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【講演】「最近の金融経済情勢と金融政策運営」
日本外国特派員協会における講演
日本銀行副総裁 西村 清彦
2008年9月29日
英訳は、Recent Economic and Financial Developments and the Conduct of Monetary Policyをご覧下さい。
目次
- はじめに
- 2002年以降の景気回復のメカニズムの特徴点:成長エンジンの多様化と交互に発生した小さなショック
- 日本経済の現状
- 一次産品価格高の背景
- サブプライム住宅ローン問題とグローバルな金融混乱
- 日本経済の先行きの見通しとリスク要因
- 2002年以降の景気回復期における低インフレとエネルギー・原材料価格高
- 先行きの物価情勢の見通しとリスク要因
- 当面の金融政策運営
はじめに
日本銀行の西村でございます。本日は、外国特派員協会でお話する機会をいただき、大変嬉しく存じます。本日は、まず、最近の金融経済情勢や先行きの見通しについてお話した後、金融政策運営の考え方について、お話したいと思います。
2002年以降の景気回復のメカニズムの特徴点:成長エンジンの多様化と交互に発生した小さなショック
日本経済の現状を分析する上で、2002年以降の経済動向を振り返ることが有益であると思います1。
日本経済は、2002年初をボトムに景気拡大を続けてきました。この間の実質GDP成長率は、平均すると2%程度と決して高いものではありませんでしたが、潜在成長率を上回る安定的な成長が長期に亘り続きました。このような安定的な成長が実現したのは、様々な産業における需要の変動が一様に低下して生じたのではなく、様々な産業における小さな需要変動が互いに打ち消しあうことで達成されました。実際、この時期には、生産活動の高まる時期が、産業間でばらついていました。
過去の景気循環では、様々な産業の生産活動の増加や減少が同じような時期に生じることが特徴的でした。典型的なのは、いわゆるITバブルとその崩壊に伴う景気循環です。当時は、IT関連財の生産だけでなく、他の財の生産もIT関連財の増加と減少に連れて変動しました。しかし、2002年以降の景気回復局面では、状況は異なりました。IT関連財の生産が低下する局面では、素材産業の生産が増加するなど、長い景気回復局面において主役が次々と交替してきました。
このような変化が起きた理由としては、経済のグローバル化と深く関係する2つの要因が考えられます。第一に、需要サイドの要因として、世界経済の成長のエンジンが多様化していることが挙げられます。中国、インド、ロシア、中東諸国などで高い経済成長が続き、日本からこれらの国々に対する輸出も大幅に伸びました。この結果、日本からの輸出の中身をみると、それまで主力であったIT関連財や耐久消費財だけでなく、建機や素材など多様な財の輸出が伸びていました。第二に、供給サイドの要因として、国際分業の進展に伴い、国内における産業間の連関が低下したことが挙げられます。例えば、ある財の国内需要が低下しても、その財を生産するために必要な材料が、国内ではなく輸入でまかなわれている場合、国内の他の産業へマイナスの影響が及ぶのではなく、輸入が減少するというかたちで、マイナスのショックが吸収されました。
このように、需要と供給のそれぞれの要因により、生産活動の同時性が薄れ、様々な産業における小さな需要ショックと供給ショックが打ち消しあった結果、マクロの成長率は非常に安定したものとなりました。しかし、同時に、これは、全ての産業に影響を及ぼすような強力な成長のエンジンが無かったということも意味します。このため、経済成長のスピードも非常に緩やかなものとなりました。実際、2002年以降の景気回復は、外需が牽引役となり、企業部門を中心として成長してきました。企業収益はそれ以前のピークを超える水準に達し、設備投資も着実に増加しました。もっとも、全体の成長率が緩やかなものにとどまったため、企業は、雇用・設備などの面で慎重な対応をとってきました。また、賃金についても抑制的な姿勢を堅持しました。こうした企業の慎重な行動は、過剰な設備や雇用を抱えこまないというメリットをもたらした一方、家計部門にとっては、賃金がなかなか上昇せず、消費が盛り上がりに欠けた展開となったことの1つの要因であったと思います。
- 1この点に関する詳細は、Kiyohiko G. Nishimura, "Increased Diversity and Deepened Uncertainty: Policy Challenges in a Zero-Inflation Economy," International Finance 10:3, 281-300, (2007)を参照してください。この論文は、2007年7月に行ったブルッキングス研究所におけるスピーチをもとにしています。
日本経済の現状
このように、日本経済は、力強さには欠けるものの、長期に亘り安定した経済成長を続けてきましたが、昨年末以降、成長率は鈍化しました。
まず、改正建築基準法施行に伴い、住宅投資、建設投資が減少しました。更に、この間、原油をはじめとするエネルギー・原材料価格が大幅に上昇し、海外への所得流出が大幅に増加しました。家計や企業にとっては、実質所得の減少となるため、個人消費や設備投資、特に輸出の増加の恩恵を受けない内需依存度の高い中小企業の設備投資に対してマイナスの影響が出てきました。
最近では、世界経済減速の影響により、輸出の伸びが鈍化しています。サブプライム住宅ローン問題に端を発する米国の金融市場の混乱は、米国や他国の経済活動に影響を与えてきています。現在、日本経済は、エネルギー・原材料価格高や輸出の増勢鈍化などを背景に停滞しています。従って、先行きの日本経済をみていく上では、エネルギー・原材料価格の動向、サブプライム住宅ローン問題に端を発する金融市場の問題をどうみるかが非常に大事です。特に、後者については、金融市場の混乱が、実体経済に与える影響、とりわけ米国実体経済に対する影響に注視する必要があります。
一次産品価格高の背景
そこで、まず一次産品価格の動向についてお話します。現在の一次産品価格高の要因としては、主に3つの要因が挙げられます。第一に、エネルギー効率が必ずしも高くない新興国における需要の高まりです。これらの国々の成長率が高く、必要とされるエネルギー・原材料の需要も大きく伸びています。第二に、供給面での要因が挙げられます。天然資源は、需要が急激に伸びたとしても、供給をすぐに増やすことは出来ません。供給量を増やすためには、大規模な設備投資を行う必要がありますが、実際に産出量が増えるまでには、かなりの時間がかかります。更には、環境問題や地政学的な問題により、増産のための設備投資がなかなか実現しないという場合もあります。第三に、金融的な要因が指摘されます。サブプライム住宅ローン問題に起因する金融市場の混乱により、投資家は、複雑な金融商品に投資するよりも、より単純なコモディティーへの投資を増やしてきたといわれています。こうした、いわゆる「flight to simplicity」という動きが、一次産品価格の高騰に貢献した可能性もあります。今回の資源価格高が、金融市場の混乱が始まる以前に既に発生していたことを勘案すると、一次産品価格の傾向的な上昇の背景には、需要要因が根本的な要因としてあると考えられます。もっとも、7月までの急激な資源価格の高騰については、供給制約や金融的な要因が影響を与えてきた可能性も否定できません。7月半ば頃から、原油価格をはじめとする一次産品価格は反落していますが、もし新興国の成長という需要要因が根本にあるとすると、一次産品価格は、当面、高水準で推移するとみています。
サブプライム住宅ローン問題とグローバルな金融混乱
次に、サブプライム住宅ローン問題と、その結果として生じ、現在も続いているグローバルな金融混乱について、お話したいと思います。
金融市場では、多くの投資家が存在し、それぞれが、流動性、収益、リスクについて異なったニーズを持っています。金融機関は、このような様々な投資家に対して、様々な金融商品を提供することにより、効率的な金融仲介の機能を果たしています。証券化というイノベーションによって、様々な投資家のニーズに合わせた幅広い金融商品を数多く作り出すことができました。新たに導入された証券化商品に対する信頼を高めるため、銀行による流動性保証、モノラインによる保証、証券化商品に対する格付けなど、様々な「補助的道具」が考え出され、使われてきました。さらには、金融機関自身が、取引を活発化させると同時に収益を得る目的で、こうした証券化商品市場において、活発に取引を行いました。
金融商品に対する投資家の信認は、2007年春、いくつかのサブプライム関連証券化商品の価格が大きく下落した時に、大きく揺らぎました。このような証券化商品の価格下落は、それ以前には考えられないものでした。これにより、これまで金融機関に利用されてきた証券化商品に対する格付けの情報が、結局のところ間違っているのではないか、という疑念が生じました。時間が経つに連れ、証券化商品の価値に対する信認の喪失は、明確なものとなりました。証券化商品の価値に対する信認が低下するに連れて、投資家は非常に慎重になり、取引を控えるようになりました2。これが、証券化商品の更なる価格下落につながり、一層、証券化商品に対する信認の低下につながりました。更には、金融市場の動揺と実体経済の悪化の悪循環という、過去にもよく見られた現象が、最近になって現れてきています。
ここ数週間、グローバル金融市場は、非常に混乱しています。株価は大幅に変動していますし、各種の信用スプレッドは拡大しています。また、流動性需要は高まっており、「質への逃避」も顕著となっています。ドルの短期金融市場における調達圧力を緩和するため、9月18日に、6中央銀行は、ドルの流動性供給のための協調策を公表しました。また、米国政府は、米国の金融機関が保有している不良債権を買い上げる計画を公表しました。不良債権の買い上げは、いくつかの点で、非常に重要な政策であると思います。第一に、不良債権の買い取りにより、これらの資産市場における流動性が高まり、市場における値付けが促されるきっかけとなります。第二に、この施策により、金融機関のバランスシートの透明性が増し、投資家は金融機関の状態について評価を下すことが出来るようになり、不確実性も大きく低下することになります。国際金融資本市場を巡る不確実性は、依然として高い状態が続いていますが、政府や中央銀行による一連の政策が、グローバル金融市場の安定に貢献し、世界経済成長の回復につながることを期待しています。
- 2これは、一見、過度に慎重な行動にみえますが、非合理な行動ではありません。合理的な投資家が、金融機関が提供する投資のアドバイスについて95%の信頼を持っていますが、残りの5%は、そうした投資のアドバイスが間違っているかもしれないと考えるとします。この場合、投資家は、最悪のケースを考慮に入れ、それを避けるための努力を行うと考えるのが自然です。決して、単純に金融機関のアドバイスを所与として、利潤の最大化をはかるわけではありません。このような意思決定は、信頼に関するε-contaminationと呼ばれる状況です。詳しくは、Kiyohiko G. Nishimura and Hiroyuki Ozaki, "An Axiomatic Approach to Epsilon Contamination," Economic Theory, 27: 2, 333-340, (2006)を参照してください。
日本経済の先行きの見通しとリスク要因
それでは次に、日本経済の先行きについて述べたいと思います。
現在の中心的なシナリオとしては、景気の先行きは、エネルギー・原材料価格高の影響と海外経済の減速に伴う輸出の増勢鈍化などから、当面、停滞を続ける可能性が高いとみています。問題は、日本経済が深い調整局面に陥るかどうかですが、その可能性は大きくないと判断しています。
その第一の理由は、90年代から比較的最近まで続いた日本企業のリストラ努力の結果、設備・雇用・債務のいわゆる「3つの過剰」が解消しており、景気の下振れをもたらすショックに対する日本経済の頑健性が高くなっていることです。第二に、サブプライム住宅ローン問題による日本の金融機関の損失は、欧米に比べ限定的です。国際金融市場の混乱が、日本の金融市場に影響するような場面もみられる場合がありますが、金融システムの機能は、引き続き良好な状態が続いています。そして、第三に、緩和的な金融環境が挙げられます。建設・不動産業や中小企業では、資金繰りが厳しさを増しつつあり、注意が必要です。しかし、政策金利であるコール・レートは0.5%という低い水準にあり、消費者物価上昇率を引いた実質短期金利はマイナスとなっています。こうした金融環境は引き続き企業活動を下支えするものとみられます。
このように考えますと、先行きの日本の景気については、国際商品市況が落ち着き、海外経済も減速局面を脱するに連れて、次第に緩やかな成長経路に復していく姿が中心的なシナリオとして想定できます。
ただし、こうした経済見通しには不確実性が大きく、様々なリスク要因があります。先ほど触れた国際金融資本市場は当面不安定な状態が続くと見込まれ、世界経済には下振れリスクがあります。また、国内でも、エネルギー・原材料価格高による所得の海外流出によって、内需が更に下振れるリスクがあります。このため、日本経済は設備や雇用面で調整圧力を抱えていないとはいえ、景気の面では下振れのリスクを意識しています。
先ほど、2002年から始まった景気回復の特徴点として、成長のエンジンが多様化したことと、各産業における小さなショックが打ち消しあったことを指摘しました。しかし、現在は、エネルギー・原材料価格高とサブプライム住宅ローン問題というグローバルに共通した2つの大きなショックが発生しています。2つの大きなショックが、グローバルに同時に影響を及ぼす場合、今度は、産業間・企業間の同調性が高まり、相互依存関係を通じて、負の方向の力が増幅されるリスクがあります。実体経済の動向については、下振れリスクに注意してみていく必要があります。
2002年以降の景気回復期における低インフレとエネルギー・原材料価格高
それでは、次に物価動向についてお話をしたいと思います。はじめに、2002年以降から昨年夏頃までの物価動向についてお話し、次に、エネルギー・原材料価格高によるインフレの可能性についてお話いたします。
先ほども述べましたとおり、実質GDPの成長率は、2002年以降、平均すれば2%程度と潜在成長率をやや上回る水準で推移してきました。これに伴い、大幅なマイナスであった需給ギャップも緩やかに縮小し、過去の平均的な稼働水準にまで回復しました。しかし、このように需給ギャップが改善する中にあっても、消費者物価上昇率は、昨年半ば頃までは、ゼロ%近傍で推移してきました。需給ギャップが改善する中でも物価の変動が小さかった理由としては、2つの原因が指摘できます。
第一に、グローバル化や規制緩和を背景に競争環境が激化したことが挙げられます。グローバリゼーションについてみると、新興国が世界経済に組み込まれていく過程において、これらの国々は豊富で安価な労働力を梃子に、世界の供給拠点としての地位を築いてきました。これらの国々からの安価な財の輸出は飛躍的に増加し、これによって輸入国における競争環境は激化し、需要が回復する中にあっても、物価はなかなか上昇しませんでした。また、国内の規制緩和としては、例えば、大規模小売店舗の規制緩和が挙げられます。これによって流通・小売分野における競争環境が、企業規模にかかわらず、激化しました。競争相手への顧客の流出を恐れる小売業者などは、需要が回復する中にあっても、価格を引き上げることが出来ませんでした。
第二に、賃金が一貫して弱めの動きを続けたことが挙げられます。この理由としては、第一の点にも関連しますが、安価な労働コストを背景とした新興国の台頭が挙げられます。しかし、日本においては、これ以外にも、賃金が弱めに推移した理由がいくつかあります。まず、賃金水準の低い非正規雇用が大幅に増加したことです。また、賃金水準の高い団塊の世代が退職し、賃金水準の低い若い世代が代替したことも、マクロでみた賃金水準を抑制する方向で働いたと考えられます。更には、厳しい財政事情を背景に、公務員や公共関連部門の給与が抑制されたことも、他のサービス業への波及を伴いつつ、影響してきました。やや長い目でみると、低いインフレ率が続いてきたことにより、民間経済主体の中長期的なインフレ予想が低い状態が続いてきたことも影響していると思います。
このように長期に亘り低インフレの状態が続きましたが、昨年末以降、状況は大きく変わってきています。原油価格などの国際商品市況の大幅な価格上昇を背景に、国内企業物価は大幅に上昇しており、8月の前年比は+7.2%となりました。消費者物価段階でも、物価は上昇しています。具体的には、ガソリン、灯油などの石油製品や加工食品などの価格が上昇しています。また、サービス分野でも間接的にエネルギー・原材料価格上昇の影響が見られます。外食や電気代などが代表的な例です。昨年第4四半期には、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、+0.5%でしたが、8月には+2.4%にまで上昇しています。一方、エネルギー・食料品を除いた消費者物価の前年比は、最近緩やかに上昇しているとはいえ、ゼロ%近傍で推移しています。したがって、足もとの消費者物価の上昇は、基本的には、高騰する国際商品市況とその価格転嫁の影響が現れているとみています。
先行きの物価情勢の見通しとリスク要因
日本銀行は、2006年に「中長期的な物価安定の理解」を初めて公表し、毎年、その点検を行ってきています。政策委員は、中長期的にみて物価が安定していると理解する物価上昇率を念頭に置いた上で、金融政策を運営しています。現在、この「中長期的な物価安定の理解」は、消費者物価上昇率でみて、0から2%程度の範囲内にあり、委員毎の中心値は、大勢として1%程度となっています。
足もとの消費者物価上昇率の数字は、こうした「中長期的な物価安定の理解」という言葉で呼んでいる物価安定の範囲の上限を超えています。ただし、物価安定はあくまでも、それが中長期的に持続し得るかどうかという観点から判断すべきものです。この際、重要なことは二次的効果が発生するかどうかです。この点では、物価安定への信認が維持されているかどうかが決定的に重要ですが、これは、最終的には金融政策の運営スタンスに規定されます。このことを指摘した上で、我々の判断を申し上げると、現在の需要環境の弱さ、物価上昇に対する家計行動、企業の価格設定行動などからみて、現在は先ほど述べたような二次的効果が直ちに発生する情勢にはありません。二次的効果の発生の有無を判断する上で1つの重要なデータは賃金の動きですが、現在のところ、賃金の伸びは弱含んでいます。
結論から申し上げますと、消費者物価は、これまで上昇した輸入価格の転嫁の動きが続き、しばらくは高めの上昇率が続くとみられます。しかし、その後は、国際商品市況の上昇が緩やかとなり、価格引き上げの動きが一巡するに連れて、徐々に上昇率が低下すると予想されます。
物価面では、上振れリスクの方を意識しています。先ほど申し述べたとおり、新興国の成長を背景に、エネルギー・原材料価格は長期に亘って上昇しており、これを「一時的」と考えるわけにはいきません。また、わが国では暫く経験してこなかった物価上昇率となっているだけに、今後、家計のインフレ予想や企業の価格設定行動が変化する可能性もあります。これらのことを念頭に置きますと、今後とも、物価の上振れリスクに注意していく必要があります。
当面の金融政策運営
それでは最後に、金融政策運営についてお話します。日本銀行は、2006年3月に「金融政策運営の枠組み」を導入し、これに沿って説明を行ってきています。具体的に申し上げれば、まず、先行き1年から2年程度の経済・物価情勢についての中心的な見通しが、物価安定の下での持続的な成長の経路をたどっているかどうかということをチェックします。これが「第一の柱」です。次に、中心的な見通しに関して、様々なリスク要因を点検しています。これが「第二の柱」です。以下では、こうした枠組みの下で先行きの金融政策運営についての考え方をお話したいと思います。
まず、「第一の柱」、すなわち、経済・物価情勢に関する中心的なシナリオについては、当面は、景気については停滞した状態が続く一方、消費者物価については、2%を超える水準が続くとみています。その後は、国際商品市況が落ち着き、海外経済も減速局面を脱するに連れて、わが国経済は、次第に緩やかな成長経路に復していくと予想されます。また、物価については、エネルギー・原材料価格高とその転嫁の動きが一巡してくれば、消費者物価の上昇率は、徐々に低下していくと予想されます。このように、わが国経済は、当面停滞が続いた後は、物価安定の下での持続的な成長経路に復していくとみています。
次に、「第二の柱」、すなわち中心的なシナリオに対するリスク要因の評価については、現在は、景気の下振れリスク、物価の上振れリスクの双方に注意が必要な局面にあります。さらに、景気の下振れリスクが薄れる場合には、近年の世界経済の経験が示すように、緩和的な金融環境の長期化が経済・物価の振幅をもたらすリスクも意識する必要があります。
金融政策運営に当たっては、引き続き、先行きの経済・物価の見通しとその蓋然性、上下両方向のリスク要因を見極めた上で、それらに応じて機動的に政策運営を行っていく方針で臨んでいます。また、国際金融資本市場が不安定な状況が続くほか、様々な不確実性が高い下では、国内金融市場の安定をしっかり確保していくことが、私ども中央銀行にとって、大事な課題であると考えています。
現在の世界経済は、大変厳しい状況に直面しており、日本経済も例外ではありません。金融市場、実体経済、物価のいずれにおいても、非常に不確実性が高い状況となっております。こうした状況においては、私どもの情勢判断や政策に対する考え方を皆様に丁寧に説明していくことが必要であると考えています。したがって、政策担当者である私どもは、good communicatorである必要もあります。必要な情報を的確に伝えることによって、政策の信認が高まっていくと思います。また、グローバル化が進む下で、海外に向けた情報発信の重要性は益々高まっています。これらの点については、情報伝達のプロである皆さんとも認識を共有できる点が多いのではないかと思います。
今後とも、的確な情勢判断と適切な政策運営を行うとともに、適時適切な情報発信を行っていきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。
以上