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日本銀行国際局アジア金融協力センター主催国際シンポジウム「アジア通貨危機後10年を経て~アジア経済・金融市場の未来への課題~」における福井総裁開会挨拶(日本語仮訳)

2007年1月22日
日本銀行

目次

  1. 1.はじめに
  2. 2.アジア経済のダイナミズム
  3. 3.域内協力
  4. 4.アジア経済・金融市場の未来への課題
  5. 5.結び

1.はじめに

皆様、おはようございます。アジア金融協力センター(CeMCoA)が主催する初めての国際シンポジウムにお越し頂き、ありがとうございます。CeMCoAは、約1年前に、アジアの中央銀行間協力を推し進めていくことを狙いとして、日本銀行国際局の中に設置されました。

本日、アジアの中央銀行および国際通貨基金から私の親しい友人方をお招きできたことを大変喜ばしく思います。マレーシアのゼティ総裁、タイのタリサ総裁、インドネシアのアブドラ総裁、フィリピンのテタンコ総裁、IMFのラト専務理事、これらの方々にゲストスピーカーとしてご参加頂いたことにお礼を申し上げます。また、本日お集まり頂きました来賓の皆様にも心からお礼申し上げます。

このシンポジウムでは、アジア経済のダイナミズムと中央銀行やIMF間の地域協力について議論したいと思います。アジア経済においては、その高い経済成長から中国やインドに注目が集まり勝ちですが、アセアン諸国の重要性を見過ごすことはできません。日本の企業、金融機関は、これらの国々と親しい関係を長きに渡り築き上げてきました。そして、相互の利益のため、この関係は継続していくでしょう。アジアにおける相互依存関係は、十年前のアジア通貨危機にも拘わらず、既に長い道のりを刻んできています。過去十年の回復と成長が示すように、アジア経済は、次の十年、更なる飛躍を遂げることが期待されています。本日のゲストスピーカーは、その飛躍を支える方々であり、当シンポジウムは、アジア諸国の将来に渡る見方について議論をするとてもよい機会であると思います。

2.アジア経済のダイナミズム

皆様のご記憶にあるように、アジア通貨危機は、1997年7月のタイ・バーツの急激な下落に端を発し、近隣諸国に急速に拡大していきました。アセアンのいくつかの国は、為替・金融市場の大きな混乱の影響を受け、大量の資本の流出による外貨準備の枯渇を招き、金融システムは悪化し、マイナス成長を被りました。その十年後、全ては異なるものとなっています。為替・金融市場は以前よりも安定し、通貨は下落よりむしろ上昇の圧力を受けるようになりました。外国直接投資その他の資本流入は拡大を続け、外貨準備は増加しました。金融システムはリストラクチャリングを通じて強化され、各国経済は着実かつ持続可能なペースで、2000年以降、平均5%の成長を遂げるに至りました。通貨危機後、各国は筆舌し難い困難に直面しましたが、現在の良好な経済状況は、政策努力の成功と、その背後にある経済のダイナミズムの存在を明確に示しています。各国総裁のスピーチにおいて、通貨危機後の各国の変化とダイナミズムについてご教授いただけることを期待しています。

3.域内協力

政策協調に目を向けますと、アジア通貨危機は様々な域内協力の出発点となっています。国際金融アーキテクチャの脆弱性に晒されたことで、アジア各国の財務省、中銀当局は地域間協力の重要性を認識し、問題点の解決に取り組むこととなりました。二国間通貨スワップのネットワークを通じて危機時の流動性を支援する枠組みであるチェンマイ・イニシアティブが、IMFの機能を補完するものとして、アセアン・プラス3の国々により合意されました。

通貨危機の分析に基づき、金融仲介における銀行部門に対する過度な依存を低下させるための努力も行われています。アジア債券市場構想 (ABMI)は、各国の資本市場育成を目的とした、アセアン・プラス3によるもうひとつの取り組みです。また、ABMIと同じ目的の下、東アジア・オセアニア中央銀行役員会議、EMEAPと呼ばれるこれら地域の11中銀・通貨当局は、アジア・ボンド・ファンド・プロジェクトを立ち上げました。EMEAPは、メンバー中銀が保有する外貨準備の一部を共同で運用することにより、アジアの債券に投資する2つの投資信託を創設しています。ひとつは、EMEAP加盟国の米ドル建の公共債に投資するもの、もう一つは、現地通貨建の公共債に投資するものです。これは、市場参加者に便利で低コストの投資手段を提供すると共に、各国の債券市場にある阻害要因を見つけ、取り除くことを狙いとしています。

4.アジア経済・金融市場の未来への課題

域内経済の良好なパフォーマンスや通貨当局・中銀の政策協調の進展に沿って、域内の経済統合の動きが徐々に根付こうとしています。東アジアの域内貿易依存度は、最近では50%近くに達しており、EUには及ばないもののNAFTAに匹敵する水準になっています。二国間や地域間の自由貿易協定がアジア全体に広がっており、これに加えて、アセアンでは2015年までのアセアン経済共同体(AEC)の創設に向けた歩みを加速させています。アセアンにおいて財やサービスの単一市場が形成された時、現在の銀行や他の金融サービスがどのように変化するか、興味深いところです。出来れば、総裁方にAECの今後の見方につき、お話をいただければと思います。

世界中の金融市場が国際化する中、多額の資本フローは開放経済に対して強い影響を与え続けることとなるでしょう。これはアセアンを含む多くのアジアの国々に当てはまります。現在も、そして将来においても、多くの金融当局にとって、為替の安定を保持することと、自由な資本の流れを維持すること、そして独立した金融政策を同時に達成することは、最も難しい課題です。この命題に対する答は、市場の柔軟性にあると思われます。巨額の資本フローによる外生的ショックを吸収する能力を高めるためには、域内全体の為替・金融市場の機能を強化することが最も望ましいでしょう。こうした点に関して、EMEAP中銀による情報交換、深い分析、協調した取り組みは、市場におけるリスクや脆弱性への対応に寄与するものと思われます。そのような共同での活動は、ラト専務理事のリーダーシップの下、新たなる課題に対して広範囲な自己改革を続けているIMFの役割にも関連するでしょう。

5.結び

アジアは、文化、社会構造、経済発展段階において極めて多様であるとよく言われます。アジア経済は多くの点において欧州とは異なっており、我々独自の統合プロセスをたどることになるでしょう。そのような過程の中で、域内協力を通じた市場機能の向上は、企業や金融機関にとってより良いビジネス環境を提供することに寄与し、より効率的な資源配分を導くことに貢献すると見込まれます。十年以上にも渡るEMEAP中銀の活動の歴史は、相互の理解と尊重に基づく協力が、如何なる場合においても可能であることを示しています。

ゲストスピーカーの方々は、本日の論点について様々なご意見をお持ちです。我々も活発な議論を通じ、彼らの考える未来像を分かち合うことができるでしょう。このシンポジウムが、アジア経済のダイナミズムに関する皆様の理解を深めるのに役立つとともに、来る次の十年の域内中央銀行間協力に寄与することが出来れば、それは私のこの上ない喜びとするところです。

ありがとうございました。