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全国証券大会における福井総裁挨拶要旨

2007年9月20日
日本銀行

 本日は、全国証券大会にお招きいただき、誠にありがとうございます。証券業界の皆様には、日頃から、私ども日本銀行の政策や業務運営について多大なるご協力を賜り、厚くお礼申し上げます。

 私からは、最近の金融経済情勢や金融政策運営、ならびに金融システム面の課題などについて、私どもの考えを申し述べ、ご挨拶に代えさせて頂きたいと存じます。

 わが国の景気は、緩やかに拡大を続けています。世界経済は、全体としては、地域的な拡がりをもって拡大を続けており、こうした中で、わが国の輸出は増加を続けています。また、好調な企業業績を背景に、設備投資も引き続き増加しています。生産は、このところ横ばい圏内の動きとなっていますが、内外需要の増加が続く中で、先行きは増加基調を辿るとみられます。家計部門についてみると、こうした企業部門の好調を受けて、労働需給が引き締まり傾向を続ける中、雇用者数は増加しています。一人当たり賃金はこのところやや弱めとなっていますが、雇用者所得は、緩やかに増加しています。こうしたもとで、個人消費は底堅く推移しています。このように、生産・所得・支出の好循環が続いており、日本経済は今後も息の長い成長を続ける可能性が高いとみられます。

 また、物価面については、国際商品市況高などを背景に、国内企業物価は上昇を続けています。消費者物価の前年比は、目先ゼロ%近傍で推移する可能性が高いとみられますが、より長い目でみると、マクロ的な需給環境がタイト化していることから、プラス基調で推移していくと考えられます。

 もちろん、世界経済の動向など、こうした先行き見通しへのリスク要因も十分念頭に置く必要があります。米国では、サブプライム住宅ローン問題の拡がりを背景に、景気の先行きについての不確実性は高まっています。また、金融市場では、8月上旬以降、世界的に振れの大きい展開となっています。こうした市場の動きは、基本的には市場参加者によるリスク再評価の過程とみられますが、金融市場の変動は、住宅金融、企業金融や家計・企業マインドなどの面から世界経済に影響し、ひいては、わが国の経済・物価にも影響を与える可能性があります。したがいまして、金融資本市場や世界経済の動きについては、引き続き注視していく必要があると考えています。

 今後の金融政策運営に当たっては、引き続き、日本経済が物価安定のもとで持続的な成長軌道を辿る蓋然性が高いことを確認し、リスク要因を点検しながら、経済・物価情勢の改善の度合いに応じたペースで、徐々に金利水準の調整を行っていくことになると考えています。今後公表される指標や情報、内外の金融市場の状況などを丹念に点検し、見通しの蓋然性とそれに対するリスクをさらに見極めた上で、適切な政策判断を行っていく所存です。

 次に、金融システムに関して、一言申し述べます。

 世界の金融資本市場は、1990年代以降、劇的な変化を遂げてきました。ヘッジファンドをはじめとする投資家の多様化に加えて、証券化やデリバティブを中心とする金融技術革新の進展や、リスクマネー市場の急拡大がこれに当たります。こうした金融市場の変化は、M&Aの増加などを通じて、世界規模での産業界の再編も促してきました。近年の長期にわたる世界経済の拡大も、こうしたグローバルな金融資本市場の変革を抜きに語ることはできません。

 そうしたなかで、先に触れた米国のサブプライム住宅ローンの問題が生じました。とくに夏場には、米欧におけるCDOやABCPなどの証券化市場の機能が大きく低下し、現在も十分に回復するには至っていません。もちろん、今回の問題は、これまでの金融資本市場の変革の意義を損なうものではありません。しかし、市場の革新が加速するもとで、リスクが複雑な商品や市場流動性の低い商品に関するリスク管理の体制や技術が必ずしも十分に追いついてこなかったこと、あるいは、市場参加者のリスクに対する感度が幾分鈍っていた可能性があることも否定できないように思います。

 わが国の場合には、金融機関のサブプライム関連商品への投資規模は小さく、現時点において、わが国金融システムの安定性に大きな影響を及ぼすものとはみられません。ただ、新しい金融商品のもつリスク特性の複雑さに鑑みれば、市場参加者におかれては、やはり、金融商品のリスク・リターンの性格や量を的確に把握・管理していくことが重要と考えられます。また、わが国金融資本市場の一層の競争力強化を図っていくためにも、市場全体の観点から、これに内在するリスクの質、量、所在を見極め、適切に対応していくことが重要な課題となります。

 私ども日本銀行としても、引き続き各国中央銀行や内外当局との連携を密にし、金融資本市場の機能度を的確に把握するとともに、決済システムをはじめとする市場インフラの整備やリスク管理高度化の支援に努めていく考えです。証券界を代表する皆様方とともに、わが国金融資本市場の機能向上に向けて力を尽くしていく所存ですので、なにとぞよろしくお願いします。

 最後になりましたが、皆様方のますますのご発展を祈念して、私からのご挨拶といたします。ご清聴ありがとうございました。

以上