に資する物価指標として考えるべき範囲については、両にらみで総合的に判断するのが望ましいと考えています。

 将来、量的緩和政策の枠組みを変更する場合には、日本銀行当座預金残高を所要準備の水準に向けて削減し、金融調節の主たる操作目標を日本銀行当座預金残高から短期金利に変更していくことになります。その後も極めて低い短期金利の水準を経て、次第に経済の実勢に見合った金利水準に調整していくことになると考えられます。従って、量的緩和解除時点での枠組みの変更それ自体は、コミットメントが成就した時点ですでに時間軸は消えており、政策効果について非連続的な変化を伴うものではないことは、もう一度明確にしておきたいと思います。医者と患者のたとえで言い換えれば、時間軸が短くなるにつれて医者が投与するモルヒネはすでに少なくなっています。そして時間軸が消滅するときは、そもそも非常に少なくなっていたモルヒネの投与をただ止めるだけのことなのです。そこで何か非連続に変化が起こるわけではありません。そして将来の政策の透明性を高めるために、その時点でその後の政策の基調がわかるような「道しるべ」を示すことになると思います。ただ、具体的にどう進めていくかは、先行きの経済・物価の展開や金融情勢に大きく依存するため、金融市場の状況、円滑な金利形成など、今後の情勢変化に応じて適切かつ機動的に対応していきながら実施していくことになります。

(3)政策の柔軟性と透明性

 金融政策の柔軟性と透明性の確保は、中央銀行にとって最大の課題の一つであり、世界各国の中央銀行はこれに向けて努力を続けています。

 中央銀行に透明性の向上が求められるのは、物価の安定を図るという公的使命を担う中央銀行にとって、その政策決定の過程や政策効果についての考え方に関して説明責任が求められるからです。これは当然のことですが、同時に、市場との対話を円滑に行い、政策効果について人々に誤解を生じないようにすることで政策の有効性を高める上でも、透明性の向上は重要です。

 その一方で、先行きの政策の柔軟性、機動性を奪うような形にならないように注意しなければなりません。特に現在の日本は、構造変化の真っ只中であり、過去の経験が必ずしも将来の予想の助けにならない可能性があるので、なおさらだといえましょう。

 現在、日本経済は、90年代後半から2000年代初頭の「危機」型の経済から、「普通」型の経済への転換期にあるといって良いでしょう。ここで「普通」の経済とは、端的に言えば、マクロの需給ギャップに対して価格が十分に反応しインフレ率が上昇する経済です。これに対して90年代後半から2000年代初頭の経済は、需給ギャップに対するインフレ率の感応度が著しく弱い、「危機」型の経済でした。

 英語に、You can take a horse to water, but you can't make him drink.という諺があります。馬を水辺に連れて行くことは簡単だが、水を飲ませることはできない、ということです。これを下敷きにすると、90年代後半から2000年代初頭の「危機」型の経済は、「馬が憔悴しきっていて水を飲もうともとしない状態」でした。これに対して、普通の経済は、「馬(経済)がいつも水を飲みたがって駆け出そうとしている状態」といえます。

 現状は、この「危機」型の経済から、「普通」型の経済へのゆるやかな移行期にあると考えるのが自然であろうと思います。需給ギャップに、インフレ率が「普通」の経済のようには十分に反応しない状況が、現在のところ続いています。「普通」の経済に向かう蓋然性は高いが、どのくらいの期間がかかるか、さらにはどのような「普通」の経済になるかは、まだ不透明であるといわざるを得ません。ただし、そうした不透明性は今後次第に解消していくでしょう。

 こうした時には柔軟性を持つことが重要となります。普通の状態にふさわしいことが、まだ危機から回復途上の状態にふさわしいとはいえないからです。先ほど量的緩和解除の説明で、医者と病人の例を出しましたが、病気から回復途上の人には、その時点時点で、様々なリスクを勘案しながら、臨機応変に対処すべきでしょう。すでに申し上げた「道しるべ」もこうした柔軟性を持ったものでなければなりません。

 もちろん、「普通」の経済になるにつれ、こうした経済環境の不透明さが次第に低減することから、対処するための柔軟性は、それまでに比べれば必要性は下がっていくでしょう。その場合は、政策の透明性の方が重要になると思われます。いうまでもなく、経済や金融は生き物であり、時々刻々環境が変化していきます。従って、将来の政策を前もって具体的に示すという政策の透明性は、時々の状態に応じて望ましい姿が変わるという点はご理解いただけるのではないかと思います。

4.地域活性化に向けて

(1)富の再配分ではなく、地域への志のある投資を

 これまで日本経済の現状や先行きを見通す上でのポイント、金融政策運営のポイントについて、私なりの考え方を申し上げて参りました。その中で、まず、生産、雇用面などにおいては地域間のばらつきはむしろ大きく、日本経済が新しい発展の世紀を迎えるためには、地域経済に資源の最適配分という経済合理性に合致した新しい発展の枠組みを生み出す必要がある、と指摘しました。さらに現在の「世界的不均衡」を解消していくには、中長期的にみて日本においても、日本への投資、ここでの投資には人的資本も含まれますが、日本への、つまり地域への投資がこれから拡がっていくことが重要であることを指摘しました。

 地域経済のばらつきの背景には、人口・働き手減少のスピードや産業構造など、各地域の構造面における差異が存在します。こうした地域課題に対し、従来は国主導、全国一律の財政出動・公共事業といった伝統的手法によって対応してきました。それは90年代を通じて、民間部門が血のにじむ「見えざる構造転換」を進めている時も、本質的に変わらなかったのです。それは新しい地域への投資というよりも、所得や富のゼロサムの再配分という形に近かったことは否めません。結果として、資源の最適配分とは相容れない結果をもたらしたケースも多かったと思います。

 もはや財政制約の面からみても、費用効果の面からみても、伝統的な手法の限界は明らかです。いまこそ、伝統的手法からの「見えざる構造転換」を地域にも起こさなければなりません。まず、地域の特性や文化、人材などを活かした自主的・自立的な取組み、「志のある事業」を自ら考えることが基本です。そしてそれを制度改革で可能になった柔軟性をもつ金融を通し、「志のある投資」で実現させなければなりません。民間のノウハウ、資金を活用した取組み、つまり、地域再生のための「志のある投資」をうまく引き出すことにより、新しい世紀の持続可能な経済発展の実現の途を切り拓くことができるのです。

(2)地域再生税制と「志のある事業」、「志のある投資」

 実は、その基本的枠組みはすでに存在しています。地方公共団体や事業者そして投資家がまだその存在を十分に知らないだけなのです。それは、昨年実現した「地域再生税制」です。

 「地域再生税制」は、私が近年提唱してきた『社会投資ファンド』構想を基礎として制度化されたものです。大胆に単純化すると「社会投資ファンド」は、「志のある投資」を可能にする枠組みです(Nishimura and Saito, On Alternatives to Aggregate Demand Management Policies to Revitalize the Japanese Economy, Asian Economic Papers, Vol.2, 87-125, および西村他編著『社会投資ファンド』有斐閣、2004年参照)。

 地域には、単独の損得勘定だけでは今ひとつだが、その地域や地域を越え日本全体の厚生を高める波及効果が大きく、かつ新しい雇用の機会を作り出すことができる「志のある」民間事業の種が実は多く存在します。これを実現するためには広汎な「志のある投資」が必要です。そのため、「ファンド」の仕組みを活用し、税制上の優遇措置(減税)で、民間の投資を損得勘定では必ずしも儲からない「志のある事業」へ誘導する必要があります。見方を変えると、国が税金を取ってそれを地域に箇所付け、分配するのではなく、納税者が自らの判断で地域の「志のある事業」を選び、そこに収益性だけを勘案するのではない「志のある投資」を投入する、という枠組みなのです。このようにして、これまで採算に乗らず有効需要化していなかった需要を有効需要化し、新しい技術を作り出し、広い意味での公共財供給システムを民間主体で構築することができるのです(地域再生税制の仕組みは、付録を参照してください)。

5.終わりに

 昨日、当地に初めて参りまして、幾つかの企業をご訪問させていただく貴重な機会を得ました。最後に簡単ではありますが、こうした貴重な経験なども踏まえ、当地の印象について、私なりに感じたことをお話させていただければと思います。

 そもそも当地は「瀬戸内海国立公園」(昭和9年指定、全国初の国立公園)の中心に位置し、自然豊かで風光明媚な土地というのが私の乏しい地理の知識でした。当地を実際に訪れ、香川県が全国一小さい県にもかかわらず、産業構造はバランスがとれ、香川県と全国の産業構造はほぼ似通っているということ、さらに、様々な分野で全国一・世界一を誇る元気な企業も多く存在していること、などを知り、感銘を受けました。また、「さぬきうどん」、「オリーブ」、「マーガレット」といった全国一の生産量を誇る特産物があり、出世魚として親しまれている「はまち」(養殖による生産量は全国6位)については、東かがわ市の海水池が全国で初めて「はまちの養殖」に成功(昭和3年)した発祥地であるということも伺いました。同時に、大型小売店舗の立地店舗数も全国2位で、小売業の激戦区でもあります。これだけみましてもバイタリティ溢れる土地柄であることがわかります。

 また、当地では、真鍋県知事を初め、多くの関係者が、香川フィルムコミッション事業のほか、「瀬戸内海・魚・アート・さぬきうどん」といった香川県の魅力を広くPRするなど、観光立県に向けた取組みに努力されております。さらに、香川県では、香川大学の稀少糖研究センターを中心とした産学官連携により、稀少糖を核とした「糖質バイオクラスター事業」など、知事が本部長となった研究が展開されているとも聞いております。

 こうした本来当地が持っている「ダイナミズム」をさらなる活力に繋げるためにも、私が先ほどご紹介させて頂きました社会投資ファンドの考えに基づく、「地域再生税制」を活用した「志のある投資」のスキームを最大限に活用して、地域に対する投資をお考え頂く意義は大きいのではないかと思います。

 ご清聴いただき、誠にありがとうございました。

以上


<付録>

「官」から「民」へ——地域再生税制の仕組み

 「志のある事業」への「志のある投資」を可能にする地域再生税制の具体的な制度について紹介しましょう。「志のある事業」とは、地域再生法上は『認定地域再生計画に記載されている地域再生に資する経済的社会的効果を及ぼす事業を行う株式会社であって、一定の要件に該当するものとして内閣総理大臣が指定するもの(「特定地域再生事業会社」)』が行う事業であり、『この「特定地域再生事業会社」により発行される株式を払込みにより個人が取得した場合には、投資額控除などの、課税の特例の適用がある』ということで「志のある投資」を呼び込むのです。

「志のある事業」:収益は低くても社会厚生を高める事業

 つまり「志のある事業」とは「地域再生に資する経済的社会的効果を及ぼす事業」です。(a)医療、福祉、地域交通など、従来、公的主体が担っていた事業分野や、(b)リサイクル、新エネルギーなど環境負荷の低減、地場産業支援のための試験研究、商品開発、販路拡大などの促進といった政策的意義が高いものであり、一般的に収益性の観点から民間事業者の積極的参入が期待できない事業分野です。具体的には、(1)医療施設、社会福祉施設、教育文化施設、地域交通施設などの公益的施設の整備・運営に関する事業、(2)新エネルギー施設、リサイクル施設等の環境への負荷の低減に資する施設の整備・運営に関する事業、(3)地場産業の支援に資する生産施設、加工施設、流通販売施設、試験研究施設、技能習得施設等の整備・運営に関する事業とされています。

 また、特定地域再生事業会社の指定の要件については、雇用機会の創出や地域経済の活性化という適切な経済的社会的効果を及ぼす事業を行う主体であるかどうか、また、地域再生に資する事業を継続的に実施する主体となりえるかどうかといった観点から、(1)常時雇用者が20人以上であること、(2)地域再生事業を専ら行う株式会社であること、(3)地方公共団体が発行済株式総数の5%以上3分の1以下の株式を保有していること、(4)非上場会社、非店頭登録会社であること、(5)中小企業者であり、大規模法人の子会社ではないこと、が要件とされています。

税制上の優遇措置:「志のある投資」を可能に

 そして、税制上の優遇措置として、(1)投資額控除(特定地域再生事業会社に対する投資額について、投資を行った年分に生じた株式譲渡益から控除)、(2)損失繰越(特定地域再生事業会社の株式について、譲渡損失が生じた場合には3年間の損失の繰越控除)、(3)譲渡益圧縮(特定地域再生事業会社の株式について、譲渡益が生じた場合には税負担を通常の2分の1に軽減する、というものです。

 この税制上の優遇措置を使うと、様々な形の「志のある投資」が可能になります。ここでは個人投資家が株譲渡益に対する譲渡所得税を納税する代わりに、「志のある投資」にその分を「寄付」する、ということも事実上可能になることを説明しましょう。

 今、未公開株を売却して譲渡益1億円を手にしている個人があったとしましょう。譲渡益には20%の税金がかかるので税額は2,000万円、手取は8,000万円です。納税する代わりに譲渡益1億円で特定地域再生事業会社の株式を買ったとすると、課税は繰り延べになり、この年は税金を払わなくて済みます。そして3年後、この事業会社を買収し、その事業を継承する「ファンド」に、当該株式を1,100万円安く、8,900万円で売るとしましょう。つまり、実質的にこの投資家はこの特定地域再生事業に1,100万円を「寄付」するのです。譲渡益は8,900万円に減りますが、特例で半分だけに課税されるので、譲渡税額は890万円となります。売り戻した額8,900万円から譲渡税額を差し引くと、手取額は8,010万円、つまり当初の株譲渡益1億円にかかる譲渡所得税を単純に支払っていた場合とほぼ同じになります。つまり、この個人にとってみれば、株譲渡益の税金の一部1,100万円を、納税する代わりに、特定地域再生事業に寄付したのとほぼ同じことになるのです。

 これを国の立場からみれば、本来国庫に入るべき1,100万円の税金分をこの取引を通じて「志のある投資」に振り向けたのと同じことになります。これは一種の「補助金」ともいえますが、補助金とは違って使途に細かい制限が付いているわけではありません。さらに、上記の例はあくまでも一つの例ですぎません。事業の性格や投資家の事情に応じて、民間の創意工夫が可能な伸縮的な制度なのです。

具体例

 地域再生税制は平成17年4月の「地域再生法」の施行により制度が発足し、これまでにこの制度を活用した地域再生への努力がいくつかの地域で進んでいます。特に、長野県諏訪市の例は特筆されます。新会社(株)SUWA−KEN(仮称)を設立し、諏訪湖湖畔地域再生事業を進めようとしています。現在の日本を作り上げた「ものつくり、ひとつくり」と、これからの「観光・まちつくり」を融合させ、民間資金を主体とする事業として資源配分の効率化を図りながら達成させる試みは、注目に値します。

(添付資料:地域再生本部『地域再生税制について』)